放送法の「政治的公平」の解釈を巡り、第2次安倍政権内のやり取りを記した行政文書が公表され、1カ月がたつ。文書からは、安倍晋三首相(当時)の意を受け、首相官邸側が「けしからん番組は取り締まる」(当時の礒崎陽輔首相補佐官)方向で、放送法の事実上の解釈変更を総務省にさせた経緯が分かる。テレビ朝日に27年間在籍してニュース番組制作に携わり、その後に独立したプロデューサー・鎮目博道さん(53)に取材すると、「政権を批判したら飛ばされるのではないか」など、テレビ現場が安倍政権当時から萎縮していった様子を赤裸々に語った。【後藤豪】
「報ステ」のスタッフ 不自由な空気に
立憲民主党の参院議員が3月初めに公表し、総務省も同省の文書と認めて開示した、2014~15年の安倍政権内の文書。
鎮目さんは当時、テレ朝系のニュース番組「スーパーJチャンネル」でニュースデスクを務め、その日のニュースの扱いを決め、政治部や社会部など各部とのやり取りなどをしていた。「今回の文書を見ると、その頃、我々が仕事をしていて感じていたことと、まさに符合するような動きがあったんだなと思い、腑(ふ)に落ちた感じがしました」
文書によると、礒崎氏は当時、TBS系報道番組「サンデーモーニング」を「けしからん」と敵視したほか、テレ朝系の番組「報道ステーション」の古舘伊知郎キャスターについても「気に入らない」と名指しで批判していた。
その報ステと、鎮目さんがいたJチャンはテレ朝の報道局フロアで、隣の部署だった。「報ステの人たちの顔がだんだん曇っていくというか、不自由さを感じて苦しんでいるのは、すぐ真横で見て感じていました」
生放送中に“事件”
15年3月末、報ステの生放送中に“事件”が発生する。当時の安倍政権への批判で知られ、コメンテーターを務めた元経済産業省官僚、古賀茂明さんが報ステ最後の出演の際に、自身の降板を巡る首相官邸からの圧力などを訴えたのだ。古賀さんは、テレ朝幹部らの意向があるとも説明し、古舘さんが「テレビ側から降ろされるのは違う」と反論し、応酬になった。
古賀さんの降板と同じ頃、報ステのチーフプロデューサーも交代した。鎮目さんは「その女性のチーフプロデューサーは政権を批判し、攻め込むタイプでした。その人が交代となり、『政権を批判すると飛ばされるのではないか』という空気が局内で強まりました」と振り返る。
受け継いでいた「Nステ」魂
かつてテレ朝を代表する報道番組といえば、久米宏さんがキャスターを務めた「ニュースステーション」(1985~2004年)だ。夜のニュース番組を変えたとも言われ、久米さんの軽妙なトークや歯に衣(きぬ)着せぬ発言もあり、人気を呼んだ。その後継番組が報ステだ。
鎮目さんは04~07年、報ステでディレクターを務めた。「報ステという番組には、脈々と『ニュースステーションイズム』が受け継がれてきました。スタッフもNステ時代からやっている人が多く、政権の問題点を是々非々で批判した。そのスタンスを売りにしてきた番組です」
さらに、こう続けた。「しっかりした取材に基づくオピニオンを言っていく。スタッフとしては大変な部分も多いですが、『テレ朝のメインニュース』としての誇りを持ってみんなやっていました」
骨抜きにされ「安倍政権の思うつぼ」
ところが、12年に第2次安倍政権が発足して以降、次第にモノを言えない空気が漂ってきたという。「(15年の)あの時期に、局内のスタッフだけでなく、骨太な政治の話題をずっとやってきた外部スタッフも交代させられたり、自ら番組を去っていった…
この記事は有料記事です。
残り2166文字(全文3653文字)