2011年から内戦が続くシリアの情勢が目まぐるしく動いている。私(篠田)は、アサド政権、反体制派、過激派組織「イスラム国」(IS)などが勢力争いを繰り広げていた17年にシリア入りし、現地の状況を取材した。
当時の日記をひもとき、シリアの人々の思いを数回に分けて報告する。(年齢、肩書等は17年当時)【ロンドン篠田航一】
第1回 大人たちの戦争
第2回 爆音を聞きながらアイス
第3回 ロバには気を付けろ
第4回 撮れなかった写真
「やつらが来る前に逃げよう。父に何度もそう言いました。しかし父は『自分は残る』の一点張りでした」
シリア内戦中の2017年12月、中部ホムスでムハンマド・アサド氏(47)がそう語った。
「やつら」とは、14年ごろからシリアやイラクで勢力を拡大した過激派組織「イスラム国」(IS)のことだ。偶像崇拝を禁じるイスラムの教えを極端に解釈したISは、多神教の古代遺跡や石像を破壊し続けた。
やがて、ISの魔の手がシリア中部の世界遺産・パルミラ遺跡にも迫ってきた。
シリアを代表する歴史学者で、パルミラ博物館のハレド・アサド元館長は家族や友人から何度も避難するよう言われたが、説得に応じなかった。IS侵攻に備え、博物館の収蔵品を別の場所に移す作業を必死に続けていたのだ。
ちなみに「アサド」といっても、アサド大統領の血縁ではない。
15年5月、ついにISがパルミラを制圧する。アサド元館長は拘束され、拷問を受けたが、古代の宝の隠し場所を決して明かさなかった。
同年8月、ISはアサド元館長の首を切り、遺体を遺跡の柱につるした。パルミラを愛し、研究に命をささげた81年の人生が終わった。
私がパルミラを訪れたのは17年12月。ISは既に撤退していたが、2世紀ごろの建造とされる凱旋(がいせん)門のアーチは崩落し、古代ローマ時代の円形劇場も破壊されていた。博物館の石像も引き倒されていた。
2~3世紀にシルクロードの東西交易で最盛期を迎え、「砂漠の花嫁」と…
この記事は有料記事です。
残り400文字(全文1237文字)
【時系列で見る】
-
米、拷問に関与したシリア元高官を起訴 素性隠して米国に移住
6分前 -
解放されたのは「処刑」当日 拷問から生還したシリア活動家
9分前 -
「狭いトイレに30人」 シリア軍の拘禁施設開放 収容者が拷問証言
10分前 -
命と引き換えに守った「砂漠の花嫁」 過激派に屈しなかった歴史学者
3時間前 -
ガザ停戦、年内の合意に意欲 ハマスも譲歩か 交渉仲介の米高官
5時間前 -
「勝利」の高揚感続く首都ダマスカス 「生まれて初めて自由感じた」
8時間前 -
「シリアへようこそ」 アサド政権崩壊、住民ら笑顔で「解放」の喜び
20時間前 -
シリア混乱でIS戦闘員9000人収容の施設管理に懸念 鍵握るトルコ
1日前 -
国連総会、ガザ即時停戦を求める決議 UNRWA支持表明も採択
1日前 -
アサド政権の治安部隊を解体へ シリア反体制派が方針表明
1日前 -
国連がイスラエルに懸念の声 シリア領内での軍事活動の強化巡り
1日前 -
米高官「ハマスは孤立」 ガザ停戦に期待、アサド政権崩壊が後押しか
2日前 -
「ロバには気を付けろ」 動物まで「殺人兵器」と化した戦場
2日前 -
暫定首相就任のシリア 首都に日常戻りつつも各地にイスラエルの空爆
2日前 -
収賄・背任・詐欺で起訴のネタニヤフ氏、法廷で初証言 「不条理だ」
2日前 -
シリア暫定首相に「救国政府」トップが就任 権力移譲へ始動
2日前 -
「新たなシリア待っていた」 「救国政府」移譲に市民期待、衝突も
2日前 -
シリア領侵入のイスラエル軍、首都に迫る 占領地拡大の動きか
3日前 -
爆音を聞きながらピスタチオたっぷりのアイス 内戦下のシリアの日常
3日前