論文の著者順に秘められた謎

論文には多くの著者名が並んでいる場合が多い。素粒子系の論文となると共著者が何百人と並ぶものも珍しくないが、共著論文の特徴についての調査結果によれば、最大の共著者数は2006年には2,512人に達したという。次がその論文だ*1

総302ページの論文でなんと著者リストに21ページも使う。著者がちゃんとグループ化されてて、名前はappendixにある。この論文は別格だが、特に素粒子分野では共著者数が多くなることが多く、著者名はアルファベット順に並べられるのが通常なようだ。

こうした極端な例はともかく、数人の研究者の共著論文の著者名の並び順(authorship)には確固たる意味がある。最も重要なのは第一著者(first author)で、学位試験や大学人事などではfirst authorの論文しか評価しないと言う事も往々にしてある。ではその他の著者は、貢献順に並べればよいのかというと必ずしもそうでもなく、いろいろとお約束というモノがある。

そのあたりのお約束については研究室単位などで口伝で伝えられる場合が多いが、学外の論文に関しても、いろいろな事情に通じてくると大体の感覚というモノがつかめてくる。本エントリでは、PHD Comics: Author Listに論文の著者順に関して興味深い示唆がなされているので紹介したい。図はオリジナルを日本語訳したものである。


注意:この図は実在の研究者、教官、研究室、大学、研究機関、論文、学会、研究領域には一切関係のないフィクションであり、ジョークです*2。誰がなんと言ようとも。




  • The first author (第一著者)
    • プロジェクトに属する院生(博士後期課程)。図表を作った。
  • The second author (第二著者)
    • プロジェクトと何の関係もない院生。名前が載っているのは彼ないし彼女がグループミーティングに顔を出していたからだ(大抵はお菓子目当て)。
  • The third author (第三著者)
    • 実験を行い、解析・考察をして、論文全体を執筆した博士前期課程一回生。第三著者がフェアな位置だと考えている。
  • The middle authors (中間に位置する著者達)
    • 誰も実際には気に留めない著者名。学部生や技官のための場所。
  • The second-to-last author (最後から2番目の著者)
  • The last author (最後の著者)
    • 一番偉い人。論文を読んですらいないが、プロジェクト推進に必要な予算を獲得した。また彼の有名な名前が著者名として記載されている事で論文が通るという面もある。

この話、中の人にとっては笑えない話であり、外の人にはなにやら分からないというワケで、結局誰にとってもおもしろくない話だと後になって気付いた。ちなみに論文の共著者に関係のない人間を加える事は純然たる不正行為であり、gift authorshipと呼ばれるようだ。Wikipediaによれば、露・モスクワの有機元素化合物研究所(IOC)の研究員ユーリ・ストルチコフが10年間で948本もの論文の共著になっており、IOCの施設を利用の見返りとしてIOCの人間を共著者に入れるのが慣習化していたらしい。また、ストルチコフはこの件でイグノーベル賞を受賞したそうだ*3

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*1:@sugiryo氏に教えていただいた。ありがとうございます。

*2:ちなみに筆者の属した研究室ではさすがに執筆者がFirst aurhorであった。偉い人が一番最後なのは一緒。

*3:ユーリ・ストルチコフについては@tomo3141592653氏に教えていただいた。ありがとうございます。