Matt Cuttsの動画と、会話的に進化する近未来の検索について
先日、Google の検索アルゴリズムなどについての情報提供をおこなう Google Webmasters の YouTube ページに登場した Matt Cutts 氏の動画を引用する形で、「検索はオーサーランクになる!」「SEO業者は全滅!」と多少過激な記事が話題になっていました。
それはべつにそれでもいいのですが、Matt は時折 This Week in Google にも登場するナイスガイで、非常に言葉遣いの丁寧な、物腰の柔らかな人物です。なので彼の口からこんな極端な言葉がでるはずがないと不思議に思っていました。
そこで元の英語の動画をみると確かに、かなり印象が違う内容だということがわかります。いやそもそも「オーサーランク」という、存在がささやかれてはいてもGoogleによって使用されたことがない言葉は当然ながら使われていません。
ただ、この動画をみていると、Googleと検索が向かおうとしている未来が見えてきて楽しい気がします。### Matt Cutts の動画の詳細
そもそも動画のなかで提起された質問はこちらです。
「Google はバックリンクを使うことで検索業界を一変させました。最近のパンダ / ペンギンアップデートはむしろコンテンツの重要性へのシフトを見せていますが、これによってバックリンクがその重要性を失うということでしょうか?」
これに対する Matt の返答は明快です。21秒目ですかさず、「バックリンクはこれからも何年も重要性を失いません」と名言しています。
ただしそれに続く部分が恐ろしく大事で、しかも少しわかりにくい文章になっています。
But inevitably, what we’re trying to do is figure out how an expert user would say this particular page matched their information needs.
しかし不可避的に、私たちがやりたいと思っているのはその分野のエキスパートのユーザーが、「このページは自分のニーズに合致している」とどのように判断するのかを知ることだ
私たちは検索を実行するユーザーの側ですので、Matt の言っていることがわかりにくいのですが、これは検索アルゴリズムを作る側の視点で、その分野のエキスパートが「おう、これは有用な情報だ」と判断する際に頭のなかに起こっていることを解き明かしたいということに他なりません。
サイトの評判を示すバックリンクはそのために有用であるとしつつも、いま開いているこのページの有用性と直結するとは限りませんので、多少は重要性が低くなるはずだというわけです。
ここで Matt は有名人をふたり引き合いにして、「だからこのページは Danny Sullivanが書いたもの、これは Vannesa Foxが書いたもの、といったようにその分野のエキスパートが書いたものと分かればいいよね」という風に続けます。
あるいはここで検索業界の有名人の名前を引き合いにだしたために、「これからはその人物の有名度が検索に影響する!」と解釈をされた人もいるのかもしれませんが、実際は、たとえば私がとある雑誌やブログに寄稿していたとしても、「ああ、これはあのブログの堀で、べつの堀ではないんだね」とアルゴリズムが理解しているということです。
アルゴリズムが理解しているということは、「この人は特定分野で信頼度の高い記事を書いているので、このページにその分野のキーワードがあるなら信頼度は高いはず」という重み付けができるようになるということです。有名だからランクが上がる、という相関はあるものの、それではざっくりしすぎです。
極端にいうと、たとえばプログラミングの話題で信頼度の高い情報を提供する「有名人」がグルメの話をしているページの場合、そのグルメのキーワードで検索を行った人の結果にそのページが表示される可能性はそれほど高まらないということでもあります。
そのうえで、Matt は誰が書いたのかわからないページにおいても、その分野のエキスパートが「これは有用だ」と認識する仕組みを自然言語解析で知るのが彼らの究極の目的だと説明します。
Conversational Search と検索の未来
なぜ言語解析が重要なのでしょうか。
Matt はここで、Google がいま注力している分野として Conversational Search「会話的な検索」があると説明します。
実はこの機能、今週アップデートされた iOS の「Google検索アプリ」に搭載されていますのですぐに試すことができます。
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Google検索アプリを立ち上げ、たとえば「安部首相」と音声で入力します
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「安部首相」が「安倍晋三」であることを理解して、検索結果がでてきます。これだって、実は当たり前のようでいてあたりまえではありません。
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続けざまに、「彼の年齢」と音声検索します
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「彼」が「安部首相」であることを理解して、安部首相の年齢が表示されます
これはほんとうにすばらしい。
「会話的な検索」というのは、「彼」「それ」といった指示代名詞によって検索ができるようになるだけでなく、究極的には検索する側が含意していることを推測するという実に人間らしい機能をめざしているわけです。
たとえば「明日の天気は大丈夫だろうか」という検索をしたとして、その前段階にあるのが「子供の運動会」なのか「富士山の登山」であるかで情報の扱いは変わるべきで、未来ではそれも可能でしょう。
短い動画で、多少端折っているのでわかりにくいわけですが、つまりここで Matt がほのめかしているのは:
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自然言語解析でそのウェブページがいわんとしていることを知ること
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自然言語解析でユーザーが何を検索しようとしているのかを理解すること
は本質的に同じだということなのです。
その二つが合致するページを、バックリンクと、著者情報などの重み付けを使って適切にランクさせれば、きっとユーザーが求めているものに近いものが提供できる、ということでもあります。
SEO の未来?
私自身はページを高ランクに表示させる技術としての SEO にほとんど興味がないのですが、アルゴリズムが自分の文章をどのように理解するのだろうか? という意味では非常に興味があります。
そういう意味では、これまでのような誰もができる、タグ付けやバックリンクだけで上下する SEO から、より人間臭いコンテンツの評価指標へと発展してゆく分野なのではないかとかえって期待してしまいます。
ここで安易に「コンテンツの中身が重視される時代」と書くのは楽なのですが、「中身」とはなんだろう? 「重視」とは誰からみてどんな重み付けでなされるのだろう? ということがアルゴリズムによって評価しうるという意味なのかと思います。
こうした会話的な、コンテキストを理解した検索が実現すれば、もっとあいまいで不思議な検索も可能となるでしょう。
「雨の日に読みたい猫についてのエッセイを探して」
などといった奇妙な検索にだって、数学的に一応は重み付けされ、しかもパーソナライズした検索結果を表示することも可能は可能となるはずです。
それがGoogleの目指す「情報を有用な形で整理」したことになるのか、あるいは人間の感性はアルゴリズムが提供するようなものに陳腐さしか感じられず、より自分の感性で情報を探すようになるのか。
書き手も、よりアルゴリズムにターゲットした一義的なコンテンツを生み出すようになるのか、それとも多義的に解釈の開かれたコンテンツを生み出すことでより多くのリーチを生み出そうとするのか。おそらくは何らかの変化に迫られるはずなのですが、その未来はまだよく見えません。
それはきっと遠い未来の話ではなく、ほんの数年後の世界なのですが、そういう意味で、私たちはいまのGoogleをみて数年後のGoogleを予想するのは無謀ではないかと思うのです。
p.s.
Google が SEO を目の敵にしているという話もありましたが、それならここで Vannesa Fox の名前は上がらないような気がするなあなどと。これはひとりごとです。