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アルコール性肝障害
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。

アルコール性肝障害の概要

アルコール性肝障害は、長期間にわたる過剰なアルコール摂取により引き起こされる肝疾患で、脂肪肝アルコール性肝炎肝硬変という三つの病態が段階的に進行します。脂肪肝はアルコールの影響で肝細胞に脂肪が蓄積する状態で、比較的軽症ですが、放置されるとアルコール性肝炎に進展する可能性があります。アルコール性肝炎では、肝細胞に炎症が起こり、さらに進行すると肝硬変に進展します。肝硬変では肝組織が線維化し、肝機能が著しく低下し、最終的には肝不全を引き起こすこともあります。

アルコール性肝障害の原因

アルコール性肝障害の主な原因は、長期にわたる過剰なアルコール摂取です。アルコールは肝臓で代謝される際、まずエタノールがアセトアルデヒドという有害な代謝産物に変換され、その後、酢酸に分解されます。アセトアルデヒドは強い毒性を持ち、肝細胞に直接的なダメージを与えます。アセトアルデヒドが肝細胞内のタンパク質と結合することで、細胞膜や細胞機能が障害され、代謝機能が乱れます。この結果、肝細胞に損傷が生じ、炎症反応が起こります。
さらに、アルコール代謝の過程で生じる活性酸素は、肝臓内で酸化ストレスを引き起こし、肝細胞にさらなる損傷を与えます。酸化ストレスとアセトアルデヒドの影響により、肝細胞の機能が低下し、炎症が持続することで、アルコール性肝障害が進行していきます。
また、遺伝的要因もアルコール性肝障害のリスクに寄与しています。特に日本人を含むアジア人の多くは、アルデヒド脱水素酵素2型(ALDH2)の活性が低いことが知られており、この酵素が低活性であるとアセトアルデヒドの分解が遅れ、体内に長時間残留します。これにより、肝細胞に対する毒性が強まり、少量のアルコールでも肝障害を引き起こしやすくなります。

アルコール性肝障害の前兆や初期症状について

アルコール性肝障害の初期段階では、多くの患者さんが無症状であるため、病気の進行に気づきにくいことが特徴です。しかし、病状が進行するにつれて、さまざまな症状が現れてきます。最初に現れる症状としては、全身倦怠感食欲不振悪心(吐き気)、および体重減少などが挙げられます。これらの症状は非特異的で、ほかの疾患と区別が難しいため、診断が遅れることがあります。進行すると、肝腫大(肝臓の肥大)がみられ、これに伴って右上腹部に不快感や軽い痛みを感じることがあります。さらに、アルコール性肝炎や肝硬変が発展すると、黄疸(皮膚や眼球が黄色くなる)、腹水(腹腔内に液体が貯留する)、および浮腫(血管から水分が漏れて手足がむくむ)といった特徴的な症状が現れることがあります。黄疸は、ビリルビンという色素が肝臓で適切に処理されず、血液中に蓄積することによって引き起こされ、これは肝機能の著しい低下を示しています。
>さらに、重度のアルコール性肝障害が進行すると、肝性脳症という神経学的症状が発生することがあります。肝性脳症は、肝臓の解毒機能が低下し、アンモニアなどの有害物質が血液中に蓄積し、最終的に脳に到達することで生じます。これにより、意識障害や精神的な混乱などが引き起こされます。
こうした症状が現れた場合、迅速に消化器内科を受診し、専門的な治療を受けることが必要です。

アルコール性肝障害の検査・診断

アルコール性肝障害の診断は、患者さんのアルコール摂取歴や症状、血液検査、そして画像検査の結果を総合的に評価して行われます。特に、長期間にわたって飲酒を続けてきた患者さんでは、定期的に肝臓の働きをチェックするための血液検査が重要です。
血液検査では、肝臓の状態を示すAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)やALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)という酵素の数値が上昇していることが多く見られます。特に、ASTとALTの比率が2以上の場合は、アルコール性肝障害の可能性が高いとされています。また、γ-GTP(ガンマグルタミルトランスフェラーゼ)という酵素の値も上がっていることが多く、これもアルコールによる肝臓へのダメージの指標となります。これらの値は禁酒により改善するかも診断のポイントとなります。
画像検査としては、まず超音波検査(エコー)が行われ、脂肪が肝臓にたまっている状態(脂肪肝)や、肝硬変(肝臓が硬くなり機能が低下している状態)がないかを確認します。さらに、CTやMRIといった検査で肝臓の構造や脂肪のたまり具合、線維化(肝臓の硬くなる変化)の詳細を確認することができます。肝硬変が進んでいる可能性がある場合は、エラストグラフィー(FibroScan)という装置を使って肝臓の硬さを測定し、病気の進行度を評価します。
また、アルコール性肝障害とほかの肝疾患(例: ウイルス性肝炎など)を鑑別するために、HBs抗原やHCV抗体、抗ミトコンドリア抗体、抗核交代などの検査が行われます。これにより、ほかの原因による肝障害が否定され、アルコールが主な原因であることを確認します。

アルコール性肝障害の治療

アルコール性肝障害の治療の第一歩は、アルコールを完全にやめることです。これが最も効果的な治療法で、禁酒後、数週間から数ヶ月以内には肝機能が改善し、症状が軽くなることが一般的です。重度のアルコール性肝炎では、炎症を抑えるためにコルチコステロイド(例: プレドニゾロン)などが使われることがあります。
栄養療法も重要な治療のひとつです。アルコールを長期間摂取すると、ビタミンやミネラルが体内から失われやすくなります。特にビタミンB群やアミノ酸は必須です。例えば、ビタミンB1(チアミン)が不足すると、重度のケースではウェルニッケ脳症という神経症状が出てしまうことがあります。これらの栄養素の補充は、アルコール性肝障害の治療では欠かせません。
また、アルコール性肝障害が進行して肝硬変になってしまった場合、肝移植が唯一の根本的な治療法になることがあります。しかし、肝移植を受けるためには、アルコール依存症が解決していることが条件になるため、患者さんがアルコールを止められない場合には移植ができないこともあります。そのため、禁酒を続けることと並行して、精神的なサポートやアルコール依存症の治療も重要な要素になります。

アルコール性肝障害になりやすい人・予防の方法

アルコール性肝障害は、長期間にわたり大量のアルコールを摂取する人に多く見られます。特に毎日大量に飲酒する習慣がある人やアルコール依存症のある人は、リスクが高いです。また、日本人は遺伝的にALDH2の活性が低いことが多く、欧米人に比べてアルコールの影響を受けやすいとされています。
予防には、まず適度な飲酒が重要です。厚生労働省では、1日あたりのアルコール摂取量を純アルコール20g以内(ビール中瓶1本、日本酒1合程度)とすることを推奨しています。また、週に数日は禁酒日を設け、肝臓を休ませることも大切です。
さらに、定期的に健康診断を受け、肝機能の状態を確認することが早期発見に役立ちます。過去にアルコール性肝障害を経験したことがある人や、家族にアルコール依存症の既往がある人は、特に定期的な検査が推奨されます。


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