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創作フォーマットとしての2ちゃんねる

今年も2ちゃんねるのスレッドで体験記の体で書かれたスレがいくつも話題になった。代表的なのはこのあたりでしょうか。「風俗行ったら人生変わった」とかも有名ですね。2011年かつハム速での掲載(削除済み)だったので載せません。

ゲーセンで出会った不思議な子の話:哲学ニュースnwk
俺のクラスでシャーペンの芯が通貨になった話:キニ速
変な団体に勧誘されてるんだが・・・。 - ゴールデンタイムズ
俺の嫁がこんなに腐れアマなわけがあった:キニ速
まどマギ映画やるし架空の魔法少女作ってまど豚釣ろうぜwwwwww - ゴールデンタイムズ

こういう、なんていうのだろう、スレの人たちの突っ込みを受けながら物語を紡いでいくかたちが世に出たのって「電車男」が先駆けなのかな。まぁここまでの歴史で死ぬほどたくさんあるんだろう。安価で何かを指定していくのもその1つかもしれない。これをメタ的に受けた創作形態がおもしろいなって思ってる。

それが「2ch風小説」。
2ch風小説 (にちゃんふうしょうせつ)とは【ピクシブ百科事典】

2ちゃんねるのスレッド風に仕立て上げられた小説の名称。某大型掲示板のスレッドのごとく登場人物達の発言がレス形式で続いていく掲示板仕立ての読み物。(略)
フィクション作品としての2ch小説の前身と呼べるネタに「もし○○に2ちゃんねるがあったら」系スレッドがあり、それを受ける形で発展した「ミサカネットワークSS」、またpixiv小説内で独自発達した文化として「○○ちゃんねる」がある。

Pixivはイラスト以外に小説も投稿できる。シリーズものにしたりイラストと連動できたりする。
例えば、コミケ騒動で話題になった「黒子のバスケ」。二次創作がすごく盛り上がってるのだけど、その世界にもし2ちゃんねるがあったら、という設定の小説には「くろちゃんねる」というタグがついてる。

くろちゃんねる (くろちゃんねる)とは【ピクシブ百科事典】
「くろちゃんねる」の小説検索一覧 [pixiv]

Pixivよく見ている子に聞いたら、「~ちゃんねる」系がガッと増えた感じがしたのはタイバニかなぁ、と言っていた。
シュテルンちゃんねる (しゅてるんちゃんねる)とは【ピクシブ百科事典】

いろんな設定がある。先輩を好きになったんで相談させてください、というBLものとか、あいつにいたずらしたいから安価で頼む、とか、未来の設定で過去の部活時代を語る、とか。男女恋愛ものもある。キャラクタが書き込む主として登場することが多いけど、スレ主は第三者として彼らを見ていて、それを報告しているような感じで進行するものもある。
こんな感じ。あえてリンクは貼らないのですが雰囲気を伝えるために。

親友と思ってる奴に惚れたったwwwww

1 以下、名無しにかわりまして影がお送りします
マジwwwwwwwwwwねーよwwwwwwww

2 以下、名無しにかわりまして影がお送りします
話してみろ

3 以下、名無しにかわりまして影がお送りします
本日のホモスレはここですか?

4 以下、名無しにかわりまして影がお送りします
アッー!

5 以下、名無しにかわりまして影がお送りします
kwsk

6 以下、名無しにかわりまして影がお送りします
おまいらwwwもしかしたら男女の友情かもしれないだろwwww

8 1
期待してるとこ悪いがガチムチな展開はないwwwww


まあ親友も俺も男なんですけどね

【修学旅行先で発見した男子中学生6人組が面白いのでstkする】
1: 名無しの権兵衛さんがおおくりします
多分200cmごえしてる男子中学生が片手に3つずつ、計6つのソフトクリーム持って道のド真ん中で某戦国ゲームの主人公よろしく「れっつぱーりー!」ってやってるんだけど、これ実況した方がいい?

2: 名無しの権兵衛さんがおおくりします
おまわりさーん!コイツです!ここに犯罪者予備軍が…え?wwwwwwwwwwwww

2: 名無しの権兵衛さんがおおくりします
れっつwwwwwwwwwwwwwぱーりーwwwwwwwwwwwwww

3: 名無しの権兵衛さんがおおくりします
ソフトクリームでレッツパーリーて何事wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww何処の伊達政宗だよwwwwwwwwwwwwwwww

4: 名無しの権兵衛さんがおおくりします
意味わかんねぇwwwwwwwwwwwwww待ってそもそも200cm越えの中学生ってwwwwwwwwwwwwwwwww

5: 名無しの権兵衛さんがおおくりします
それはぜひとも実況よろ!!!wwwww

概要にもあったように「もし○○に2ちゃんねるがあったら」ネタは2ちゃんのスレにもあったし(ヘタリアとか見てたなあ…)この発想自体が新しいかはともかく、創作フォーマットになってるのおもしろい。書き手の意識が随分違うんではないかなとは思う。2ちゃんのスレの中で周囲の人とレス重ねていくときはどちらかというと"なりきり"要素以上に、他者がそこに関わってくる楽しさだとか、脊髄反射で自分を鼓舞しながら書き込んでくドライブ感(*1)があったように見受けられるけど、小説としてパッケージングするときはすべて自分の中で完結させないといけない。シリーズものだと、読者の反応で変えることはもちろんあるのだとは思うけど。

2ちゃんまとめサイトの盛り上がりはTwitterと分けては語れないと思う。アングラな匂いがする場所から離れて、タイムラインからクリック一発でああいう言葉の集積、独特のノリにアクセスできるようになった。私が大学に入った2008年には「ハム速」って単語は誰もが知ってるわけじゃないしおおっぴらに話すようなもんじゃないってなんとなく思ってた気がするけど、2010年頃にはみんなかなり見るようになってた。えっこの子が、といういわゆるリア充的な子に「ニュー速VIPブログ」のエントリを、これおもしろかったよーと見せられたときは驚いた。暇な時間はずっと2ちゃんまとめ巡回してるー、みたいな人もたくさんいた。

実際、最近朝通勤の電車でも、読んでる人それなりの頻度で見かける。きっとあと10年早く生まれていたら日経新聞を読んでたんじゃないかなっていうきちんとしたサラリーマンのお兄さんやきれいにお化粧したデートに出かけるようなお嬢さんが持つiPhoneの画面に赤文字や青文字が踊っていたりする。ひたすら縦にスクロールする。その指の動きに完全に慣れてる。


もはやスラングや顔文字レベルじゃなくて一式のフォーマットとして使われてるのがすごく興味深い。2ちゃん文学は一人称として語り手になるだけじゃなくて、主人公を立てた上で、スレに集うねらーも演じることで自己ツッコミも可能になった。それが「自演」じゃなくて「小説」ってフォーマットで閉じちゃえる。確かにそれは投げっぱなしではなくて自分で回収しつつ書けるという意味である意味安心感はあるのだろうか。短文を重ねていくかたちなので敷居が低いのだろうか。ストーリーによっては書きやすいのかもしれない。2ちゃんのスレによくあるSSでも会話体で進むものが多いので、似てる気はするけれど、それでもかぎかっこ付きの会話なのか、番号が振られるレスなのかで、ずいぶん空気が違う。あるいは、慣れかな。やっぱり読み慣れているものを人は書く、という当たり前の話。

あと、印象的なのは、この形態の小説では冒頭の説明の中で結構な確率で「作者は本家2ちゃんねるを利用しているわけではない」「まとめしか見ていない」「なのであくまでイメージです」的な注意書きがあること。要するに、2ちゃんねるそのものに対する思い入れではないんだ。でもまとめサイトで温度感を知ってる。ああいう展開のさせかたはおもしろそうと思って読んで、その段取りのフォーマットもわかってる。一連の流れとして外身を真似してる。本家には「馴染みがない」と言い切ってしまえる。

前述の百科事典の中にもこんな記述がある。

【注意】ネタに腐向けが多い事や、某大型掲示板に詳しくない人がにわか知識で書いている事が多い為、本家を利用している人には不快に感じている人が多い。
作品を取り扱うにあたって、その辺も留意してもらいたい。

思えば、2ちゃんなんて近づいたこともない、という子の方がまとめブログをよく見ていたような気もする。あのフォーマットでお決まりの言い回しで繰り広げられるものはあくまでも読みもので、参加するものではなかったのだろうと思う。とはいえ読んでるだけでも、自分と同じような意見をあるいはまったく正反対の反応を投げられてるのが見られるからなんだか妙な「俺たち」感が持てる感じもよくわかる。外部として楽しむ姿勢。読むだけに留まらない、の先が自分もねらーとしてそこに入っていくだけではなくて、創作として丸ごと消化するのとてもおもしろい。


とにかく、フォーマットとしての2ちゃんねる“的なもの”、それからそこに生じる参加意識の行方、がすごく今考えたいところ。まとめサイトのコメント欄に生息している人たちはいったいどういう意識なんだろうね?という話を前に人としたことがあるけど、この話もそれに通じる。別に「本家を知らないのに書くな!!」とかではなくて。消費と参加の境の意識というか。

しかし、Pixivの小説機能はいまいち貧弱で読みにくいなあ。書きものをする人たちはネットではどこにいるのだろう。不勉強なので、もしかしたらもっといいフィールドワークの場所があったのかもしれない。


(*1)
「脊髄反射で自分を鼓舞しながら書き込んでくドライブ感」、について
2ちゃんねるVIP板発 小説『まおゆう』作者が「いかにしてプロの作家になったか」 - ガジェット通信

――『まおゆう』の構想はいつからあったのですか?

 2ちゃんねるに立ったスレッドのタイトルを見た瞬間です(笑) 誰かが「ニュース速報(VIP)板」に立てた「魔王『この我のものとなれ、勇者よ』勇者『断る!』」というスレッドで、立てた人は「勇者が男だと想像した? 女だと想像した?」とだけ書いて、そのままどこかへ行ってしまったんです。するとほかの誰かが「いいから誰か続きを書けよ」と書き込んでいたのを読んで、「じゃ俺がやるか」と。

(略)

――いきなり3時間も物語を書くのは大変だったのでは?

 VIP板は考えるのではなく脊髄反射で書き込むところですから、それほどでもないんです。読んでいる人たちも「続きを書けよ」とは言いますが、要するに「何か面白い芸をやってくれ」という意味であって、「芸の種類」までは指定しないんです。