明治大学に入学したいと思ったきっかけを教えてください。
高校生の時、「将来は国連で働きたい」という夢を持っていました。明治大学国際日本学部は、言語の学習に力を入れており、また、社会について幅広く学ぶことができるので、この大学での学びを生かして夢をかなえたいと考えました。また、私は周りの日本人学生や留学生と比べてバックグラウンドがかなり違うので、「『個』を強くする大学」という理念の下、個性を尊重する環境であることにも魅力を感じ、明治大学への入学を決意しました。
私は、日本に住むシリア難民です。11歳の時から約2年間、戦争を経験しました。その後、さまざまな経緯で日本に来ることができ、来日から1年半後の当時、日本では初のシリア難民となりました。しかし、命は守られたものの、日本での生活の中で、文化の壁、言語の壁などにぶつかり続けました。
そしてこのような先の見えない状況から脱出し、UNHCR難民高等教育プログラム推薦に出願して、明治大学に入学することができました。ここまでたどり着くことができたのは、たくさんの優しい方々に粘り強く助けていただいたからです。だから、私も自分のように困っている人を助け、夢を持つ機会がない人に夢を持たせてあげられるようになりたいと考えています。
明治大学でどのような学問に興味を持ち、勉強しましたか?
私は国際日本学部では主に、社会学、多文化共生、ダイバーシティ、国際教育、平和学、異文化間教育学といった授業を中心に受講し、社会問題に対する理解がとても深まりました。また、複雑な社会問題を解決するためには、国連などの何かしらの「機関」に入る必要があると思っていましたが、教育、ビジネス、個人などさまざまな面からのアプローチができるということに、気付くことができました。
他にも、国際日本学部の実践科目がとても楽しいので、たくさん受講しています。印象に残っているのは、小笠原泰先生と小林明先生の実践科目です。
小笠原先生の授業は、たくさん本を読み、ディスカッションをするという形式で進められました。今の社会を厳しい目で見て、「この厳しい社会で個人個人がどう生きるべきか」といったテーマについて、たくさんの視点から学ぶことができ、とても面白かったです。
小林先生の授業では、「外国人講師を招いて講演をしていただく」というミッションがあり、私はこの授業でリーダーを務めました。社会に出るために「組織がどう動いているのか」「一人ひとりの力をどのように発揮するのか」を、実践を通して学ぶことができました。
また、日本語教育人材育成プログラムも履修し、修了しました。日本語力を向上させたかったことと、私の母に日本語を教えられるようになりたかったので履修しました。
大学生活でぶつかった壁はありますか?また、どのような考えと行動でそれを乗り越えましたか?
自分のアイデンティティーについてと、人間関係について、とても悩んでいました。
高校時代まで、私は「優等生のまね」をすることで学校生活を乗り切っていました。何が正しくて何が間違っているのかが分からなかったので、学校では人のまねをし続け、自分の個性を完全に封印していました。また、周りと少し違う行動をしたり文化の違いが無意識に出た時に、ネガティブな反応が返ってくることがあったため、このようなバックグラウンドを持っていることさえ、マイナスに捉えていました。
大学に入学する時には「これからは個性を出していきたい」と考えていたものの、なかなかうまく出すことができませんでした。コロナ禍であったこともあり、オンラインでのやり取りが中心で、やりづらさを感じました。人間関係を築く中で、何が正しく何が良くないのかを常に考えていたため、緊張が全くほぐれず、うまくいきませんでした。当時の私は、今の私からは想像できないほど、泣き虫で自信もなく、すぐに傷ついてしまっていました。
このような状況を乗り越えられたのは、兄の助けを借りながら、ひたすら自分の過去と現在に向き合い続けたからです。私がどのような人間で、これまでの学校生活でどのような個性を閉じ込め、どのような人間関係を築いてきたのか。どのような傷を持っていてどのように手当てをしていくのか、どうなりたいのか。このようなことを、細かくストイックに分析しました。
こうすることで、自信が付き、心がとても健康になり、戦争が始まる前の子どもの頃の自分が持っていた性格を、少しずつ取り戻すことができました。今ではかなりポジティブ思考になり、自信も付き、もう泣き虫ではなくなりました。さらに、自分の過去が「強み」に感じられるようになりました。そして、これに伴い、人間関係も少しずつ築くことができるようになりました。
この経験を通してとても大切だと思ったことは、「自分は変わることができる」と信じることです。人は変わろうとして行動を起こせば、必ず変わることができると、この経験を通して実感しました。
大学生活の4年間を振り返って、自身が成長(変化)できたと思うことを教えてください。
授業やゼミ、実践科目、キャンパスライフを通して、リーダーシップ、企画力、プレゼンテーション力、まとめる力、聞く力、振り返る力、自信、問題解決能力が、それぞれレベルは違いますが、身に付きました。さらに、自分のアイデンティティーを「強み」であると捉えられるようになりました。
また、大学生になって発信活動を始めたことも大きな変化でした。自分の体験を基に、平和や異文化理解、教育の重要性について、学校、大学の授業、コミュニティセンター、イベントなどに呼んでいただき、これまでに約30回講演を行ってきました。
発信活動を始めたきっかけは、自身の体験や意見をシェアすることで、遠い世界のように感じていた方にもっと身近に感じてもらい、理解してくれる方を少しでも増やしたいと考えたことです。もっと理解を促進させることで、少しでも差別や争いが減ってほしいと願っています。
ゼミでの活動内容を教えてください。
岸磨貴子ゼミナール
教育工学がテーマのゼミで、研究領域の一つである「学習環境デザイン」について理論的かつ実践的に学んでいました。教育工学は「問題解決の学問」ともいわれており、私は難民や外国人児童生徒の学習に関する問題や、異文化間に生じる偏見や衝突などのさまざまな問題を、教育のアプローチから解決したいと考えていました。
2023年からはアートベースリサーチ(ABR)という学びが始まり、アート思考の可能性から、アートをどのように使い、自分と向き合い、自己理解、他者理解、問題解決ができるのかを学んでいました。
そして最後に取り組んだ活動が、「難民の子どもの第三の居場所づくりプロジェクト」の立ち上げです。教育NPOと連携して4年次に活動を始めました。家や学校以外に居場所ができると、自分の個性を出せるための練習ができたり、新たな人と相談ができたり、将来への見通しが少し想像できるようになったり、孤独感が少し解消したり……。こうした環境をつくることができるのではないかと思い、このプロジェクトを立ち上げました。
小林明ゼミナール
国際教育をベースに、国籍や背景、宗教、人種などに関係なく、誰もが生きやすいインクルーシブな社会の実現を目指すゼミです。ハラール食をはじめとした異文化理解と実践を目的に、さまざまな活動をしてきました。現在は、国連UNHCR協会の方と当事者の方と共に、ピーストークのパネルディスカッションのイベントを立ち上げたり、セミナーハウスを利用してさまざまな文化が集まる留学のような経験ができる企画を進めているところです。
ゼミの活動で最も印象に残っている活動やイベントを教えてください。
岸ゼミでの「難民の子どもの第三の居場所づくりプロジェクト」の立ち上げです。リーダーを務めたことがなかったのでとても難しさを感じたのですが、岸先生やゼミの仲間にグラフィックデザインツールの使い方を教わりながら、プロジェクト概要を説明する資料を作り、授業やラーニング・ラウンジなどでプレゼンテーションを行いプロジェクトメンバーを募りました。最終的に16人も集まってくれました。
メンバーの都合に合わせて毎週水曜日の1限と2限を企画準備に使い、岸ゼミで行っていた企画を参考にしながら、月に1回平均15人ほどの子どもたちを中野キャンパスに招き、交流する機会をつくりました。この企画は、子どもたちに大好評でした!私もこの企画が大好きでしたし、将来自分でNPOを立ち上げてもっと大規模に行いたいと感じました。一緒に企画してくれたプロジェクトメンバーに、心から感謝しています。
大学の恩師とのエピソードについて教えてください。
岸磨貴子先生
岸先生と話すと、いつも夢があふれて何でもできる気がしてきます。先生はいつも私を応援してくださり、私の経験が持つ価値と、どのように社会に貢献できるのかということについて、たくさんのヒントをくださいました。また、岸先生に教わる中で、マネジメント力、人を動かす力、プレゼンテーション力、想像力が、徐々に向上していったと感じています。
岸ゼミでのたくさんの活動の中で、特に印象に残っているものがあります。以前、ある小学校で「平和を学ぶこと」をテーマに、講義、アクティビティ、ディスカッションを行いました。小学生の適応力と理解力の素晴らしさに驚かされ、国際教育の大切さを改めて実感し、将来大きな変化を起こすことができるものだと確信しました。この経験から、私は「社会問題の解決のためには、小学生の頃から経験的な学びを導入するべきだ」と強く考えるようになりました。
小林明先生
小林先生と初めて出会ったのは、オンラインで行われた「国際教育交流論」という授業でした。先生と初めて会話をしたとき、私は今まであまり感じたことがなかった「安心感」を感じました。たくさん相談に乗ってくださり、いつも的確なアドバイスをくださるので、私はどんどん成長していくことができました。また、いつも私を応援してくださるので、夢を大きく持つことができるようになりました。
小林先生からいただいた印象に残っているアドバイスがあります。社会貢献に対してのモチベーションが下がっていたので相談したところ、「社会貢献は効果を感じづらいかもしれないが、行動し続けることで、私たちが感じないところで効果は出ている」というお話をしてくださいました。このアドバイスのおかげで、継続することの必要性を感じ、再びモチベーションが上がりました。
大学生活での一番の思い出は何ですか?
大学生活で一番思い出に残っている出来事は、初めてのゼミ合宿です。岸ゼミの同級生、先輩、大学院生、岸先生と一緒に、セミナーハウスに泊まりました。この時の企画がとても充実していて、全てのゼミ生が輝いていました。普段できなかったような話や活動をすることができ、濃密で忘れられない時間となりました。楽しくて夜遅くまで起きていたのですが、次の日も元気いっぱいに一日を過ごすことができたくらい、興奮が冷めやらぬ合宿でした(笑)。
将来の夢を教えてください
社会問題、特に教育と平等についての問題の解決に直結する、会社やNPOを立ち上げて自分で運営したいです。
未来の明大生に向けてメッセージをお願いします!
明治大学には、留学をはじめ、さまざまな新しい環境に身を置く機会がたくさんあるので、ぜひチャンスをつかんでチャレンジすることをお勧めします。そして、目標を決めたら、強く進んでいってください。
また、「当たり前」は存在しないということを意識してほしいです。人それぞれ持っている文化が違うので、できるだけ先入観をなくして人と接することができれば、人との交流はもっと楽しくなりますし、グローバルな社会で生きる上で、とても大切な備えだと私は考えます。
最後に
基本的に人生はなんとかなります。私たちはネガティブなものに目が行きがちですが、ポジティブな方向へ目を向けるだけで、人生はとても快適で楽しくなります。問題が起こった場合はクヨクヨするのではなく、どのようにすれば解決できるのかを即座に考えるようにすることをお勧めします。そして、普段の何げない「自分の当たり前」は当たり前ではないこと、このことに感謝しながら生きていけば、人生はとても豊かに感じられるでしょう。
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