原作クラッシャーと呼ばれ…GONZO石川社長が語る、山あり谷ありアニメビジネス「真っ先に崖から落ちるのが役目」
近年、『鬼滅の刃』『呪術廻戦』など、記録破りの大ヒットアニメが立て続けに生まれ、アニメが社会現象になることが増えています。一方で、アニメの売上が制作会社やスタッフに還元されていないのではと指摘されることも。
こういう時、ネット上では「製作委員会」が悪者にされがちです。製作委員会システムとは、複数の会社が製作費を出資しリスクを分散して作品を作る仕組みのこと。そして「複数の会社が参画していること」で、利益が制作会社に回りにくいのではと噂されているのです。
しかし、「製作委員会そのものは悪くない」と語るのは、90年代後半から2000年代にかけて、数々の挑戦的な試みでアニメビジネスを切り拓いてきた株式会社GONZO代表取締役の石川真一郎氏。
GONZOは、アニメ制作のデジタル化や日本アニメを海外で配信する「クランチロール」へいち早く出資して世界同日配信を実現するなど、今のアニメ業界のスタンダードを築いた会社です。一方で、2000年代後半に事業不振に陥り、スタッフの独立が相次ぐなど、山あり谷ありの歴史を持ちます。
激動のアニメビジネスの第一線を走り続け、酸いも甘いも経験してきた石川氏とGONZOの歴史を通して見えてくるアニメ業界の課題とは? GONZO30周年を記念したクラウドファンディングを実施中のいま、石川氏に話を聞きました。
[取材・文=杉本穂高/編集=沖本茂義]
●「アニメ制作会社は儲からない」はホント?
コロナ禍前の2019年、日本アニメの世界市場は2兆5112億円に達したと日本動画協会が発表しました。8年連続で過去最高を更新し、10年前の2009年と比較するとおよそ2倍の規模に成長しています。国内市場でも、コロナ禍中にもかかわらず映画館を観客で埋め尽くした『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を皮切りに、興行収入100億円を超えるタイトルが次々に生まれるなど、日本のアニメは好調に見えます。
10年で2倍に市場が成長したのなら、現場の制作会社はさぞ儲かっているだろうと思いきや、今年は4割もの会社が赤字に転落したというニュースもあります(帝国データバンク「アニメ制作業界」動向調査 2022年)
率直に言って、今の日本のアニメ業界はどうなっているのでしょうか。石川氏は、アニメ産業の成長を支えているのは、国内市場よりも海外市場の伸長だと指摘します。
「DVDの登場でメディア産業全体が成長し、それに伴ってアニメ市場も伸びましたが、その頃から実は国内市場はそれほど変わっていません。僕がアニメ事業を始めた90年代から日本アニメの海外市場が成長し始め、2000年代には文化の輸出産業となり『Anime』が『日本のアニメ』を指す言葉として認知されるほど文化として大きく花開きました。いまの日本アニメのポテンシャルは、韓国ドラマにも匹敵すると思います」
では、なぜアニメ制作会社は儲かっていないという話が聞こえてくるのでしょうか。石川氏は「そもそも、アニメに限らず制作会社は儲からないもの」だからと明かします。
「IP(知的財産)のライブラリを増やしていかない限り、映像産業では成長できません。でも、みんな作品を作ることが好きで、どうしてもそこにエネルギーを費やしてしまい、予算確保のためにIPを全部渡しちゃったりするんです。そうすると下請け構造から抜けられずに苦しくなっていきます」
GONZOが活躍した2000年代、アニメ作品の利益はDVDのセールスが大きく占めていました。そのため、ディスクメーカーを中心にした製作委員会が出資し、それらの会社が作品のIPを保有していました。
「ディスクメーカーはDVDを売りたいからお金を出す、お金を出してリスクを負い宣伝もやってくれる。権利を持つのは当然です。でも、この収益構造に頼っていたために、アニメの制作会社はIPを持てず苦しかった。言うなれば、DVDの売上に頼らざるを得なかった市場環境自体が不幸だったんです」
一方で、DVD販売が主力になる以前から活躍する、老舗とされるアニメーションスタジオは、多くのIPを保有し利益を生み出しているといいます。
「70年代や80年代にアニメの製作費を出していたのは、主にテレビ局やおもちゃメーカーなどでした。テレビ局は放送して広告収入が入ればいいので、権利は放送権だけしか求めなかったんです。おもちゃメーカーも、おもちゃを作って売る権利だけしか持ちませんでした。
この場合、他の権利はアニメ制作会社に残ったんです。だから、老舗の東映アニメーションやトムス・エンタテインメント、日本アニメーションなどは今でも昔の作品のIPで儲かっているんです」