たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「WORKING!!」八千代さんの刀の研ぎ方ってあってるの?

すっげーどうでもいい話をしてみます。
一生の内、少なくとも自分には縁のなさそうな世界の話です。
雑多な学問と書いて「雑学」と読む。そんな感じ。
ただし日本の技の極みな話です。
 

家が刃物店なため、いつも帯刀している八千代さんの幼少期。
ツッコミどころしか無いですがまあそれは置いておくとして、正直この「刀を持っているのに弱気で男の子にいじめられている女の子」図を見ていろんなものがギュオワー!と目覚めそうになりましたが押さえこみました。
大人だから。
 
まあそれはともかくとして、問題のシーンはここです。
常に帯刀しているため、その手入れもしなければいけませんが、八千代さん、包丁の研ぎ石で研いでるんですよね。
 
はいここ笑うところ……なんですが。
あ、あれ?
 
刀って研ぐものでしたっけ?
刀を研いでるシーンってほとんど見たことが無いのですよ。あれれおかしいなあ。
とはいえどう考えても刃物だから刃は欠けたりするでしょうし……とはいえ包丁と違ってあんまり研ぐと替えが効かないから取り返しがつかない。
(まあ包丁も取り返しがつかない貴重なものもありますが!)
うーん、どうにもこうにもイメージがわかない、刀磨ぎ。
佐藤さんが「刀ってのは砥石で研いでいいものなのか? まずいんじゃね?」というのはごもっとも。論点はずれてるけどあってる。
そんなわけでちびっと調べてみました。
 

●基本的な手入れ●

まず一番の要点としては素人は自分で磨ぐのはほとんど不可能ということです。
とりあえず具体的な、基本の手入れを見てみましょう。
 
日本刀の手入れ方法 ― 財団法人 日本美術刀剣保存協会 ―
基本的に刀は手入れが必須になります。
(真剣と練習用居合刀・模造刀は別物です。これは後述。)
で、リンク先見ていただけるとわかりますが、基本的に「毎回磨ぐ」ようなもんではないです。
まず一番重要なのは拭うこと。
とはいっても世界有数の鋭利中の鋭利な刃物です、迂闊にぬぐったら指がばっさり。
この時点で素人がやるもんじゃないものであることはわからんでも無いです……怖い怖い。
 
そして、よくルパン三世の五右衛門がやってる打粉!
あの刀をポンポン叩いてるやつです。
実はこの打粉が、砥石替わりです。
打粉と言うのは砥石の粉の固まりを綿や絹で包んだもので、軽く叩くとちょっとずつ粉が出ます。
その粉を刀身にかけて、うまーく丁寧に拭うことで細かく研がれるという仕組みが基本の手入れ、だそうです。
最後に油を塗って終り。この油も塗りすぎないのがコツらしい。よくわかりませんがベタベタしない程度。
 
というわけで、基本的に自分では、砥石では刀は研ぎません。
どおりで色々な作品で刀研いでるシーンがないわけですわ。
 

●正しい刀磨ぎ●

じゃあ刀は研がないものなのか?
と言われると答はNO。
プロフェッショナルの手によって刀は研がれます。
日本刀研磨 - Wikipedia
すごく詳しく書いてます。分かる人はこれ見たら分かるかも。自分はよくわかりませんでした。
難しいことがいっぱい書いてあるのですが、ようするにこれを見るだけで「すげー大変だ!」と言うのだけは間違いなく分かりました。
 
もうちょっと具体的に、実際に研いでいるプロの方のページを見てみます。
日本刀・刀剣 販売の専門店・東京【十拳-TOKKA-】<刀剣研磨・諸工作>
愛刀 - iタウンページ
工作料金表

●短刀は一振、8万円〜10万円
2〜3ヶ月
ただし、刀を研ぐ時は一般に、白鞘作り・白鞘直しなども同時に行うことが多いので、そちらの期間も考慮に入れること
この他、刀が特に良い時は上研ぎを注文することがあり、寸1万円、寸1万5千円と色々あります。(一寸は約3.03cm)

多分短刀でもこの8から10万って、安いです。多分。美術品扱いの刀の場合、長さにもよりますが数十万以上かかります。
要するに「包丁の切れ味よくするために研ぎます」というのと根本的な概念が違うんでしょう。
「刀を研ぐ=芸術作品を作る」ということに近い感覚を受けます。
とりあえず切れるようにする、じゃ刀の場合だめなんです。完璧に切れる限界まで、刃波を残しながら、その刀の生命を吹き込んであげないといけない。
しかも刀は世界でそうそう替えが出来るようなものではありません。世界に一本です。
だから「研磨する=消耗してしまう」という最大のデメリットがあります。それを避けつつ限界まで研ぐというのはこれはほんと、芸術といっていい。
芸術って言葉の意味分からないけど、少なくとも職人さんは命かけてやってると思います。
 
刀剣研磨 日本刀 研ぎ師 河本光誠(宏和)

刀に砥石を当てるという事は女性の化粧を落とし、素顔に返すようなもの。
その時点で刀工が鍛え上げた地鉄(じがね)、刃文が鮮明に現れる。
現代、研師の仕事は、刀の機能回復は言うまでも無く、刀の素顔に従って再び化粧を施し、より美しい美術品にする事、保存を助けることの2点が肝要である。
刀工と研師はそれぞれの役柄から、作曲家と演奏家にも例えられると思う。

しびれる表現ですね……。刀という最愛の女性のために魂の全てを注ぐメイキャッパー。世界に唯一無二の作品を、さらに唯一無二のものに仕上げるアーティストです。
先程いくつかのサイトの値段を見ましたが、これもおそらく固定料金ではないはずです。それぞれの刀の状態で値段が違うはず。
「安いところに頼もう☆」なんて考えていると、愛刀はきっと無残な結果になってしまうはずです。それだけ刀身が減る、ということですしね。まあとはいえ、安かろうがなんだろうが最上級の仕事をするのが、日本刀研磨師のプロの意識だとは、信じたいところです。

日本刀の研磨 ― 財団法人 日本美術刀剣保存協会 ―
刀鍛冶の物語、というのはたまに見ますが、「日本刀研ぎ師の物語」は結構面白そうな気がします。見学してみたいところですが、そんなあまっちょろい世界ではなく、集中力の邪魔をしてしまいそうなのでやめておきます。
とにかくひたすら、ほんのすこしずつ丹念に丹念に繰り返し磨き、波文を残しながら刀を飾り、命を吹き込む。それが刀研ぎ。
 

●自分で刀を研ぎたい方のためのレッスン●

ちなみに、素人向けではないですが自分で刀を研ぐ方法もあります。
あくまでも「真剣」ではなく、「練習用居合刀」などのためのメンテ、という風におさえてください。そして練習居合刀であっても基本はプロにお願いした方が確実にいいというのは最前提です。許可証付きの高級真剣を自分で適当に研ぐなんて考えただけでもゾッとします……あれ?八千代さん?
 
日本刀,美術刀剣御研処-日本堂
このページ全部面白いので、刀好きの方は是非見てみてください。
そもそも、居合刀研磨と一般の研磨が違うとかなんてなかなか言われないと知らない世界。
日本堂 研磨工程
このページなんかがすごく分かりやすいと思いますが、刀自体の形が「刃部分と峰」みたいに単純じゃないわけです。
図を見ているだけで「自分で研ぐぜ」なんて気がそげてきます。
そもそもなぜ日本刀を研ぐのが難しいかは、このへんがヒントになってくるかと思います。
刀剣研磨-研究室--->鋩子の研ぎ方について
日本刀の反りと、厚みが微妙に部位ごとに違う。
よってバランスを保つため、極めて研ぎづらさが加速している、ということのようです。
 
とりあえず自分で練習居合刀をなんとかメンテしたい!という方のためにはこちらのページが参考になるかもです。
刃先のメンテナンス
まあとはいえども……。
色々サイトを調べれば調べるほど、自分で適当に研いでしまうと取り返しの付かないことになるというのは間違いないと思いました。練習用であっても。
それでも!それでも安っぽくていいから、練習居合刀をとりあえず研ぎたい!という方はこちらを参考に。
刃物について
オススメはしませんが、趣味レベルですからー、練習用の居合刀のみですー、という人向け。資料としては仕組みがわかるので読んでおいて損はないです
刀持ってない人でも、包丁とか研ぐときのタメにはなるかも。
 
……っつったって、銃刀法のことを考えるとそんな迂闊で適当に手に入れるアイテムではない、刀。
銃砲刀剣類登録の御案内
家から昔のが出てきちゃった!なんて場合は銃砲刀剣類登録が必要。
逆にお店で買う場合は、お店がしっかりと登録証を取ってくれているはずですが、真剣は当然死ぬ程高いです。
 
普通の刀と居合刀の違い - 教えて!goo
美術品に近い刀と練習用の居合刀は、刃そのものが違うってことでしょうね。居合に真剣を使う上級者ももちろんいらっしゃるようですが、基本的には普段使うのは模造品扱い。
練習用居合刀はそういう点で、意外なほど安い(5万から10万くらい)んですが、模造品扱いのため所持許可証などがいりません。観賞用に欲しい方は割と簡単に買えます。
 

●八千代さんの刀●

もっかい八千代さんの刀を見てみます。

この刃波、非常に大波のようになっています。これは「のたれ」と分類されます。
焼入れの部分は「匂(におい)」と呼ばれ、細かい粒子になっています。天の川の星のように小さな粒子が確認出来ないほど並んでおり、雲や霞のように見えている刃波です。
鋒は「大鋒(おおきっさき)」か「かます鋒」、そして姿は「先反(さきぞり)」かと思われます。
模造刀や居合用ではなく、やはり真剣のようです。
(情報に感謝!)
 
まあ、ギャグマンガにツッコミを入れても仕方ないんですが、むしろこういうのが分かった上で「なのにそうなの!?」といういい加減な適当感が面白いのがこのマンガ。
そもそも帯刀している時点でアウトなんですよね。
それが模擬刀や居合刀であろうとも。
銃砲刀剣類所持等取締法

第二十二条の四  何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、模造刀剣類(金属で作られ、かつ、刀剣類に著しく類似する形態を有する物で内閣府令で定めるものをいう。)を携帯してはならない。

 
 


アウトー!
 
 

で、刀磨ぎのシーンですが、あれも「八千代が意外と大雑把な性格だから」という捉え方もありでしょうし、「家が刃物屋で実はものすごい詳しく刀磨ぎについて教え込まれている」という見方も有りかと思います。
個人的には「八千代さんは適当だから」という答がいいなあ。その方がなんかかわいいから。

だってかわいいもん!かわいいもん!かわいい!
かたなし君がリアルタイムで見たら「刃物持って小さいなんてかわいいねお嬢ちゃん!!」と反応すること間違い無し。というかぼくが撫でるぜ頭を!
いやまてよ、クラスメイトの男の子になって、抜刀できない彼女に好意をうまく伝えられずちょっかいを出したい気もします。
……おっと。やめておきます。
大人ですから。
 
研ぎ方を真面目に見てみると、垂直に研ぐ方法は、刃先を尖らせるの研ぎ方なので、このやり方かなり熟練していないとバランスが悪くなってしまいます。本当はまず縦に研いで、斜めに研いで、細かく垂直に、そして粉で研磨、油塗り。じゃないと錆びる。
八千代さんの刀は多分模造刀や居合刀ではなく真剣っぽいので、親に研ぐ技術を熟練したレベルまで引き上げられていて、ワグナリアにある砥石も名倉砥か、きめの細かいダイヤモンド製なんだ!……ということにしておきましょう。
 

 

ぽぷらはちっちゃくてかわいいなあ。うふふ。
 

とにかくなんにせよ、模造刀だとしても真剣だとしても入手自体はお金を積めば出来ますが、飾ってほおっておいてサヨウナラなアイテムではない、魂のこもった作品が刀。こまめな手入れも必要です。アニメ化ブームに乗って「ぼくも真剣買っちゃいました!」とかなったら大変! お気をつけて!
……え、そんな人いない?
ですよね。失礼しました。
ちなみに刀は「刀鍛冶」「研ぎ師」のプロのみならず「柄巻師」「鞘師」「装剣金工師」などのプロフェッショナルもいる総合芸術。
自分は手にしなくていいです。せめて、美術館で、見たいなあやっぱり!
 
おまけ。
ぼろっぼろに錆びている刀を研ぐまでの職人さんのムービー。気が遠くなりそうな親指での砥ぎを見ていると……尊敬するわあ、日本の職人さん。
刀を研ぐ世界
まさに刀という生き物が「生き返る」様子を描いた映像です。
 
                                                                                                                                          • -

 
自分「・・・・・書いといてなんだけど、この記事誰得?」
友人「佐藤さん得。」
自分「おお!(ポン」
 

余談。刀の研師が主人公の漫画があると教えていただきびっくり。これは興味わきました。
後で読んでみよう。