ピアノ楽譜の新しいデザインを考えてみた

Erika Ito
12 min readAug 2, 2015

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私が考えた楽譜で見る、ビートルズの「Let it be」の最初の小節です

サマリー:ピアノをこれから学ぼうとする人のために考えた、新しい楽譜のデザイン案を紹介します。従来の楽譜は記号、目盛り、記憶に強く依存しているため、一から学んで読めるようになるのはとても難しいですよね。そこで、この新しい楽譜では鍵盤上に「指の位置」と「手の位置」を表す記号を置くことで簡単に読めるようにしました。縦に上から下へ読む楽譜で、丸い記号は指の位置(青は左手、緑は右手)、色の長さは音の長さを表しています。灰色のラインは黒鍵、ラインとラインの間隔は白鍵で、ドの音には分かりやすく斜線をひきました。

挑戦

従来の楽譜で見る、「Let it Be」の最初の4小節です。複雑な歌ではないですが、とても複雑に見えるのではないでしょうか

従来の楽譜を読むのは簡単ではありません。プロやセミプロの音楽家は長い時間と労力をかけてこの楽譜を読む勉強をします。ただ、多くの人はそんなに時間をかけられません。

これは従来の楽譜に使われる記号です。20種類以上の記号がありました。

楽譜を読めないギター奏者はタブラチュアを利用して演奏の練習をすることもできますが、ピアノ奏者は耳で覚えるか簡単な和音のパターンを覚えるくらいしか選択肢がありません。和音は比較的シンプルですが、楽譜はもっと複雑です。私は和音と楽譜の中間を見つけたいと思っています。

このプロジェクトについて

これはわたしが個人的に取り組んでいるプロジェクトです。このプロジェクトを通して、わたしは⑴課題を解決し、⑵議論を巻き起こし、⑶好きな趣味について考えることを楽しみたいと思っています。この新しい楽譜は、限られた時間の中でピアノを学びたいピアノ初心者をターゲットとして考えています。このターゲットユーザーはおそらく簡単な流行曲を覚えたいと思っていて、弾く練習を始める前にどんな風に演奏されるかは頭に入っていることでしょう。もしかすると既にその音楽を歌えるのかもしれません。

このプロジェクトが目指さないところ:

  • 本格的なプロジェクト:本当の「ユーザーリサーチ」はしていません。デザイナー1人、クレヨン数本とフィードバックをくれる友人だけがリソースです。
  • フォーマットと記号を完成させること:基本的な形とフォーマットだけを使っています。この楽譜は私が考えたコンセプトを伝えるためのモックアップです。
  • 従来の楽譜に「置きかわる」楽譜を作ろうとしている:楽譜は実に500年以上(さすがWikipedia)も使われていて、素晴らしいものです!プロの演奏家はどんな楽譜であってもそれが手元にあれば、演奏を一度も聞いたことがなくてもその場で演奏することができます。この記号は柔軟かつ正確で、長年にわたって讃えられています。ただ既に言及したように、一から楽譜を学ぶには相当な努力が必要とされます。私が考えたルールや記号は、「新しい」層の人たちに向けたもので、既に楽譜を読める人たちではありません。

私がたどり着いたデザインがこちらです...

「Let it Be」の楽譜

全体像

鍵盤のように見えるでしょう?ここで大切なのは認識性で、物理的な位置(鍵盤)と音の関連性を簡単に見つけられるようになっています。これを実現するにあたって難しかったのは、邪魔な要素をできるだけ排除することでした。そのために私は黒鍵を表す記号に細いラインを、余白を白鍵に当てました。

鍵盤上と楽譜上のホ長調の和音

いくつかのパターンを試した後、多くの初心者が最初に覚えるド(C)の色を濃くして目印とすることにしました。これはぴったりオクターブの区切りにもなっています。そして、ド(C)の上に別の和音が重なっても分かりやすいように、斜線も追加することにしました。これがその図です:

「ド」の上に色がつくと、こんな風に見えます(緑色の1番左がドです)

これをもっと「インタラクティブ」にするならば、目印にする音を曲によって変えることも考えられます。例えば、ファ(Fコード)が主音(基本)になっている歌ならば、すべてのファ(F)に目印の斜線と濃い色の線を使うことができます。ただ、印刷することや楽譜間での一貫性を担保するために、わたしはド(C)にだけ目印を使うことにしました。また、曲によっては途中でキーが変わるものもあるため、常にド(C)に目印があることで混乱を防ぐこともできます。

拍子の数え方はこのようになります。上から下に進み、短い空白が拍、長い部分が一つの小節です。

長さとタイミングの表し方は、スティーブン・ヒューのデータビジュアライゼーションに関する研究から発想を得ました。それによると、余白は要素と要素の区切りをつけるのにとても役立つとのことです。そこで私は、従来の楽譜のように拍子やリズムを線で区切るのではなく、余白を使うことにしました。

  • 正確さ:具体的な記号や指示で示されていないため、どこで音が切れるのかは楽譜を読む人の解釈によって変わってしまいます。曲を弾きながらの「感覚」に任せることになります。ただ、入門編として正確さはそんなに重要ではないと判断しました。
  • 拍子の変動:この楽譜は4/4拍子をベースにしているので、3/4、6/4、7/4などちょっと変わった拍子の曲には楽譜をカスタマイズする必要があります。最近の曲は多くの場合4/4拍子で作られているのであまり問題はないでしょう。そうではないときにどうするか。わたしは8拍子のビンス・ガラルディの「ライナス&ルーシー」(スヌーピーのオープニング曲として知られています)を楽譜に当てはめてみました:

この楽譜のいいところも2つご紹介します。

  • 画面で見やすく、スクロールしやすい。タブレットやノートパソコンは、縦長のコンテンツのほうがスクロールしやすくできています。本記事のようにデジタル端末で見られることを考えると、ページをめくる手間が省けます。ページという枠に当てはめずに考えることもできます。

和音と音

和音と単音の例。楽譜上多くの場合は青が左、緑が右側に配置されます。

概要:何度かのトライ&エラーのあと、わたしは図のように上から下に伸びる熊手のような形にたどり着きました。濃い色の丸は指で、ピアノの鍵盤に指を置く場所を表しています。薄い縦の棒は伸ばす音を表しています。薄い横の棒は和音の音をつなげています(従来の楽譜もこれに似たような表現がみられますね)。この和音の棒と音の長さを表す棒を区別するために、横棒を縦の棒よりも細くしました。また、これは楽譜をできるだけスッキリ見せる意図もあります。

色:右手と左手は色で区別しています(左手は青、右手は緑)。この2色は楽譜の上で他の情報としっかり区別されるので、弾く人が簡単に読み取れるようになっています。ただし色が使えない場合にも意味は通じるので、色盲の人や白黒で印刷されたときにも問題なく機能します。

選んだ色について:この明るい青と緑は楽譜の読みやすさを考えて設定しましたが、ビジュアルに特化したデザイナーがしっかりリサーチや検証をすれば、もっと見やすい色の組み合わせやコントラストを設定することができるだろうと思っています。

丸:鍵盤を押すタイミングの表現方法は、従来の楽譜から引き継いで丸で表すことから始めて、その後いくつか別の形も試してみましたが(例えば下むきの三角形、斜めの楕円など)、やはり丸が最適だということがわかりました。なぜなら丸なら手で簡単に書くことができ、指先の形でもあり、和音で表したときに音と音の関係性を瞬時に伝えることができるからです。下の画像を見てください。

隣同士に並んだ音はこのように見えます(緑の音)。丸なので、隣同士の音も区別することができます。

和音を表す記号は、この丸を基本に作っていきました。これの唯一の欠点は、薄いラインを手で書き込むのが難しいことです。簡単に手で書く必要があるとき、わたしは下の画像のように「ギザギザの線」を使いました。

次の画像は、上の手書きの楽譜をデジタル化したものです。これはスティービー・ワンダーの「サンシャイン」です。黒鍵をたくさん使う、少し複雑な曲はこのように見えます。

手書き楽譜のデジタル版。オリジナルでは複数の電子ピアノを使う部分があるので、厳密には私がアレンジしています。

残りの要素

コー​​ド名:右側にあるグレーの文字は、それぞれの和音の名前です。ターゲットユーザーがどれだけコード名を知っているものかが分からないので、どちらかというとオプションのような項目です。コード名を覚えている人は、これを使うのがよいでしょう。これから覚えようとしている人も、勉強として使えます。転回形や非和声音などは加えずに、シンプルにコード名だけをいれることにしました。

上部にあるグレーの文字はコードではありません。これは88鍵盤ピアノ上で対応するドの音の高さを表しています(例えばC2は下から2つ目のドの音)。これは演奏を学ぶ上で、正しいオクターブ上で弾く目印になります。

歌詞:歌詞の部分は単体でも、楽譜の横に書き込まれても成り立ちます。流行の曲を学ぶ場合は歌詞があることによって、曲のどのあたりを演奏しているのかが分かりやすくなります。

同じパートを繰り返すような曲のときは、上の画像のように歌詞を横並びにすることでスペースを節約することができます。わたしは数字を利用して行を示すことにしました(弾き手が音符と歌詞をいったりきたりすることを想定しています)。ここで難しかったのは、複数の歌詞がある場合に横のスペースがたくさん必要になることでした。そのため、楽譜部分はオクターブを横に並べるのではなく短くする必要がありました。いくつものオクターブにまたがるような曲の場合は、必ずしもこの形に収められないと思っています。

初期段階では歌詞と音符をもっと近くに配置することも試してみましたが、煩雑になりすぎたため、歌詞を小節ごとにまとめる手法をとりました。このほうが読みやすく、弾き手にも意味は通じると思います。

ペダルの矢印:ペダル(正式にはサステインペダル)の表現はとても悩んだ部分でした。ペダルはわたしにとっては「あとづけ機能」で、、音が重なりすぎて汚くなったと感じたら一旦止めて再度また踏む物、くらいにしか考えたことはありませんでした。(子供の頃のピアノの先生は、わたしがこんなことを言っていると知ったらとっても怒ると思います。)

ペダルの印を左側に配置することも考えてはみましたが、それでは注意を引きすぎます。また、音の最後に印をつけることも試してみましたが(例えば、上か下矢印か音符の端に印をつけるなど)、ペダルを踏むタイミングは必ずしも新しい和音が始まるときとは限りません。

赤で囲まれた部分がフットペダルの印です。

たどり着いた結論は、ペダルを踏む(踏み続ける)ときは下矢印、ペダルを離すタイミングは上矢印で表現することでした。この方法なら音の変わり目につくことはもちろん、必要に応じて楽譜のどの部分にでも印をつけることができます。

以上が「ピアノ用のタブラチュア譜を作るとしたらどうなるのか?」に対するわたしの答えです。従来の楽譜は、どちらかというと第二言語を読むように使われるのに対し(第二言語のように「話せる」ともっと美しいことは言うまでもないでしょう)、わたしの楽譜は取り扱い説明書のようなものです:初級〜中級の演奏者が流行の音楽を弾くためにあります。もっと多くの人がピアノに挑戦し、弾けるようになるように、この楽譜のラーニングカーブはとても狭くなるように設計しました。

この長い記事をここまで読んでくれたあなた、本当にありがとう!もし興味をもちそうな人がいたら広めて、それからコメントも残してください。フィードバックも貰えるとありがたいです。直接連絡をいただける場合は、couch.us[at]gmail[dot]comまでメールをください(英語のみ)。

P.S. 参考までにもうひとつ曲を紹介します。低音がもう少し複雑な曲がどんな風に見えるかと、弾き手が歌っていないときどんな風にメロディが書かれているか。この楽譜では2拍子です。

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Erika Ito
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Written by Erika Ito

Product Designer at VMware Tanzu Labs (former Pivotal Labs) in Tokyo. Ex Medium Japan translator. | デザインに関すること、祖父の戦争体験記、個人的なことなど幅広く書いています😊

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