驚異的円安説を的中させた藤巻健史「1ドル500円時代到来」…2023年、ハイパーインフレに備えよ
2022年は歴史的な円安を経験した年だった。10月21日には一時1ドル=151円台後半と1990年7月以来32年ぶりの円安水準を更新したのは記憶に新しい。
元モルガン銀行東京支店長兼日本代表で元参議院議員の藤巻健史氏は、日本財政の危うさを論じ、約20年前から今日の円安水準を予想していた人物だ。なぜ2022年に円安が急激に進んだのか、そして今後の為替相場はどうなっていくのか、藤巻氏に聞いた。
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2022年の歴史的な円安は当然の結果。むしろまだ円安は進む
――2022年は、一時は1ドル150円を記録するなど、歴史的な円安水準を経験した年でした。今回の円安の要因を教えてください。
(藤巻氏) 2022年に円安になることを判断するのはかなり簡単でした。もし今も、私が古巣のJPモルガンにいたら、かなり大きく円安・ドル高に仕掛けていたと思うんです。それには2つ理由があります。日米の金利差が開くだろうと予測できたことと、国の経常収支の黒字幅がどんどん縮少していき、ひょっとすると赤字化しちゃうかもしれないという予感があった、この2点ですね。
この2つともが円安の方向を向くっていうことは、私が現役トレーダーの時代にはほとんどなかったんですよ。しかし、私が見てきたなかで初めて、日米金利差と経常収支ともに円安方向に進んだんです。だから私は、円安・ドル高が進むだろうなというふうに思っていました。
――一時よりは円高に少し振れていますが、これからまだ円安に進む可能性はありますか。
(藤巻氏) 私の見解では、少なくとも1ドル200円程度、場合によっては400〜500円程度など、天文学的水準の円安になる可能性もあると考えています。
それには2つ理由があります。
1つはここ30年ほどGDPがほとんど増えていないこと。正常な状態だと、為替っていうのは国力を反映します。特にアメリカとの国力の差が拡大しました。その結果、ドル高・円安になってもしかるべきだという状況が根本にあるわけですよ。
2つ目の要因は、日銀の異次元緩和です。為替が国力を正確に反映するのは「中央銀行が健全な状態」のときだけです。その条件からすると、日本銀行が2013年から異次元緩和をしたおかげで、円は極めて危ない、不健全な状況が続いています。お金(日本円)を刷り続ければ、当然お金の価値は下がっていきますよね。つまり、財政ファイナンスを過激にやって円を刷り過ぎてしまったので、円が弱くなっている状態なんです。
欧米諸国はQT(量的引き締め)を考え始めたり、すでに始めたりしているのに対し、日銀はまだまだQE(量的緩和)を続けざるを得ない。他国の中央銀行はお金を回収し始めてるのに、日銀は刷り続けなくちゃいけないっていうこの差がめちゃくちゃ大きいと思うんですね。
国力が落ちていることと、日銀が円を刷りすぎたことの2つが重なって、急速に円安が進行したと考えています。
日銀のYCC誘導目標幅拡大は金融緩和撤回を意図してのことではない
――12月20日、日銀が長期金利の変動許容幅を±0.25%から±0.5%程度まで拡大したことが話題になりました。こちらについてはどうお考えでしょうか。
(藤巻氏) それは日銀が外資の国債売りに耐えかねて、防衛ラインを0.25%(保有国債の評価損発生限界)から0.5%の(債務超過ライン)に撤退したということにすぎません。
インフレをどうかしようとか、金融緩和をどうしようかと考えてのことではなく、日銀の信用失墜防止というねらいがあっての行動だと思っています。
0.5%の防衛ラインを守ることができれば当面、危機は回避できますが、ラインが破られれば、日銀に債務超過が発生し、債務超過が巨大化していくことになります。
今はもうすでに中央銀行の信用が失墜するか否か(=円の価値がなくなるか)の瀬戸際にまで追いやられています。今回の政策転換がどの産業にとって利益があるのか、住宅ローンは固定か変動か、などといった観点を議論していてよい段階とは、全く次元が違う重要局面に日本が突入してしまった、と認識すべきです。これもすべてバラマキを行い、財政の健全性を無視してきたツケです。
日本でハイパーインフレが発生するのはいつになるのか
――これから1ドル400〜500円程度になる可能性があるということは、つまりハイパーインフレが起こる可能性がある、と予測されているわけですよね。あまり現実味がないようにも感じるのですが、日本で起こるとすればいつになるのでしょうか。
(藤巻氏) いつ起きてもおかしくないと思います。マーケットが決めることなので、正確な時期はわかりませんが、何らかの理由で日銀が債務超過になるとき、Xデーが来るでしょう。
インフレ・デフレはモノやサービスの需給で起こりますが、ハイパーインフレは中央銀行の信用失墜により、その発行する通貨の信用が失墜することによって起こります。日本は現在のインフレが継続するか否かの議論から、日銀が債務超過に陥るか否か、ひいては、日銀の信用失墜に起因するハイパーインフレが起こるか否かを注目しなければならない状況にまで追い込まれてしまったということです。
日銀総裁の黒田東彦さんが4月に交代すると、金融引き締め路線に変わるだろうと予想している人もいますが、金融緩和がここまで来ちゃった以上、誰も何もできないんですよ。つまり、もう日銀は金融緩和路線から転換できない。だから明日ハイパーインフレが起こったっておかしくないということです。
「4月に新しい日銀総裁に代わったとき、金融引き締め路線に変わるだろう」と期待している外国人が多いから、今はそれで何とか円の価値も保たれているわけです。そうじゃないと外国人が認識したら、アウトでしょう。海外メディアを見ていると「今、円は買い時だ」という論調も出てきていて、それを信じちゃってる外国人もいるんですが、いずれ失望するはずです。
――外国人からの期待があるから、今はギリギリのラインでハイパーインフレを抑制できているということなんですね。
(藤巻氏) そのとおりです。2013年より前にも「日本の財政が危ない」って話が出ていたんですけど、そのときの外国人は結構楽観的でした。当時、日本が消費税を8%に上げたときだったから、「日本は財政破綻しない」というのが外国人の意見だったんです。
でもね、今の日本人が、これ以上の消費増税を簡単に認めるわけがないんですよ。だから外国人が日本を見る目は、そのときとはちょっと違います。外国人がその間違いに気がつくと、やっぱり大きく動くんじゃないかなっていう気がしますね。
日銀の黒田総裁もこのままではダメだと理解している。しかし、量的緩和を続けるしか手がない…
――日銀は何もできないというお話がありました。藤巻さんから見て、黒田総裁は今、どのような見通しをお持ちであると思われますか。
(藤巻氏) もうインパール作戦(※劣悪な環境のジャングルで補給路を断たれ、数万人の戦死者を出した日本陸軍史上最悪の作戦)と同じでね、やり続けるしかないんですよ。
彼はアジア開発銀行総裁でしたから、中央銀行が債務超過になることがいかに大変なことなのかってことは、十分知っていますよ。だから日銀が債務超過にならないように金利を必死で抑えているわけだよね。もう量的緩和を続けるしかないから惰性で続けているだけであって、出口はないという話です。
――金利を引き上げれば、債務超過になってしまうからでしょうか。
(藤巻氏) そういうことです。
金利には、短期金利と長期金利の2つがありますよね。そもそも長期金利を政策目標にしている国は、先進国のなかでも日本だけです。
日銀も昔は長期金利をコントロールできなかったわけですよ。量的緩和で長期国債を買い始めてから、それができるようになりましたけど、オーソドックスな金融政策の枠組みでは、本来、長期金利をコントロールできないわけです。
今なぜそれができているかというと、長期国債をたくさん買っているからです。発行国債の半分以上を持っているから、長期金利を抑えられているわけ。
もしこの長期金利が上がってしまったら、大変な金額の評価損が生じるわけです。世界の中央銀行とは段違いの巨大債務超過になります。こんなに国債を買っている中央銀行は、日銀以外にありません。
私が国会議員のときに何回も「評価損になるんじゃないか?」って質問したんですが、黒田さんは「日銀は償却原価法(簿価会計)を使ってるから大丈夫だ」と言うんですよ。でも、日銀の自己満足に過ぎませんよ。黒田さんが簿価会計を使うって言ったところで、日銀を評価する投資家サイドは時価会計で日銀の健全性を評価するわけでね。時価会計だとものすごい評価損が生じてしまう。
日銀が債務超過になれば中央銀行としての信用が失墜しますから、当然その発行する通貨も信用が失墜します。そのときから一気に、ハイパーインフレが始まるでしょう。