今夏、家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」の発売から40年を迎えた任天堂。この間、「ニンテンドーDS」や「Wii(ウィー)」など多くのハードを世に送り出し、経営は長く、ハードの人気に左右されてきた。ところが、近年、ハードの売り上げ以外の要素が業績を牽引(けんいん)し始めている。3日に発表した4~6月期決算ではマリオの映画と「ゼルダの伝説」の新作ソフトの好調が業績を押し上げ、売上高、最終利益ともに過去最高を更新した。ファミコン発売から40年、ハード開発とともに培ったブランドが、経営基盤を支えるカギになりそうだ。
昭和58年7月に発売されたファミコンは、世界で6191万台が販売され、テレビゲームが広く世間に普及するきっかけとなった。
当時、小学6年生だったという古川俊太郎社長は今年6月に開いた定時株主総会で「3世代にわたって、当社のゲーム機で楽しまれている様子を世界中で見ることができる」と振り返り、「このことが長年ゲーム専用機のビジネスを続けてきた当社の大きな強みとなっている」と続けた。
一方、発売から7年目を迎えた「ニンテンドースイッチ」を「過去数年のようなペースで販売することは容易ではない」とし、昨年発売した「ポケットモンスター」や、今年の「ゼルダの伝説」の新作ソフトの好調ぶりを強調した。
ハードの人気に左右された経営
大和証券の鈴木崇生(たかお)アナリストも「今やハードではなく、任天堂のコンテンツにファンがついている」と指摘する。その上で「今後も、次世代機が不調で業績が低迷するリスクは低いのではないか」と話す。
確かに、平成16年のニンテンドーDS、18年のWiiと立て続けに大ヒットハードを世に送り出し、20年度の売上高は1兆8386億円で過去最高を更新した。一方で、ハードが不調になれば、経営への打撃も大きかった。23年2月に発売した裸眼3D(3次元)対応の「ニンテンドー3DS」は、約半年後の大幅値下げによって一時は販売価格よりもコストのほうが大きくなる「逆ざや」に。同年度に432億円の最終赤字に転落した。さらに24年の「WiiU」は販売計画を大幅に下回る不発となり、業績の低迷を招いた。
知的財産ビジネスが柱に
任天堂がハードの成否に依存するビジネスモデルからの脱却を始めたのは、ちょうどこのころになる。
「期待に応えられないこともある。これは娯楽ビジネスの宿命だ」。25年度の決算会見で当時の岩田聡社長はハードの売れ行きについてこう述べ、新たな柱の必要性に言及した。そのための戦略が「任天堂IP(知的財産)に触れる人口の拡大」だった。ゲーム以外の分野で、任天堂のキャラクターに親しんでもらうことでファンを増やし、ゲームのユーザー増にもつなげる狙いがあった。
28年に「スーパーマリオラン」でモバイルアプリに本格参入、令和元年にはグッズ直営店、3年にはユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)に「スーパー・ニンテンドー・ワールド」を開業するなど、続々と新たな柱へ向けた戦略を展開していった。
そして今年公開した映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の興行収入は世界で1900億円を超え大成功。ハードやゲームの売り上げにも好影響を与えるなど、さっそく効果が出始めている。また、5月に発売した「ゼルダの伝説」の新作は自社ソフトでは4~6月期として過去最大の販売を記録し、業績を押し上げている。
こういったソフト、ブランド戦略の成功は、ハードの販売にも影響すると専門家は見る。6年度中にはスイッチに代わる次世代機の発売が予想されているが、鈴木氏は「ゼルダのようにゲームタイトルにファンがついていることを考えれば、よほどとっぴなハードでない限り大きな失敗はないだろう」とみる。
任天堂は、映像コンテンツなどの「IPビジネス」を今後も強化していく方針を示しており、マリオの映画のような作品が続けば、業績を支える大きな柱となる可能性がある。(桑島浩任)