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飯坂温泉の『温泉むすめ』飯坂真尋ちゃんプロジェクト実行委員長さんに弁財天真尋ちゃん誕生秘話から足元に眠っている地域の宝を磨き上げる展望まで聞いてきました!

飯坂温泉の『温泉むすめ』飯坂真尋ちゃんプロジェクト実行委員長さんに弁財天真尋ちゃん誕生秘話から足元に眠っている地域の宝を磨き上げる展望まで聞いてきました!
相羽裕司
どうも。マンガタリライターの相羽です。

福島県は飯坂温泉(いいざかおんせん)。

最近は温泉地をモチーフにした地域活性クロスメディアプロジェクト、『温泉むすめ』とのコラボで盛り上がっております。

飯坂温泉でいったい何が起こっているのか、詳しく知りたい!

そう思った僕は取材のアポイントメントを打診し、何と、飯坂温泉と『温泉むすめ』コラボの現地のキーマンの一人、「飯坂真尋ちゃんプロジェクト」実行委員長でもあられる吉川屋七代目さん

 

吉川屋七代目さん

 

こと畠正樹さんにインタビューすることに成功したのでした。

取材するに至った詳しい経緯は、先行記事にも書かせて頂いております!

『温泉むすめ』の飯坂真尋ちゃんを尋ねて飯坂温泉を徹底取材!伝統の公衆浴場×最新のキャラクター文化で盛り上がる温泉地の過去、現在、未来

『温泉むすめ』の飯坂真尋ちゃんを尋ねて飯坂温泉を徹底取材!伝統の公衆浴場×最新のキャラクター文化で盛り上がる温泉地の過去、現在、未来

2019年11月19日

先行記事では飯坂温泉と『温泉むすめ』とのコラボの基本情報を伝えつつ、飯坂真尋ちゃんで溢れる現地の風景を写真付きでレポートしたりしておりますので、まだ読んでない方は是非ご一読して頂けたらと思います。

 

●今回のインタビューの登場人物

相羽裕司
宮城県仙台市在住のフリーライター。好きな漫画はらぐほのえりか先生の『ちかのこ』。らぐほのえりか先生がイラストを担当された「飯坂真尋ちゃんフレーム切手」をきっかけに今回飯坂温泉を取材に訪れる。
 
吉川屋七代目さん
 
福島県は飯坂温泉の「飯坂真尋ちゃんプロジェクト」実行委員長にして、旅館「吉川屋」の若旦那でもあられる。飯坂温泉と『温泉むすめ』コラボのキーマンの一人。人生に影響を受けた漫画は木城ゆきと先生の『銃夢』。

 

今回のインタビューで吉川屋七代目さんにお聞きしたメイントピックスは、

 

  • 普通の真尋ちゃんとはバージョン違いである吉川屋オリジナルの「弁財天真尋ちゃん」の誕生秘話と、飯坂の文化・伝承もモチーフにしているこだわりポイント
  • 日本郵政から発売された「飯坂真尋ちゃんフレーム切手」にいかに飯坂温泉の魅力が詰っているかの熱いお話
  • 飯坂温泉伝統の「公衆浴場」と「飯坂真尋ちゃん」のコラボ「熱湯スタンプラリー」に込められた「地域の宝は足元に眠っている」という想い
  • 各温泉地固有の伝承・歴史・文化(資産)といった代替不可能な固有の価値を磨き上げていけば、「どこの土地でも魅力はある」という興味深いお話
  • 温泉地とファンの関係の新しいカタチを試行錯誤しながら、「繋がり」を東北規模に広げていきたいという未来へのビジョン

 

などなど。

『温泉むすめ』に対する、飯坂真尋ちゃんに対する、そして飯坂温泉に対する熱い想いをじっくりと聞いてきました!

 

目次

1、弁財天真尋ちゃん誕生物語!飯坂の文化から「かむろみ」伝承まで象徴する細やかな作り込みに注目

インタビューが行われたのは、奥飯坂・穴原(おくいいざか あなばら)温泉の旅館「吉川屋」。

 

吉川屋

 

訪れたライターがさっそく目にしたのは、「吉川屋」オリジナル真尋ちゃんである、「弁財天真尋ちゃん」のパネルがロビーに立っている風景です。

 

右:弁財天真尋ちゃん

 

さっそく、「弁財天真尋ちゃん」の話題をきっかけに、『温泉むすめ』について、飯坂真尋ちゃんについて、そして飯坂温泉について深堀りしていくインタビューが始まったのでした。

 

1-1 貴重な「弁財天真尋ちゃん」のラフを初公開!制作には吉川屋七代目さんも深く関わっていた!

相羽裕司
今日はよろしくお願いします! ちょうど今、そちら(ロビー)で「弁財天真尋ちゃん」を拝見して、何というか「カワイイ」にとどまらない「ありがたい」方向での魅力を感じました。
吉川屋七代目さん
そう言って頂けると嬉しいですね。
 

吉川屋のオリジナルデザインである「弁財天真尋ちゃん」

(「吉川屋」のホームページより)
 
相羽裕司
エンバウンド(ライター注:『温泉むすめ』プロジェクトの運営会社)の橋本竜プロデューサーが、最近は地域の方々と話し合いながら、一緒にキャラクター作りを行うケースが増えているといった趣旨のことを語っておられますが(参考:『温泉むすめ』プロデューサー橋本竜が語る、地方活性化プロジェクト新展開と2次元コンテンツの今)、「弁財天真尋ちゃん」のようなオリジナルデザイン真尋ちゃんの制作には、エンバウンド様のみならず温泉地の方でも関わっておられるのでしょうか。たとえば、吉川屋さんの方からも何かディレクションを出したりも?
吉川屋七代目さん
そうですね。かなり丁寧にやり取りして制作しております。「弁財天真尋ちゃん」に関しては私自身がラフを描いてイメージをお伝えしたりもしていますね。
相羽裕司
おお! 「弁財天真尋ちゃん」誕生秘話ですね! 『温泉むすめ』や飯坂真尋ちゃんのファンのみならず、飯坂温泉の例を見て『温泉むすめ』とのコラボに興味を持っている他の温泉地の方などにとっても参考になる話であると思います。是非、お聞かせください!
吉川屋七代目さん
わかりました。あくまで吉川屋の場合はこう進めていったという話になりますが、私は学生の頃は漫画研究会でして。
相羽裕司
そういえば、Twitterにご自身でも漫画をアップされたりしていましたね。
吉川屋七代目さん
より詳しい経緯としては、まず私の友人に東京でデザインと漫画をやっているプロの者がおりまして、彼と久しぶりに会った時にお酒を飲みながら(笑)軽い気持ちで「今こういう企画やってるんだけど」と「弁財天真尋ちゃん」の話をしました。そうしたら、ありがたいことに彼がラフを描いてくれたんですね。それが、こちらになります。
 

吉川屋七代目さんのご友人が描かれた「弁財天真尋ちゃん」の初期ラフその1

 
相羽裕司
「弁財天真尋ちゃん」の原初のイメージラフですね。貴重な資料を見せて頂いてありがとうございます。
吉川屋七代目さん
こちらを元にして、細かいところを調整した私自身が描いたラフがこちらとなります。
 

吉川屋七代目さんご自身が描かれた「弁財天真尋ちゃん」の初期ラフその2

 
相羽裕司
この段階でかなり、現在の「弁財天真尋ちゃん」の基本的なイメージは固まっていると感じます。
吉川屋七代目さん
これらの初期イメージラフを元にエンバウンド様の方で最初のラフ案をあげて頂いて、そこからさらにやり取りしながら、細かく調整していったという流れになります。
相羽裕司
かなり、クリエイティブな作業に吉川屋七代目さんご自身が関わっておられたんですね!
 

1-2 「飯坂けんか祭り」をモチーフにしたティアラ!意匠には飯坂温泉の文化が散りばめられている!

相羽裕司
では、吉川屋七代目さんご自身もビジュアル面の制作にかなり関わっておられるということで、「弁財天真尋ちゃん」のこだわりポイントについてお話して頂けたらと思います。
吉川屋七代目さん
まずは、髪飾りですね。
 

「弁財天真尋ちゃん」が身につけている髪飾り

 
吉川屋七代目さん
「弁財天真尋ちゃん」がつけてるティアラは「飯坂けんか祭り」がモチーフになっているんですよ。
相羽裕司
本当だ、二体の太鼓屋台が鳥居の前でぶつかり合うような意匠になっていますね。
 
 
「飯坂けんか祭り」:300年続く飯坂の伝統的なお祭りで、太鼓屋台が境内でぶつかり合う、「日本三大けんか祭り」に数えられる勇壮さで知られている。
 
 
吉川屋七代目さん
飯坂温泉の文化をモチーフとしてデザイン面にも取り込んで頂いています。
相羽裕司
後でお話を伺いますが、「弁財天真尋ちゃん」というコンセプト自体が、飯坂温泉の川の伝承からということで、飯坂温泉の歴史・文化とかなり密接に結びついていますしね。
 

1-3 ノーマル真尋ちゃんを基調に、虹色、ポニーテール、スカートなどで「SSR感」を演出!

吉川屋七代目さん
吉「川」屋ということで「水」にはこだわりがあるので、「弁財天真尋ちゃん」には水の羽衣(のようなもの)を纏ってもらっているのですが、最初は一色だった羽衣の水のオーラをプリズムに変更して頂きました。『SSR感がある』と言って頂いたり、ファンの方々からも好評だったりします。
相羽裕司
虹のプリズムはSSR感がありますよね。
 

羽衣は水色をベースにほんのりと虹色を帯びている。

 
「SSR感」:近年隆盛のキャラクターを集めるタイプのスマートフォンゲームにおいては、いわゆる「ガチャ」で「SSR」と呼ばれるレアで強力なキャラクターを引き当てた時に、画面に虹色の演出が現れるものがけっこう多い。ここでは、「弁財天真尋ちゃん」が纏う虹色のプリズムが、そのような「SSR」的な強力なキャラクターであることを連想させることを述べている。
 
 
吉川屋七代目さん
あとは、真尋ちゃんがポニーテールになっているのもポイントですね。ノーマル真尋ちゃんは髪を後ろで結んでますがポニーテールと形容するほど長くはないところを、「弁財天真尋ちゃん」にはポニーテールになってもらっています。煌びやかな衣装の方に目がいって今一つ気づいてもらえてない部分かもしれないのですが、いわゆるポニテでニーハイなんですよ(笑)
 

「弁財天真尋ちゃん」はポニーテール!

 
相羽裕司
本当だ。ノーマル真尋ちゃんと比べると「弁財天真尋ちゃん」は履いている靴下も二―ハイソックスになっているんですね。ポニテでニーハイは強いですね(笑)
吉川屋七代目さん
加えて、ノーマル真尋ちゃんのスカートをベースにしつつ、「弁財天真尋ちゃん」の方は「ヒラヒラ」がついて豪華になっていたりします。
 

「弁財天真尋ちゃん」はスカートも豪華になっている。

 
相羽裕司
「プリズム」にしろ「ポニーテール」にしろスカートの「ヒラヒラ」にしろ、ベースとなるオリジナル真尋ちゃんを基調にしつつ、何らかの力(神秘の力!?)で要所要所がパワーアップしたようなデザインになっているんですね。
 

1-4 「しゃがむ土偶」をイメージ!?真尋ちゃんと一緒に描かれていた土偶にも深い意味があった!

吉川屋七代目さん
あと、注目して頂けると嬉しいのは土偶(どぐう)ですね。
相羽裕司
あ。確かに土偶を連れていますね。失礼ながら一見した印象だと何か連れてるな~くらいの感覚でしたが、これ、土偶ですね。
 

「弁財天真尋ちゃん」と共に土偶が描かれている。

 
吉川屋七代目さん
私、土偶の話になるとまる一日くらいお話しできるのですが、どうしましょうか?(ライター注:吉川屋七代目さんは縄文文化についても造詣が深い。)
相羽裕司
今回は『温泉むすめ』と飯坂真尋ちゃんの話を伺うということで取材させて頂いていますので、土偶の話はほどほどでお願いします!
吉川屋七代目さん
分かりました。ではざっくりとですが、まず初期案では一体だった土偶を私の方からの依頼で二体に増やして頂きまして、ビジュアル的には二体の配置で立体感を演出しています。
相羽裕司
もと漫画研究会ならではの演出ですね。
吉川屋七代目さん
そして、追加して頂いた二体目の土偶が、福島市飯坂町の上岡遺跡で発掘され国重要文化財にもなっている「しゃがむ土偶」をイメージしてもらっているというのがあります。
 

二体目の土偶は国重要文化財の「しゃがむ土偶」をイメージしている!

 
相羽裕司
そこまでは言われないと気づきませんでした! 先ほどの「飯坂けんか祭り」をモチーフとしてティアラに組み込んでいる話と同じく、土偶も地域の文化(遺産)を「弁財天真尋ちゃん」のイラストに込めて表現している要素だったんですね。
吉川屋七代目さん
(下級の)神さまでもある真尋ちゃんが、縄文の精霊を従えている的な一枚になっていますね(笑)
 

1-5 「弁財天真尋ちゃん」は飯坂温泉の「川」の伝承から!「流れ」という概念を重要視している!

相羽裕司
続いてビジュアル面からコンセプト面のお話に移りたいと思います。僕もけっこう神話とか伝承とか好きな人なんですが、「弁財天」はインド神話だと「サラスヴァティー」で川の女神なので(ライター注:インド神話や仏教と日本の伝承・神様との関係には所説あります)、飯坂温泉および吉川屋の川の伝承に出てくる女神(的な存在)からとったのかなと思ったのですが。
吉川屋七代目さん
仰る通りです。もっとも、伝承の原文にはあの不思議な女神が弁財天であると直接は書いてないのですが。そこは解釈ですね。
 
 

ライター注:飯坂温泉と関係があると伝えられる「俵藤太(たわらのとうた)伝説」。川に横たわっていた大蛇の上を俵藤太が平気で渡っていくと、大蛇は美しい女の姿へと変わり、俵藤太に大百足の退治を依頼したという。伝説に登場する川の女神からとった『「かむろみ」の郷』は「吉川屋」のキャッチコピーにもなっている。

参考:歴史 | 飯坂温泉オフィシャルサイト

 

吉川屋七代目さん
やや抽象的になりますが、吉「川」屋で生まれ育ったということで私自身「川」に縁を感じており、特に「流れ」という概念は個人的なテーマだと思っていたりもするんです。川の「流れ」、音の「流れ」、言葉の「流れ」などですね。
相羽裕司
音の「流れ」。なるほど! だから「弁財天真尋ちゃん」は琵琶を持っているんですね! 今、僕の中で色々なものが繋がりました!
吉川屋七代目さん
そうです。音楽の「流れ」ですね。私自身も三味線を弾くので、かなりこだわった部分ですね。
 

1-6 「かむろみ真尋ちゃん」だった可能性も!?こだわった「弁財天真尋ちゃん」という名称!

相羽裕司
先ほどの「流れ」の話ですと、言葉の「流れ」についての話ということになりますが、吉川屋に関して言えば「かむろみの郷」というキャッチコピーがありますよね。
吉川屋七代目さん
はい。ですから初期案としては「かむろみ真尋ちゃん」という名称も検討しました。ですが、「かむろみ」という言葉は真尋ちゃんのファンの方々にそこまでピンときて頂けないかなと思いまして。
 
 
「かむろみ」:女性の神さまを指す語。
 
 
相羽裕司
確かに、「かむろみ」は最近ですとそこまで一般的に使われていない言葉かもしれませんね。
吉川屋七代目さん
そこで、最近では「弁財天」が『モンスト』(ライター注:株式会社ミクシィ内のスタジオ「XFLAG」から配信されているゲームアプリ『モンスターストライク』)のキャラクターとしてヒットして世間の認知度が高かったことなどもあり、川の女神繋がり、かつユーザーへの分かりやすさを考慮し、最終的に「弁財天真尋ちゃん」という名称になりました。
相羽裕司
僕もライターのはしくれなので大事にしている部分ですが、ワ―ディング(言語化)にはかなりこだわったということですね。功を奏していると思います。僕の感覚でも「かむろみ真尋ちゃん」よりは「弁財天真尋ちゃん」の方がキャッチーで、現在のファンの間での認知度の高さに繋がっていると思います。
 

「弁財天真尋ちゃん」(「吉川屋」にて)

 
相羽裕司
しかしもともと「かむろみ」の伝承がある吉川屋の若旦那である畠さんが、(下級の)神さまという設定であるという点では「かむろみ」的な存在たちのプロジェクトともとらえられる『温泉むすめ』と出会ったわけですね。「飯坂真尋ちゃんプロジェクト」の実行委員長にもなられて、川の神さまとしてのコンセプトを深堀りした「弁財天真尋ちゃん」を制作したというのは、並々ならぬ「縁」のようなものを感じますね。
吉川屋七代目さん
ありがとうございます。不思議なご縁を頂いている部分かもしれないですね。
 

2、真尋ちゃん切手制作秘話!唄を歌い継ぎ、川に映る街灯りを眺める真尋ちゃんに込められた深い想い

今回ライターが飯坂温泉を訪れるきっかけにもなった、「飯坂真尋ちゃんフレーム切手」。

2019年9月13日(金)に、日本郵政さんから発売されたものです。

イラストを担当されたらぐほのえりか先生と制作過程でやり取りしながら、飯坂温泉の魅力をギュっと詰め込んでもらっているとのことです。

ここからは知ると、なるほど!! とさらに真尋ちゃん切手の素敵さに気づける切手に込められている深い想いについて語って頂きます。

 

2-1 飯坂の伝統的な歌唱を真尋ちゃんが「若旦那衆」と共に歌い継いでいる

「三味線」

吉川屋七代目さん
若旦那衆の三味線に合わせて真尋ちゃんが歌っているという一枚ですが、実はこれ、真尋ちゃんが歌っているのは「飯坂小唄(いいざかこうた)」という設定なんです。
相羽裕司
その唄は地元では有名な歌なんですか?
吉川屋七代目さん
地元では広く知られていると思いますよ。
 
 
「飯坂小唄」:1931年制作の福島県福島市の新民謡。作詞:西条八十、作曲:中山晋平。
 
 
吉川屋七代目さん
少し背景を説明させて頂きますと、背後で三味線を弾いている「若旦那衆」の存在がポイントだったりします。
相羽裕司
真尋ちゃんと「若旦那衆」が一緒に描かれていることに意味がある一枚ということですね。
吉川屋七代目さん
飯坂には昔、芸者さんたちがたくさんいて「飯坂小唄」を唄っていたんです。しかし、観光客が減少していくにつれ芸者さんたちもいなくなっていって、「飯坂小唄」の歌い手もいなくなっていきました。そこで、「飯坂小唄」といった飯坂の文化的な歌唱を途切れないように継承していこうと立ち上がったのが「若旦那衆」であるという経緯があります。
相羽裕司
なるほど。飯坂温泉の最新のアイコンの一人である飯坂真尋ちゃんが伝統の「飯坂小唄」を「若旦那衆」と共に唄い継いでいるという一枚なわけですね。伝統と最新がミックスされている素晴らしい一枚だと思います。
 

2-2 ラジウム玉子の神さまが描かれている?八百万の神さま的な世界観もさりげなく表現されている

「ラジウム玉子」

吉川屋七代目さん
実は切手のそこかしこに「不思議な存在」が描かれていまして。
相羽裕司
なんでしょう。気づかなかったですね。
 
 

ラジウム玉子の神さま(?)

 
 
吉川屋七代目さん
こちらは、私がデザインしたものをらぐほのえりか先生が採用してくださったかたちで、ラジウム玉子の神さまという設定なんです。
相羽裕司
ああ! 本当に何かいますね! 玉子の神さまじゃなくて、ラジウム玉子の神さまと、もう一歩限定的な神さまなんですね(笑)
吉川屋七代目さん
そうです(笑)
相羽裕司
各温泉地それぞれに(下級の)神さまである「温泉むすめ」がいるということで、『温泉むすめ』自体がかなりいわゆる「八百万の神さま」的な世界観がベースにあるプロジェクトだと思いますが、こういう何気ないものにも神さまが宿る的な表現は僕はとても好きです。ラジウム玉子にも、神さまが宿っていてイイという。
吉川屋七代目さん
他にも「い」ますので、是非探してみてください。
相羽裕司
本当だ! 「い」ますね!(ヒント:「桃」の切手)
 

2-3 飯坂の昔の人たちが見ていた川に反射する街アカリを真尋ちゃんも、今を生きる我々も見ている

「景観」

吉川屋七代目さん
初期のラフでは真尋ちゃんが実際には(リアルでは)立てない位置にいたのですが、駅の窓から真尋ちゃんが風景を眺めているような図案に変更して頂きました。
相羽裕司
実際に現地を訪れて、真尋ちゃんの位置で川を眺めようとすれば可能な構図になっているんですね。
吉川屋七代目さん
その辺りはファンの方々のいわゆる「聖地巡礼」も意識して、切手に描かれている場所を聖地化していけたら……というのを狙っている面もあります。
相羽裕司
旅館の灯りが河に反射しているのが綺麗な一枚ですよね。
吉川屋七代目さん
飯坂の昔の人たちが見ていた川に反射するアカリを、今を生きる私たちも、真尋ちゃんも見ている……という表現になっている一枚ですね。
 

2-4 飯坂といえば「坂」!何気なく描かれていた「飯坂」の風景に大切な日常を見つける

「坂」

吉川屋七代目さん
何気ない風景なんですが、真尋ちゃんが指している石碑がポイントの一枚です。
相羽裕司
ああ! 「飯坂」って書いてありますね。
吉川屋七代目さん
飯坂は名前の通り坂が多いのですが、その全てにこのような石碑が立っていて「坂めぐり」ができたりもします。その中で、まさに「飯坂」という名前の坂の風景ですね。
相羽裕司
先ほど何気ない場所、こと、ものに神さま的な何かが宿っているのかもしれないという世界観の話をしましたが、一見ありふれた街角、坂にも意味は見つけられるという意味で、とても素敵な一枚だと思います。
吉川屋七代目さん
キャッチ―さの視点からは映えない構図なので(笑)、真尋ちゃんに可愛らしく石碑を指さしてもらっています。
相羽裕司
一見しては映えないような、何気ない場所、ありふれた日常の街角に真実性のようなものがあったりすると思いますよ。
 

3、伝統の「公衆浴場」×最新の「飯坂真尋ちゃん」で地域の宝を磨く試み「熱湯スタンプラリー」裏話

先行記事でも紹介した、飯坂温泉で現在(2019年9月1日~2020年2月28日/景品がなくなり次第終了)開催されている「熱湯スタンプラリー」

9か所ある公衆浴場のうち、7か所訪問&そのうち1か所入浴でクリアとなり、とてもレアな特別仕様の真尋ちゃんノベルティクリアファイルをゲットすることができます。

この伝統の「公衆浴場」と最新の「キャラクター文化(ビジネス)」である「飯坂真尋ちゃん」が同時に成立している興味深い企画についても、舞台裏や込められた想いをお聞きしました!

 

3-1 歩いて回るとまた景色が違って見える!スタンプラリーならではの体験を届けたい

吉川屋七代目さん
率直なところ、年々(「公衆浴場」の)利用者は減少傾向にあったんです。「公衆浴場」を管理している方々に話を持っていった時、「こういうのを待ってた!」と言って頂きました。
相羽裕司
地元の人としては身近にある「公衆浴場」を改めて見てもらうきっかけになりますよね。
吉川屋七代目さん
今回の企画の準備で、私自身改めてルートの確認も兼ねて徒歩で飯坂の街を歩いてみたんですが、普段車で通っている道も、歩いて回るとまた景色が違って見えるんです。
相羽裕司
飯坂の街は、歩いているだけで癒されるものがありますよね。
吉川屋七代目さん
「公衆浴場」で温泉に入って頂くのももちろんですが、スタンプラリーを通して街を歩いて頂いて、普段とは違う景色を見てもらうことそのものを「体験」として届けられたらなと思っているんです。
 

3-2 熱いお湯はマイナス要素?「チャレンジ企画」として「見え方」を変えファンに楽しんでもらう

吉川屋七代目さん
「熱湯スタンプラリー」を開催するにあたっては、飯坂温泉の熱いお湯にファンの方々にどのように馴染んで頂くかを考えました。
相羽裕司
慣れると、その熱さがむしろイイんですけどね。
吉川屋七代目さん
お湯が熱いという点で、それは訪れてくる観光客に対して優しくないんじゃないかといった、厳しいご意見を頂くこともあったんです。そこで、お湯が熱いという事象の「見え方」を変えるということを試みました。熱いお湯に挑戦して頂く、一種の「チャレンジ企画」として開催することにしたんです。
相羽裕司
客観的なお湯の温度は変わらない中、プレイヤーの主観の方の「見え方」が変わるように働きかけたんですね。
 

3-3 内輪だけでなく外部の視点を入れて難易度を調整した結果SNSでのクリア報告が良い広報に

吉川屋七代目さん
実は当初、「熱湯スタンプラリー」のクリア条件は、全部の浴場で入浴してもらうことにしようと思っていたんです。
相羽裕司
実際に実施されたクリア条件は、七か所訪れて、一か所入浴ですよね。
 

「公衆浴場」の一つ「鯖湖湯(さばこゆ)」にも真尋ちゃんが

 
吉川屋七代目さん
ええ。飯坂真尋ちゃんプロジェクトでは福島学院大学の木村先生(短期大学部情報ビジネス学科長 教授/地域連携センター 副センター長)にアドバイザーとしてサポートして頂いているのですが、「熱湯スタンプラリー」の企画の開催にあたって相談したところ、それではクリア条件が厳しすぎる。今回は「公衆浴場」の存在をファンの皆さんに知って頂くのが一番の目的なのだから、もうちょっと気軽に参加してもらえるようにクリア条件は一か所入浴にした方がよいという助言を頂きまして。
相羽裕司
僕の感覚でも、「全部入浴」はちょっと大変かな、という気がします。
吉川屋七代目さん
内輪だけで運営するのではなく、外部の方の視点を入れるようにしていて良かった部分ですね。飯坂の者としては是非全部に入浴してほしかったのですが、外からこられる方の目線としてはもう少し気軽に参加したい。その溝をアドバイスで上手く埋めて頂いたかたちです。結果としてはクリアしやすくなった分、クリアしたファンの方々がクリア報告を写真付きでSNSにアップしてくれたりもして、広報の面からもプラスとなりました。
 
相羽裕司
「熱湯スタンプラリー」という企画自体がある種のゲーム性があるもので、外部のアドバイザーの意見も取り入れながら、いわば「難易度の調整」をしたカタチですよね。ゲームをデザインして、難易度の調整も丁寧に行う。かなりクリエイター的な活動をやっていると感じます。
吉川屋七代目さん
ありがとうございます。
 

4、どこの土地でも魅力はある!地域の伝承・歴史・文化などの強みを『温泉むすめ』で磨き上げていく

ここまで、

 

  • 「弁財天真尋ちゃん」について
  • 「飯坂真尋ちゃんフレーム切手」について
  • 「熱湯スタンプラリー」について

 

それぞれの魅力を深堀りするお話を伺ってきましたが、これら三つの根底にある共通する「想い」についてもお話して頂きました。

吉川屋七代目さん
私、ずっと「地域の宝は足元に眠っている」と思っていて、それを磨き上げていきたいという想いがあるんです。
相羽裕司
なるほど。ここで言う「地域の宝」とは、本日の話で伺った、伝承、歴史、文化(資産)などですね。
吉川屋七代目さん
はい。私の持論なのですが、『どこの土地でも魅力はある』と思っているんです。
相羽裕司
興味深い見解です。別に、飯坂温泉だけが特別じゃないという話ですね。
吉川屋七代目さん
表面的に「●●メニュー」とか「●●プラン」とかを打ち出しても、他の温泉地や旅館でもすぐ真似が出来てしまうので、決定的な価値を生み出すことはできません。その点で、伝承や歴史・文化というのはその土地その土地で固有のものですから、そこを深堀りしていくことでユニークな価値を生み出していけるのではないかと考えているんです。
相羽裕司
まさに、先ほど語っておられた「弁財天真尋ちゃん」や「公衆浴場」の「熱湯スタンプラリー」の方向ですね。伝承や文化(資産)といったその土地固有のものを、飯坂真尋ちゃんという最新のキャラクター文化を通して「価値」として再創造していくというような方向性はこういう言葉を使っていいのか分かりませんが「カッコいい」です。僕の肌感覚でも、伝承を伺った後だとより「弁財天真尋ちゃん」に逢いたくなりますし、歴史を知った後だとより「公衆浴場」入ってみたい! って思いますね。
吉川屋七代目さん
難しいことではあるんですけど。飯坂真尋ちゃんをきっかけに、足元に眠っている「地域の宝」を磨いて、伝えていきたい、届けていきたいという想いがあります。
 

5、温泉地とファンとの新しい関係を模索しながら、飯坂温泉にとどまらず「繋がり」を東北へ!

最後に、これからの展望についても語って頂きました。

吉川屋七代目さん
真尋ちゃんのファンの方々には単なる「観光客」ではなく、少しずつ真尋ちゃんの「応援団」みたいになっていって頂けたらなという想いもあります。
相羽裕司
外部から観光に訪れるだけじゃない、もう少し温泉地そのものに近しい存在になっていって頂くという感じでしょうか。
吉川屋七代目さん
繰り返し飯坂温泉を訪れてくださっているファンの方々から話を伺うと、ありがたいことにもう少し真尋ちゃんのために、ひいては飯坂温泉のために何かしたいと思って頂けていたりもするんです。そういったニーズを汲みとる……ではないですが……
相羽裕司
『温泉むすめ』のファンの方が、キャラクターの誕生日に自主的に温泉地を掃除して帰ったなんて話も聞きおよびますしね。
吉川屋七代目さん
まだイメージの段階ですが、たとえばイベントの時など、イベントを開く側と訪れる側という二分だけじゃなくて、何らかのかたちで「一緒に作っていく」ようなことはできないか。色々と試行錯誤していきたいと考えてはいます。
相羽裕司
そのようなファンと温泉地の関係は、飯坂真尋ちゃんと、飯坂真尋ちゃんによって磨かれた「地域の宝」を中心としたコミュニティのような印象を受けます。
吉川屋七代目さん
「コミュニティ」もかなり近い言葉ですね。
相羽裕司
あとはやはり先ほど言葉にされていた「応援団」でしょうか。
吉川屋七代目さん
そうですね。「応援団」は現時点でかなりイメージに近い言葉ですね。真尋ちゃんの「応援団」。飯坂温泉の「応援団」のような繋がりを、温泉地とファンの間で作っていけたら……という展望は持っています。
相羽裕司
僕は専門家ではないので本格的に評論したりはできないのですが、会社や地域といった従来の共同体の力は弱くなり、人と人との繋がりが希薄になっている……といった言説が多い近年において、逆の流れに感じられて興味深いです。
吉川屋七代目さん
あとは、そういった繋がりを東北規模へと広げていきたいというビジョンもあります。こちらは今、既に動き出したりもしております。
相羽裕司
畠さんが仰る「地域の宝」は他の東北の温泉地にもあるわけですから、『温泉むすめ』とのコラボを通して各地の「地域の宝」が輝き、光が結ばれていったら……というような未来ですね。「何か」が起こりそうですね。お話を聞いていて今とてもワクワクしております。
 
ライター注:インタビューが行われた2019年10月末日から約二か月後の2019年11月26日(火)、「温泉むすめ みちのくスタンプラリー~つなげ東北!! 湯夢色バトン~」の開催が発表されました!
 
 

 
「これから」の東北を目撃に、ゆっくりと温泉に入りに、あるいは歴史ある温泉地を探訪しに、みなさん是非東北へお越しください!
 
 
 
吉川屋七代目さん
難しいことではあるのですが、一つ一つ取り組んでいけたらと思っています。
相羽裕司
本日はこれからの令和の時代の温泉文化、ひいては地方の街造りをアクティブにクリエイトしていこうという熱量、安易な言葉になってしまいますが愛を感じることができました。暗い話題が多い気がする昨今ですが、キャラクター文化(ビジネス)の未来について、温泉地の未来について、東北の未来について、前向きなお話を伺うことができました。インタビューを読んでいて少し希望が感じられるようになったという読者の方もおられるのではないかと思います。
吉川屋七代目さん
こちらこそ、かなり深いところまでお話することができて楽しかったです。ありがとうございました!
相羽裕司
この度は取材とインタビューに丁寧に対応して頂き、本当にありがとうございました!
 
(インタビューは2019年10月末日、「吉川屋」にて行われました。)
 

6、まとめ

今回の記事では「飯坂真尋ちゃんフレーム切手」がきっかけで飯坂温泉に興味を持ったライターが、実際に飯坂温泉を訪れて「飯坂真尋ちゃんプロジェクト」実行委員長でもあられる吉川屋七代目さんこと畠正樹さんにインタビューをさせて頂き、

 

  • 吉川屋のオリジナル真尋ちゃんである「弁財天真尋ちゃん」の誕生秘話を聞きながら、制作にあたってのこだわりのポイントや飯坂の川の伝承との関係を伺ったり
  • 「飯坂真尋ちゃんフレーム切手」に纏わる、伝統の唄の継承、川に反射する街アカリを昔の人も今の人も見ているという表現……といった込められた「意味」について話して頂いたり
  • 「熱湯スタンプラリー」開催にあたっての、チャレンンジ企画として熱いお湯への「見え方」を変えることを試みたこと、外部の目から見た難易度の調整をしたこと……といった裏話を教えて頂いたり
  • 「地域の宝は足元に眠っている」というキーワードで『温泉むすめ』や飯坂真尋ちゃんを通して、地域の伝承・歴史・文化(資産)といった温泉地固有の価値を磨き上げていきたいという「想い」を伝えて頂いたり
  • 飯坂真尋ちゃんをきっかけに温泉地とファンの関係の新しいカタチを模索しながら、ゆくゆくは繋がりを東北規模に広げていきたいという未来のビジョンを語って頂いたり

 

といった伺った内容をお届けさせて頂きました。

飯坂温泉と『温泉むすめ』の飯坂真尋ちゃんとのコラボレーション。

伝統の「公衆浴場」と最新の「キャラクター文化(ビジネス)」が補い合いながら、新しい「何か」がはじまっています。

未来へと歩みはじめている東北を目撃しに、あるいはゆっくりと温泉に入って癒されに、そして飯坂真尋ちゃんに逢いに。

ここまで読んでくださったあなたも、飯坂温泉へ、東北へ訪れて頂けたら、僕としても望外の喜びなのでした。

 相羽裕司(あいばゆうじ)

飯坂温泉オフィシャルサイト | いで湯とくだものの里

【先行記事】

『温泉むすめ』の飯坂真尋ちゃんを尋ねて飯坂温泉を徹底取材!伝統の公衆浴場×最新のキャラクター文化で盛り上がる温泉地の過去、現在、未来

『温泉むすめ』の飯坂真尋ちゃんを尋ねて飯坂温泉を徹底取材!伝統の公衆浴場×最新のキャラクター文化で盛り上がる温泉地の過去、現在、未来

2019年11月19日
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飯坂温泉の『温泉むすめ』飯坂真尋ちゃんプロジェクト実行委員長さんに弁財天真尋ちゃん誕生秘話から足元に眠っている地域の宝を磨き上げる展望まで聞いてきました!