笑ってはいけない『ガキの使い』の作り方

2009-2010年の年越しもやっぱり僕は『ガキの使いSP』でした。
回を重ねるごとにハードルが上がり視聴者の目が厳しくなっていってしまう中で、なんだかんだ言われながらも、まだまだそのハードルを飛び越えた名作を作り出す力技は本当に凄いことだと思います。
そんな「笑ってはいけない」シリーズはいかにして作られていったのか、先日出版された『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!! 公式 絶対に笑ってはいけないキャラクター名鑑』に掲載されたスタッフの証言からみていきたいと思います。


「そもそもは『七変化』とかやっていたんで、その延長上にある企画」だと構成作家の高須は振り返る。
そこで発見したのが

人間って「絶対に笑ったらいけない」と縛りをかけられると、ちょっとしたことでも心の中がガタガタくるじゃないですか。普段ならスルーできることでも、妙におかしくなる。

ということだ。
そこで、罰ゲームでやった『松本一人ぼっちの廃旅館1泊2日の旅!』をミックスして生まれたのが「笑ってはいけない」シリーズだ。

初期の頃はそれこそ「おばちゃんタトゥー」みたいに『ガキ』のサブキャラに何かをさせるというのが基本線だったんですけど、いつのまにか大掛かりになってしまった

と述懐するのはプロデューサー・演出を務める大友有一。

個人的には1回目にたくさん出てきた胡散臭い外国人キャラが好きなんですけどね。「黒人板長」とか。ただ高須さんに「そればっかりだとは思われたくないから止めよう」と指摘されてしまったので、どんどん減ってしまいましたけどね(笑)。


監修の柳岡秀一は大晦日に向けた準備の苦労について明かす。

大晦日にやる以上は、だいたい6月から7月にはロケハンで動き出さなくちゃいけないんですよ。撮影する場所が決まらないことには、最終的なネタ詰めができないので。ただ条件が厳しいんですよ。ロケに2日、リハーサルに1日、さらに仕込みにも1日、2日かかるので最低でも4日から5日は借りられるところじゃないといけない。まず、これが難しい。既存の施設をお借りして、それを警察なり病院なりに変えるのは時間がかかるんですよ。(略)ヘタしたら1週間くらい前から、ちょこちょこ美術の人間が行ってます。だからといって、今は使われていないところだと、今度は汚すぎて、もっと大変なんですよ。そして、ほぼ24時間収録しているので、夜な夜なやっていても近隣の方にご迷惑がかからない場所。どんなところに行っても、必ず何軒かは家がありますから、あいさつに行ってご理解いただくしかないんですけどね。

こうして決まったロケ地で「いつどこで笑っても、すぐに黒子が出られるような体制にするために、芸人さんたちを1カ所に放りこんで、ありとあらゆる場所にカメラを仕掛け」るために膨大な数のカメラとスタッフが必要となってくる。

現場の技術スタッフは総勢で80人以上。CCDカメラが約200台仕掛けてあって、ENG(ハンディカメラ)が22台、さらにケーブルがつながったカメラが5台。これだけないと、常に顔を押さえることはできないし、突発的なことが起きた時に対応しきれないんですよね。意気に感じてやってくれる技術スタッフがいるから成立するようなもんです。(大友)

当然ながら、作家・演出陣が想定していないことも頻繁に起きる。

ボクたち作家までインカムをつける現場っていうのは、おそらくこの番組だけなんじゃないですか? 本部からの連絡をひとつも落とせないですからね。たとえば急に予定が変更になった時、それを全員がわかっていないと対処できませんから。(構成作家・塩野智章)

たとえば、「部屋の中がちょっと寒いというだけで笑いが減ってしまう」ため、ちょっとしたことにも気を遣う。

とにかく大事なのは現場の緊張感ですよ。基本的に演者とスタッフは顔を合わせない。トイレに行く時も、絶対にスレ違わないタイミングを見計らってるぐらいですから。もちろん、彼らはマジックミラー越しにカメラマンが撮影していることを知ってるんだけど、それを忘れさせるような空間を作らなきゃダメだと思うんですよ。だからカメラマンもずっと息を殺して立ってますから。異次元空間を作り込んで、その中に放り込むことが重要なんです。そこにスタッフがウロウロしていたら醒めちゃうでしょ?

菅賢治は、このような緊張感を維持させるのが実は「最大の演出」だと言う。


そして実際に笑わせるためのネタを作る作家陣のプレッシャーは相当なものだ。

「ダウンタウンさんを笑わせるネタを考えること」。これに尽きます。もちろん視聴者に向けて番組に関してはダウンタウンさんに向けても作らなくてはいけない。なんといってんも日本一のお笑いコンビを笑わせなくてはいけないんですから、スゴいプレッシャーがかかりますけど、それだけにやりがいのある仕事ですね。(構成作家・塩野智章)

「笑ってはいけない」シリーズに登場するネタは様々なパターンがあるがその中でも難しいものがあるという。

一番難しいのは、実をいうと芸人さんを使ったネタなんですよ。あの空気の中では、M-1でウケたネタをそのままやっても笑ってもらえないんです。“作られたもの”に見せないように作り込むのは難しいですね。(塩野)

出ていただけで笑ってしまうような大物俳優の起用も実は難しい。

大物の役者さんなんかにも出てもらってますけど、実はそれが大変なんですよ。結果的には偶然、面白くなったように見えるケースもあると思うんですけど、わざわざ来ていただいた以上、カットすることはできないので、「たまたま面白くなった」はあり得ない。確実に面白くなるように、こちらで作りこまなくてはいけないので、また会議が長くなるわけです。(高須)

しかし、作家陣が準備していない何気ない会話や仕草などが一番面白かったりするのが不思議なところだ。

この番組って突きつめていくと哲学みたいなもんですよ。「人はどんなことで笑うのか?」という部分でね。本当に毎回「えっ、こんなことで笑うのか!」という発見が必ずありますから。こっちが大々的に仕掛けた部分じゃないところでね。(菅)


そして、菅賢治はこう胸を張る。

現場の人間は本当に大変だと思うんですけど、この番組は我々が1年に1回見せる“意地”なんです

やっぱり、この名鑑を眺めているだけで、それぞれの場面の記憶が蘇ってきます。