家事ロボットの愚

たまたま、ロボット技術に詳しい方とお話する機会があり、その方から「日本では、引き続き、家事・介護用ロボットの開発に国家予算がつぎこまれている」という話を伺った。確かに、よく新聞などで「家事ロボット」の話を見かける。で、下記のようなことを申し上げたら、ちょっと驚いておられたので、ここで書いておくことにした。商売でやっているなら、売れなくても自分が困るだけなのでいいと思って無視していたのだが、国家予算となると、また税金の無駄になるので、「ターゲット・ユーザー」である主婦として、一応言っておこうかと思ったわけだ。

皆様、お察しのとおり、家事はそんなに単純じゃないよ、という話だ。主婦の仕事で一番大変でストレスが多いのは、「ロジスティックス」や「マネージメント」である、という話を以前書いた。

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「家事代行サービス」というと、だいたい広告のイラストに、お掃除をしている人が描いてある。一番アウトソースしやすい家事はお掃除である。私の場合も、以前からお掃除のおばさんを頼んでいる。比較的定型的で、外部のサービスがはいっても、細かい指示をしなくてもすぐにできる。その割に時間も力もいるので、アウトソースする価値が高く、お金を払う気になる。家庭用ロボットとして、アメリカなら「ルーンバ」というお掃除ロボットがすでに商品化されているのもうなずける。芝刈りやプールの掃除もこのカテゴリーに入れていいだろう。

しかしそれ以外は、やってみると意外にアウトソースしづらいのである。洗濯が次ぐらいだが、洗濯機と乾燥機があれば、単純作業は機械に入れてスイッチを入れるところのみ。一番面倒なのは、どうやって分類して洗うかの判別、洗濯機がいっぱいにならない場合にどうするかの判断、乾いた洗濯物をたたんで分類してたんすにしまうこと、といった非定型作業である。人ならば何度か教えればできるようになるけれど、ロボットにこうしたことをプログラムするのは大変そうだ。

料理は、上記のエントリーに書いたように、実際の料理よりは、何をつくるかの判断、材料を買ったり保存したりのロジスティックス、時間マネージメント(何時に子供をピアノのおけいこに連れて行き、待っている合間に近くの店で買えるのはどれとどれ、そのあと戻って、食べる時間まで何分作業時間があって・・・云々)といったマネージメントのほうが面倒。これまた、ロボットに代行してもらうのは、だいぶ未来にならないとできそうにない。

そして、私の一番大嫌いな、「収納、整理整頓、在庫管理」。これなど、ほとんど全編判断業務だ。

私は本格的に介護をしたことはまだないが、赤ん坊を育てたときのアナロジーで言えば、これまた判断業務の塊である。実際に介護する人を抱き上げたりする力仕事は、全体の作業の中でわずかな部分に過ぎないのではないだろうかと思う。

そして、もし私がロボットを保有したとすると、我が家の環境に合わせてカスタマイズする初期設定が、えらく大変だろうという気がする。ビデオの予約録画もちゃんとできない私が、そんなことできるのだろうか。それに、ロボットがフリーズしたり誤作動したら、どうするのか。パソコンはじっとしているからまだいいが、「パトレイバー」のように、ウィルスがはいって暴走でもしたら大変だ。ムービング・パーツが多いので、メンテナンスもヘビーだろう。そんな「管理」のほうが、節約できる労力に比べてはるかに多くて、「あー、面倒、また管理業務が増える、自分でやったほうが早!」ということになりそうに思えてしまう。

家事は非定型の判断業務が大半を占め、力仕事や定型単純作業は、便利な家電のおかげですでに比率が小さい。だから、ロボットにやってもらうことは少なく、従って高いお金を出して買う気にはならない。

遠い将来、ドラえもんや鉄腕アトムのような超インテリジェントなロボットができれば話は別だろうが、そこにいたるまでの間、アホな家事ロボットが家庭に売れるとはちょっと思えない。むしろ、私の感覚では、「パトレイバー」に出て来るような、工事現場の巨大ロボットを、作業士が「運転免許」を取って動かす、といった世界のほうが余程ありえそうな気がする。

いろいろな考え方があると思うのだけど、とりあえずたくさんの税金を無駄にする前に、ユーザーが本当に使うかどうか、ちゃんと考えたほうがいいと思う。