骨しかない民主主義「安倍デモクラシー」の果ての岸田政治

山口二郎・法政大教授
岸田文雄首相=竹内幹撮影
岸田文雄首相=竹内幹撮影

 第2次安倍政権の約7年8カ月で、日本の民主主義がモデルチェンジしてしまったことを痛切に感じる。

 民主主義が「決める人を決める」ところまでで止まってしまう。選ばれた人がどのような理屈でどのような政策をとるかはほとんど白紙委任され、説明責任を果たさない。これが「安倍デモクラシー」だ。

 選挙は経ているし、言論の自由もある。民主主義といわざるをえないが、非常に限定された形で民主主義が作動するように変わってしまった。

抵抗力が無くなった

 いわゆる55年体制の時代は、野党も世論ももっと抵抗力があった。よく、比喩的に(重要法案は1回の国会で1本しか成立しないという)「一国会一法案」などと言われたように、重要な政策転換はそう簡単にはできなかった。

 しかし、今回の安全保障関連3文書の改定では、国会の議論もないまま閣議決定し、その後首相が外国に説明して、既成事実にしてしまう。いかにも国民と国会をバカにしたやりかただ。

 岸田文雄首相は首相に就いた当初は、安倍政治から変わったと見せようとした部分もあったが、実際には政治的な手法は安倍政権とまったく同じだ。

 民主主義が「決める人を決める」ことだけで終わるはずはない。まして今回の安保3文書のように、戦後日本の重要な原理原則を転換するような問題については、法改正や立法が伴わないとしても国会を含めたさまざまな場所で議論が必要なことはいうまでもない。

 従来の大方針を転覆する場合にもほとんど抵抗感がなくなってしまったのが今の政治だ。…

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法政大教授

 1958年生まれ。東京大学法学部卒。北海道大学法学部教授を経て、法政大学法学部教授(政治学)。主な著書に「大蔵官僚支配の終焉」「政治改革」「ブレア時代のイギリス」「政権交代とは何だったのか」「若者のための政治マニュアル」など。