スタートアップのお金と指標入門講座:成長率 (Growth Rate) — MoM & CMGR

Taka Umada
6 min readJan 13, 2016

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第 6 回は成長率 (Growth Rate) についてです。以下はこの入門講座のシリーズのリストです。

  1. バーンレート
  2. 収益 (Revenue & MRR & SaaS Quick Ratio)
  3. 利益と利益率 (Profit & Margin)
  4. チャーンレート
  5. ユニットエコノミクス (CAC & LTV)
  6. 成長率 (MoM & CMGR) <- ここ
  7. まとめ

スタートアップは Growth がすべてと言われています。たとえば Y Combinator では、その 3 ヶ月の期間中、週次 (weekly) で 5–7% の成長率が求められます。また投資家はスタートアップの成長率を投資時のバリュエーションを決める材料として重視する傾向にあり、成長率はほとんどの交渉の場で聞かれる指標となります。そのためにも成長率に関する理解は不可欠です。

ただし成長 (Growth) と利益 (Profitability) は多くの場合トレードオフです。近年の過剰な Growth へのフォーカスで、バランスをとるのに失敗したと言われる例 (Homejoy など) まであります。特に景気の不安定な冬の時代に突入した時は、成長と利益のどちらを優先しながら経営を行うのか、舵取りをうまく取り扱う必要があるので注意してください。

Game of Thrones, “Winter is Coming”

本記事では成長率、特に収益ベースの成長率について扱います。収益に関しては以前の Revenue の記事を参照してください。なお、これまでは Burn Rate, Revenue, Margin, Churn Rate, Unit Economics について解説してきました。

会話の例
起業家「弊社は月々の収益が 20% で成長しています」
投資家「それは CMGR でしょうか。それとも直近の成長率ですか」
起業家「……?(CMGR って何だろう…?)」

成長率の指標

どのメトリクスをベースに成長率を測ればよいかはスタートアップのステージによって異なります。

収益を上げるフェーズではない初期のスタートアップは、成長率を DAU などの顧客数ベースで見るべきであると考えます。ただし成長していくにつれて Revenue ベースの成長率を見ていく必要が出てきます。

いずれにせよ成長率の計算の仕方は同じです。そして主な成長率の計算の方法として MoM と CMGR があります。以下ではそれぞれを説明した上で、違いについて解説します。

MoM の成長率

Month over Month あるいは Month on Month の略として、MoM という略語が使われます。いずれも前月対比、という意味で、前月との比較をするときに利用されます。

計算式は単純に以下のとおりです。

CMGR の成長率

一方 CMGR は Compound Monthly Growth Rate (月平均成長率) の略で、以下のような計算になります。# of months は月数を意味しています。

株式市場などでは CAGR (Compound Annual Growth Rate) が指標として使われることが多いですが、スタートアップは年平均成長率ではそのパフォーマンスが十分に測れないため、CMGR が使われることが多いです。

MoM と CMGR の注意点

投資家は基本的に CMGR での成長率を気にします。これは MoM の平均を取った場合、ばらつきに影響されやすいなどの理由があります。

たとえば以下の 2 パターンの表を見てください。それぞれ 1 月から 6 月までの収益を表しているものとします。

パターン 1 とパターン 2 の違いですが、パターン 2 では 3 ヶ月目に突然収益 (1,800) が上がって 4 ヶ月目は元に戻っている (1,250) 点だけが異なっています。

このとき、パターン 1, 2 ともに CMGR は変わりません(計算式は最初の月と最後の月だけのため)。ただ MoM の平均は大きく変わっています。

MoM の平均だけを取ってしまうとこうしたバラつきに影響されやすく、また複利を考慮できないという点があり、複数月をまたがる場合の成長率の計算は CMGR を使ったほうが良いとされています。

注意)それは CMGR (月平均成長率) ではありません

なお、間違った計算方法で CMGR のような数字を出している方を時々見かけます。

たとえば上の例の場合、6月から1月までの成長率を出したいときに

  • 1,800 / 1,000 = 1.8 だから 80% 増で、
  • それを 5 ヶ月で達成したので 5 で割って
  • 「この 5 ヶ月の CMGR は 16% です」

としているケースを時折見かけます。これは CMGR ではないので注意してください。

SaaS の成長率の基準は「T2D3」

Product/Market Fit を達成後の SaaS スタートアップの収益の伸びは、3倍、3倍、2倍、2倍、2倍で成長するのが良いのではないかと言われています。これを英語にすると Triple, Triple, Double, Double, Double となるため、その頭文字をとって T2D3 と呼ばれています。

Phase 1 を Product/Market Fit に至るまでとしたとき、Phase 2 では ARR (Annual Recurring Revenue) でまず $2M (約 2.4 億円) に到達するのを目指します。そこから Phase 3 の $6M を達成するのに 1 年、さらに Phase 4 の $18M を達成するのに 1 年、といった具合です。この初期の Triple のフェーズにおいては、CMGR では 9.6% の成長が必要という計算になります。

あくまで一つの基準であり、これがすべてというわけではありませんが、参考にできるものではないかと思います。

また、もう一つの成長率の基準として、先日解説した Growth と Margin の 40% ルールも参照してください。

参考

本記事は以下のスライドからの抜粋です。

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Taka Umada
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Written by Taka Umada

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein

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