ユニセックスのトイレで、どこがまずいのだろうか。
たしか町山智浩さん(id:TomoMachi)がどこかで紹介していたと思うが、米国カンザス州に拠点を置くウエストボロ・バプティスト教会 (WBC) という団体がある。かれらは、独自の聖書解釈から同性愛者を極端に敵視し、憎悪犯罪やHIV/AIDSで亡くなった人の葬式でピケを張る活動で注目を集め、いまではゲイを容認する米国そのものが神によって嫌われているのだとして、テロ被害や自然災害まで全部「神の罰である」と主張している。
この集団の主な活動は、各地に出かけてさまざまな葬式やイベントで過激なメッセージを掲げた抗議をすることだけれど、そのかれらが今週わたしの住むポートランドにやってきた。抗議の名目は、ポートランド州立大学が昨年LGBT/クィアの学生のために「クィア・リソース・センター」というオフィスを設けたことと、そのセンターを通して「ジェンダー・ニュートラル」なトイレが設置されたことだ。
ジェンダー・ニュートラルなトイレというのは、以前のエントリでも取り上げたユニセックスのトイレと同義。つまり、性別に関わらず誰でも使えるトイレ、程度の意味。一般家庭のトイレは普通ユニセックスだし、小さなお店のトイレもわざわざ区別しないところが多い。
しかし大学キャンパスのような大規模な建物では、ユニセックスの個室ではなく男女別に分かれた空間にいくつもの個室や小便器(男性トイレの場合)が並んだ設計になっていることが多く、外見が男っぽい女性、女っぽい男性、性自認の通りの性別としてパスできない性同一性障害の人、そして自分のことを男性とも女性とも自認しない人たちにとって、そういったトイレは使いづらい。間違ったトイレに侵入していると思われて驚かれたり問い詰められるのを恐れて、自宅以外ではトイレをずっと我慢しているという人もいる。
だから、性別に関係なく誰でも使える個室トイレも校内各地に設置しましょう、というのが、ジェンダー・ニュートラルのトイレ推進の理由。男女の違いを消してカタツムリ人間を作り出しアダルトグッズを教室に乱舞させようという反日・共産主義者とフェミナチの陰謀ではない。ってゆーか古いよそのネタ。
で、当然ポートランド州立大学の学生たちは、「こんな変な連中が集まって来るよ!」と慌てて校内及びコミュニティに呼びかけて、対抗デモを開くことになった。WBCの人たちは、「神はオカマを嫌う」「お前らは地獄行きだ」みたいな過激なプラカードを使用するので、学生たちや周囲の住民もそれに対抗するようなプラカードを手作りして持ち寄った。(その中で最高傑作は、「イエスには2人の父親がいた!」だと思う。ヨセフと天の神様のことね。)WBC側4人に対し、こちらはおそらく総勢200人以上。
その様子は、写真をとってきたので興味があれば flickr セットをどうぞ: http://www.flickr.com/photos/emigrl/sets/72157610029124960/
さて、だいたい写真を撮り終えたわたしは、勇気を出してWBC創始者フレッド・フェルプスの息子と思われる人物に近づいて(フレッド本人は来ていなかった)、質問をしてみた。
「あのー、ちょっと質問していいですか?」
「なんですか?」
「あのですね、あなたたちが同性愛者に反対している理由はよく分かるんですが、ジェンダー・ニュートラルなトイレのどこに反対なんでしょう?」
「神の意志に反するからです。」
「あなたの家には、男女別のトイレがあるんですか?」
「いや、一つだけれど、鍵がかかるから女性の安全は守られます。」
「じゃあ鍵がかかればジェンダー・ニュートラルなトイレでも問題ないと?」
「ジェンダー・ニュートラルなんて呼ぶからいけないんだ。」
「なるほど、呼び名がいけないんですね?」
「問題は、それが何を推進しているかです。『ローマ人への手紙』(新約聖書)第一章を読みなさい。」
「聖書にジェンダー・ニュートラルなトイレについて書いてあるんですか?」
(無視して、『ローマ人への手紙』の句を読み始める。)
「トイレで同性愛行為が行なわれる可能性って、男女別のトイレの方が高いんじゃないでしょうか?」
(さらに無視。)
結局、ジェンダー・ニュートラルなトイレの何が問題なのか分かりませんでした。
その後、WBCの人たちはポートランドから1時間強南に行ったところにある、シルバートンという小さな街に出かけた。シルバートンでは、先日の選挙において全米初の「トランスジェンダーであることを公言する市長」が誕生していた。あとで聞いた話によると、シルバートンでも周囲の人々が大勢集まって、新しい市長を支持する対抗集会が開かれたらしい。