アイコン・クラブ

Akihiko Satoda
Far Off
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3 min readJan 25, 2018

人恋しくなり、バーへ行ってみる。実は木曜も前まで来てみたものの、金曜に会いましょうという看板が置いてあったのだった。

Icon KlubのオーナーのLisaはハンガリーの雑貨を店に飾る。ブダペストから来た、気遣いの大変素敵な女性だ。シェイカーを振り、ライムを刻み、中国人女性客がプレゼントした黒手袋を嬉しそうに受け取る。徐々に増えてきた滞在者たちとハグを交わし、手が空けば紫煙をくゆらす。ふらっと立寄る側も、その場に誰かがいるなら、不思議と会話を始めずにはいられない。

右隣にはロンドンからきたマーケターとバンカーの夫妻が座り、世界中を旅した話をしてくれる。ルアンパバンは何とも9回目で、ここを去ったら香港やミャンマーなどをぐるりと回って帰るという。

かなりの馴染みに見える左隣の女性は、ここにいるのは実のところ5日間だけだ。Tassieから来たと言い、ぽかんというこちらの顔を確認するとタスマニアと言い直す。滞在でどこがよかったかと尋ねるとやはり、メコン河だった。故郷では、日本人二人に英語を教えている。

Lisaは、日本人がもう一人いると言って男性の隣に座らせてくれる。ジンやラムやウイスキーの製法やトレンドについていろいろ聞いた後、髪がふさふさのその男性が実は真宗のお坊さんだということを知らされる。建築に始まる仏教への関心から東南アジアや、ブッダガヤを巡っているのだ。プログラマを前にしてお坊さんから出てきたアジェンダは、FacebookやTwitterとの付き合い方、それからこの巡礼の出費を経費とすることの是非だった。セルフコントロールができる限りは、アルコールは許されるものらしい。

旅行の話から、実はドイツ哲学やドイツ語に興味があったという話になる。ラオスで日本語の観念論談義が突然始まるとはお互い予想しておらず身構えたが、どういう勉強をされていたのですかと聞いてみると実はサークルをやっていて結局あまり勉強しなかったという。

ではサークルは何をされていたのかと聞くと、英語への反発からエスペラントをやっていたという。これはこれはと、昔勉強して頭のどこかに保存してあったエスペラントを引き出して話してみるが、さすがにキャッチボールを続ける力はこちらにはない。もしかしたらこれが自分が放つ最初で最後のエスペラント文かもしれないとふと思うが、エスペラントには旅先で話者を探せるスマホアプリがある。彼がそれを使って国際大会で知り合った中には、浙江の仏僧さえいる。慣れた話者たちはそれを使って文化を越え、エスペラントの星のもとでひと時の会話を楽しむのだ。

セルフコントロールを越える量を飲んでしまったので、国際派のお坊さんに別れを告げると酒代はいいよという。一期一会に感謝し、また来たくなるこのバーを後にする。

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