「年収の壁」106万円 解消案の不公平

吉田啓志・公益財団法人認知症予防財団事務局長
経済対策について記者団の取材に応じる岸田文雄首相=首相官邸で2023年9月25日、竹内幹撮影
経済対策について記者団の取材に応じる岸田文雄首相=首相官邸で2023年9月25日、竹内幹撮影

 年金などの保険料負担を免れるため、働く時間を調整して年収を106万円以下に抑えている人は少なくない。

 この「年収の壁」解消策の一例として、厚生労働省は9月21日の社会保障審議会年金部会に案を示した。

 パートの人たちが「壁」を越えて働いても手取りが減らないよう、一定の収入を超えるまで保険料を免除するというものだ。

 正直、驚いた。年金制度で最も重んじられてきたのが「公平性」だからだ。

 普通に働いている人は保険料を払っている。年金部会では委員から「不公平感が非常に強い」といった批判が相次いだが、当然だろう。

きっかけは人手不足

 今の年金制度では、配偶者らの扶養を受ける「第3号被保険者(3号)」は保険料なしに老後、基礎年金を受け取れる。

 ただ、従業員101人以上の事業所で週に20時間以上働く場合は、月の所定賃金が8.8万円(年換算で約106万円)を超すと扶養から外れ、保険料(年収の18.3%、労使折半)を払わなくてはいけなくなる(従業員100人以下の場合、「壁」は130万円)。

 年収106万円強なら本人負担の保険料は年間10万円程度。手取りが減らないようにするには、年収を125万円程度まで増やす必要がある。

 これを嫌い、「106万円を超えずに働こう」という人が出てくるのが「年収の壁」だ。

 厚労省は約763万人いる「3号」のうち、「壁」を意識して労働時間を調整している人は最大60万人と推計している。

 近年は最低賃金のアップで「壁」に到達する人が増え、勤務を控える人の増加による人手不足が深刻化している。

保険料の減免

 経済界に泣きつかれ、腰を上げたのが首相官邸だった。

 岸田文雄首相は9月25日、保険料を払っても手取りが減らないよう、賃上げなどをした事業所に従業員1人当たり最大50万円を助成する制度の創設や、事業所が従業員に「社会保険適用促進手当」を支給できるようにする方針を表明した。…

この記事は有料記事です。

残り1250文字(全文2048文字)

公益財団法人認知症予防財団事務局長

 1963年生まれ。認知症予防財団に寄せられる電話相談などの内容を集計、分析している。毎日新聞記者を兼務。2003年より現在に至るまで介護保険など社会保障制度を中心に取材を続けている。