政府与党が恐れる日本医師会の“政権交代” 現会長VS副会長、異なる政権への距離
医療界に大きな影響力を持つとされる日本医師会の会長選挙が27日に行われる。17日に立候補が締め切られ、現政権と良好な関係を築いてきた現職の横倉義武氏(75)に、ナンバー2にあたる副会長の中川俊男氏(68)が挑む構図だ。仮に「政権交代」となれば、横倉氏を支持する厚生労働省幹部や与党議員からは政府・与党が思い描く今後の予算確保や社会保障制度改革に与える支障を懸念する声も漏れる。中川氏の背後には、国の医療政策への不満を募らせる地方の医師らが控える。両陣営はどのような思惑で選挙戦に臨むのか。
横倉氏、政府・与党と太いパイプ
「本当はそろそろ楽な思いをしたいと思ったが、言った途端に『国民を見捨てるのか』と(言われた)。国賊扱いをされる可能性があり、『これはいけない。頑張ろう』と決心をした」
14日、JR東京駅近くの会議場で開かれた横倉氏の選挙対策事務所開き。壇上でマイクを握った横倉氏は金びょうぶを背に笑顔で決意を語った。
横倉氏は福岡県出身の外科医で、地元で総合病院を経営する。2012年の会長選で、副会長ながら現職の原中勝征氏を破って初当選した。
民主党政権だった12年当時の選挙戦の争点は「政党との距離」。民主党と近いとされた原中氏に対して、横倉氏は自民党との関係修復を掲げて支持を広げた経緯がある。その後、自民党は与党に復帰。横倉氏は4期8年の長期政権を築き、世界医師会長も務めた。
古賀誠・元自民党幹事長の後援会長を務めるなど政府・与党とのパイプも太い。公的医療保険から病院や診療所に支払われる「診療報酬」が2年ごとに改定される際には、ここ一番で安倍晋三首相や同郷の麻生太郎財務相と直接やりとりし、4回連続で報酬の増額を勝ち取っている。
退任報道で慰留の声、直前まで揺れた去就
ただ、今回の会長選を巡る去就は直前まで揺れた。複数の関係者によると、1月には周辺に「今度も出る」と明言したが、新型コロナウイルス感染症が流行し始めた3月には一転して引退する意向を中川氏に直接伝えた。ただ、公の場での表明を避け続けた。日医内では「本当は5期目に出る気ではないか」ともささやかれた。
関係者によると、5月末に、中川氏を支援するある県医師会長が横倉氏に、会長退任と名誉会長就任を提案。「関東の各医師会長が中川氏を支援するとの情報もあり、横倉氏は外堀を埋められつつあった」(日医幹部)という状況で、直後に横倉氏は中川氏に退任の意向を伝えたとされる。
この経過を一部メディアが「横倉氏が退任へ」と報じて表面化すると、すぐに日医内外から横倉氏を慰留する動きにつながった。14日の選対事務所開きであいさつした岡山県医師会長は、地元選出の自民党衆院議員から電話で「そんなことでいいのか。日本の医療はどうなるのか」「新型コロナ対策の補正予算の額が減らされるから辞めるのか。今からでも少し増やせる」と告げられたエピソードを明かした。
横倉氏が最終的に出馬の意向を周囲に伝えたのは会長選挙告示日(6月1日)の前日。横倉氏は翻意の理由を、新型コロナで医療が困難な時期に「会長を…
この記事は有料記事です。
残り1360文字(全文2637文字)