政府は先月、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけを、5月から「5類感染症」に変更する方針を発表しました。現在の位置づけは「新型インフルエンザ等感染症」です。行政による入院勧告や外出制限、医療費の公費負担などは、この位置づけに基づいて行われています。5類に変更すると、これらを行う法的根拠がなくなり、新型コロナ対策のかなりの部分が「自己責任」になります。ただ、5類に変更する際に医療体制をどう変えるかについて、政府は「3月上旬をめどに発表する」というだけでまだ明らかにしていません。それでも、今まで新型コロナ患者の診療を続けてきた医師として「5類になると、おそらくこんな状況になるだろう」と予想がつくことはあります。今回はその「予想される状況」と「もし、その状況になったら、どう対応したらよいか」についてお話しします。
入院病床は「急減しそう」
まず予想されるのは、患者が入院できるベッドが急激に減るのではないか、ということです。
感染症法で「5類」に位置づけられている病気には、インフルエンザ、梅毒、麻疹(はしか)、HIV(エイズウイルス)感染症などがあります。「インフルエンザと同じ扱いになるのか。それなら、どこの病院でも新型コロナを診てくれるようになるのかな」と期待される方もいらっしゃるでしょう。
しかし、法律上の位置づけが変わったとしてもやはり、新型コロナはインフルエンザとは違います。新型コロナの患者が入院している場合、インフルエンザと同様の感染対策をしているだけでは、院内感染の可能性が高まってしまいます。ですから今は多くの病院が、新型コロナ患者専用の入院病棟を設けています。もし今後、一つの病棟に新型コロナの患者のエリアとそうでないエリアを作る場合には、かなり厳しくゾーニング(感染が心配な場所と心配ない場所の区域分け)をすることが必要です。また、新型コロナ患者を担当する看護師や医師は、感染対策をかなり熟知したチームでないといけません。
一般的に小規模な病院では、このように練度の高いチームを作ったり、うまくゾーニングをしたりすることの負担が大きいと思われます。このため、法律…
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国際医療福祉大医学部救急医学主任教授(同大成田病院救急科部長)
しが・たかし 1975年、埼玉県生まれ。2001年、千葉大学医学部卒業。学生時代より総合診療・救急を志し、米国メイヨー・クリニックでの救急研修を経てハーバード大学マサチューセッツ総合病院で指導医を務めた救急医療のスペシャリスト。東京ベイ・浦安市川医療センター救急科部長などを経て20年6月から国際医療福祉大学医学部救急医学教授、21年4月から主任教授(同大成田病院救急科部長)。安全な救急医療体制の構築、国際競争力を産み出す人材育成、ヘルスリテラシーの向上を重視し、日々活動している。「考えるER」(シービーアール、共著)、「実践 シミュレーション教育」(メディカルサイエンスインターナショナル、監修・共著)、「医師人生は初期研修で決まる!って知ってた?」(メディカルサイエンス)など、救急や医学教育関連の著書・論文多数。