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防衛省が「ゴジラに対して自衛隊に防衛出動を発令できるか?」を真剣に検討した文書を開示請求した

 東宝が誇る怪獣映画シリーズ『ゴジラ』。1954年の第1作公開以来、半世紀以上製作され続けており、一時期は存在感が薄れていたものの、『シン・ゴジラ』(2016年)や『ゴジラ-1.0』(2023年)のヒットで、人気を取り戻しています。

 近作ではリアリティを重視しているのですが、重視しているがゆえに議論になった出来事があります。『シン・ゴジラ』では、ゴジラが襲来した際、自衛隊に防衛出動が発令されたのですが、これに異論が出たのです。

 異論を唱えた代表格が、当時、内閣府特命担当大臣(地方創生)の退任直後で、今や総理大臣となった石破茂氏。

 自身のブログで「何故ゴジラの襲来に対して自衛隊に防衛出動が下令されるのか、どうにも理解が出来ませんでした。いくらゴジラが圧倒的な破壊力を有していても、あくまで天変地異的な現象なのであって、『国または国に準ずる組織による我が国に対する急迫不正の武力攻撃』ではないのですから、害獣駆除として災害派遣で対処するのが法的には妥当なはず」とコメントしたのです。

■お初盆ご挨拶など(石破茂ブログ)

■シン・ゴジラなど(石破茂ブログ)

 これがニュースにもなり、SNSでも議論が起こりました。

■石破茂・元防衛相「シン・ゴジラ」“防衛出動”苦言の真相を語る(AERA dot.)

開示請求してみた

 実はゴジラ対策はネット上の与太話にとどまらず、防衛省が真剣に検討しています。

 2007年12月には防衛省の真部朗報道官が記者会見で、ゴジラが日本に襲来する事態を想定した机上研究を旧防衛庁が過去に行っていたことを明らかにしました。

■ゴジラへの対処、研究していた=自衛隊出動、武器使用も可能-防衛省(時事通信、インターネットアーカイブより)

 どういう研究だったか詳細を知りたいと調べたのですが、防衛省の公式サイトなどには載っていません。そこで防衛省に対して開示請求してみました。

 約1か月後(開示請求には時間がかかります)、防衛省から手紙が届きます。

 「真部報道官が言及した研究についての文書は確認できず、防衛省として組織的な研究を行った資料の存在も確認できなかった」とのこと。ただ、真部報道官の言及の9年後の2016年に、ゴジラについて検討・考察した文書は確認できたということで、そちらの開示請求を行うことにしました。

 約1年後(開示請求には時間がかかります)、公開されたのが次の文書。

 2016年9月26日に中央即応集団(防衛大臣直轄の陸上自衛隊の機動運用部隊。現在は廃止され、陸上総隊に役割を移している)の司令部で行われたモーニングレポートの一部です。

 石破茂氏の指摘と同じく、防衛省も「防衛出動の発令は困難」との結論。ただし、「災害派遣や教育訓練の枠組みでも、武器を用いてゴジラを攻撃することは可能」と考察しています。

 なお、中央即応集団司令部が検討を行った2016年9月26日は、『シン・ゴジラ』公開の2016年7月29日および石破茂氏がブログを書いた2016年8月の直後。映画や議論の内容を受けて、検討したものと推定されます。

 フィクションは極端な事例の想定にはうってつけなので、想定外の事態をなくすためにも、こういう議論が行われるんですね。他にも危機的な状況を描いた作品が登場したら、同じように議論しているかもしれません。

 ちなみに、ゴジラは政治の場でそこそこ頻出で、国会の議事録をみていても、いきなり出てきたりします。

■第156回国会 武力攻撃事態への対処に関する特別委員会 第6号(2003年5月8日)

■第200回国会 安全保障委員会 第6号(2019年11月15日)