2023年M-1グランプリにて、初代王者・中川家以来のトップバッターで優勝という、圧倒的強さを見せつけた超新星・令和ロマン。ボケを担当し、自他ともに認める「お笑いオタク」の髙比良くるまが、その鋭い観察眼と分析力で「漫才」について考え尽くします
【第6回】「暴れる叫び声から整えられたビブラートへ」THE SECOND考察
コレカラをご覧のみなさん。
お久しぶりです。くるまです。
今回は先日行われた『THE SECOND ~漫才トーナメント~2024』を過剰に考えていこうと思います。
正式名称の~漫才トーナメント~の部分ってあんまり知れ渡ってないですよね。
『はねとび』で 言ったら『You knock on a jumping door!』の部分。
『めちゃイケ』で言ったら『-What A COOL we are!-』の部分。
フジテレビはサブタイトルが大好き!
THE SECONDを愛する男・通称セカおじとかいう人物の振り返りYouTube生配信を拝見したところ、あまりに早口すぎて何も聞き取れませんでした。
非常に腹が立ちました。
代わりと言ってはなんですが、私がしっかりと目に見えるサイズの文字に残し、奴との格の違いを見せてやろうと思います。
―1997年4月12日 ―
―ギャロップ林さん「俺…生えすぎちゃうか…?」―
第2回ということでやっぱり大会が”落ち着き”ましたよねー。
初回はベテラン漫才師の鬱憤が爆発するような大会になってたんですよ。
面白いのに報われなかったり、売れてもなお戦いを求める方々の叫びのような大会。
2022年のM-1でウエストランドさんが台本はもちろんその人間力の部分で若手賞レースに慣れた観客に新鮮に映ったのと同じように、三四郎さんやマシンガンズさんのような、漫才の外側をイジる「メタ漫才」が大きなうねりを起こしました。
その結果、今までM-1しか知らなかった人たちにも劇場番長たちの魅力が伝わり、R-1の芸歴制限も解かれ見事大ベテランの街裏ぴんくさんが優勝。
一方で成功していたはずのプラス・マイナスさんや和牛さんの解散、光と影、両側面からベテラン組にスポットが当たっている流れでの今回。
そうなると先述の「メタ漫才」の威力は若干下がっちゃうんですよ。
この大会何なんだ的な「そもそも論」は見方が定まってない荒地でこそ輝くもの。
でも今回は「この人たちがすごい」ってことをもう知ってる上で見てもらう形、去年でいうと決勝トーナメントの3本目からスタートって感じになり、シンプルに面白いのが有利な状況が整いました。
ノックアウトステージを見てこんなトレンドを感じ、トーナメントが出た上で個人的な予想としてはガクテンソクさんかななまがりさんが有利なのかなとまず思いました。ガクテンソクさんはとにかくボケ数が多いし分かりやすさもある、言葉ボケを連発するというスタイル的にネタ間のボケ移動も他の組よりやりやすく、ネタが組み換えやすい。だから6分×3本分は余裕でありそう。
一方ななまがりさんも森下さんのワードボケが無限にあるから3本楽勝だし、よりニッチでクレイジーな角度が刺さるお客さんだったら手がつけられない状態になるなと。
さあ本番楽しみというところで大仕事が入りましてリアタイできず、結果を知ってしまった状態から予想を確認することに。
俺はこの悔しさをバネに跳ぶベイブレード、公式の大会では使えないーー。
―2007年11月8日 ―
―ななまがり森下さん「…ウッ…ここは…?パラレルワールド…!?」―
見届け人は松本さんから有田さん・華大さんのトリオへ。
3人とも演者にリスペクトあるコメント、お客さんも見慣れない「賞レースにいる有田さん」に若干の緊張感。
去年は言ってたhooo!!みたいなのもない。ますます王道の空気を感じました。
そしてトップのハンジロウさん、ビジュアルと出身、2要素の短いツカミ+長めのくだり、その後しっかり間をとった漫才5分。
これは観客と同時に演者側もSECONDにアジャストしてるなあ。
去年は6分を若干余しながら使っていたり、足りなくて詰め込んでるケースも見受けられたけど、これは本当に完璧な運びだと思いました。
ただ同時に後半の「アドリブ弱い」みたいなメタ発言パートが他より返りが弱かった、この時点でノックアウトステージのトレンド継続の気配がしました。
金属バットさんは流れがある分かりやすい漫才で大ウケ。客観性のある、大阪の治安が悪いというところにフォーカスを当て、さらに東京で収録を行う以上、お客さんが東京の人が多いことにアジャスト。途中からストーリー性のある展開をしつつ、一瞬だけ時事ネタで味チェンしてまた物語に戻した。
ご両人は一番計算とかしないタイプだとは思いますが、時事ネタで流れ続けずに元のレールに戻ったことで、今年のトレンドにハマって最後までウケ切って勝利。
台本感によって努力の年輪を見せることがお客さんの求めている漫才だと確信しました。
さあ強いぞラフ次元さん、と思ったらなぜか空気を掴みきれていない。
起こったこととしては「ウソかホントかどっちか分からない」と思われてしまっていた。
なぜだろう。すごい分かりやすいし、めちゃくちゃ上手いのにと思いました。
これおそらく、空さんが結婚していたことを隠していた、っていう事実から展開することが、ハンジロウさんのツカミの部分とごっちゃになって混乱が起きたのかなと。
ハンジロウさんだけじゃなく、SECONDの特性上、自己紹介を兼ねたゆったりしたツカミは「事実ベース」なことが多く、現にラフさんもそうであったし、ということは事実のパートだからこれはツカミで、これが終わったら虚構の話し合い=ネタが始まると思い込みすぎたか。これは王道ムードのデメリットですね。
真面目に聞こうとしすぎて「結婚を隠してた」、で「えー」とかも起きずに過ぎてしまったことでそのまま行ってしまったかなあ。
もちろんお笑いファンの人が多くてその話をすでに知っていた、とかもあるのかも知れませんが。
後攻のガクテンソクさんも、よじょうさんの上京、という事実からテーマに入っていってしまった。
これはまずいんじゃないかと思ったが違った。会話をベースにボケる空さんと違って明確に言葉でボケるよじょうさん、それを切り捨てる奥田さん。
明確に漫才と分かったら安心してウケるウケる。淡々とボケを重ねるけど、事実が下地になってるからストーリー性が感じられる。
ここで気づいたのは完全に台本びいきってことではなく、基本台本リスペクト体制の中、ほんの少しの感情が見えるバランスが求められてること。
割合で言ったら9:1くらいの感じで。
去年はギャロップさんや囲碁将棋さんなどの台本勢のことも人間で評価してる、大袈裟に言えば「全部ホントのこととして聞いてる」空気がありましたが、そこから変わりましたよね。
まだ学天即さんだった頃のTHE MANZAIも同様の空気だったからこその当時の苦戦もあったのかなと今想像します。
その空気の時に千鳥さんや華大さんがいたのは強すぎるなあ。年こそ被ってないけど忍者になって巻物を取りに行く方もいたくらいですからね。
―2018年8月2日 ―
―ラフ次元梅村さん「オーイ‼」―
ななまがりさんも種類は違うけどラフさんと同じ落とし穴にかかってしまったような感じですね…。森下さんのワードでバッとウケるが、それが「本当に結婚している初瀬さんが不倫を耐える」ネタという構成にはお客さんの集中力が割かれていなかった。
台本リスペクトしてるなら構成まで見れるだろ、とか言わないでください。
そんな全部いっぺんに楽しむのはかなり難しいのです。
森下さんのボケがすごい!唯一無二!面白い!で、この設定なんだっけ、ってこともあるんですよ。
その分3点が取りきれず、一方どうしてもスタイル的に発生してしまう1点勢のマイナスをカバーできなかったのが惜敗につながってしまった。
タモンズさんはトレンドばっちし達人しゃべくり、ツカミのリアリティ、あるあるの精度も完璧、キャラクターで取りに行くところは普段ならもっとウケるところでしたが間も崩さずやり切った、ここは名勝負でしたねえ。
タイムマシーン3号さんは、他の組より知名度や実績が後ろに見えて全体的に上がっていたハードルがさらに上がってしまったと思います。
3分2本という意欲的な構成大好きだったんですけど、それも真剣勝負感が減る原因になっちゃったような。
その点、今回最大のアンチ・トレンド・ザ・パンチさんは正直きついかな、と思ってたらここまでがフリになってむしろはねるという、2022ウエストランド現象。(第一回・漫才過剰考察参照)
たっぷり人間ツカミ、「目を合わせる」っていう基本であり究極のテクニックと最強に面白い顔でお客さんの「審査員心」を破壊しててかっこよかったです。
本ネタのボケを絞って一発の威力もすごく上がっていて、そこが最年長の腕だなあって。
こっからは流れ通りというか、金属さんの宗教漫才もタモンズさんの誕プレ漫才も1本目よりは作品性が少なく点数は伸びない。
いや金属さんはむしろ高すぎて受け取れなかったのかも。ベスト16の かもめんたるさんも超面白かったのですが数字に出なかった。
ザ・パンチさんの洗練されたメタ・パーツも3本目には鮮度を失い、2大会連続準優勝者が大会最低点という最高にオイシイ悲劇になってくれた。
そんな中、ひたすらにボケを重ねて、ツッコミで広げて、お客さんを不安にさせず淡々とやりきったガクテンソクさん。
ギャロップさんは3本目で大胆に構成を変えるサプライズがありましたが、そういったフルスイングではなく、3本ほぼ同じフォーマットからの言葉ボケでシンプルに当て続ける。
ヒットをとにかく打ち続ける、ホームランバッターより年俸の高いヒットメーカーみたいな漫才師ですね。まじイチローです。
これには一弓もワンワンですよ。
同じことを若手がやっても絶対に説得力が足りない漫才、それを3本も。
THE MANZAIのころから研鑽されていった、分厚い日記を読まされたみたいな感覚。いや、もはや辞典ですね。面白言葉大辞典的な。まさにナポレオンの辞書です。不可能のない、ボケがいっぱい並んだ面白い辞書。それをみんなで見ていた、というのが今回の大会でした。
お二人をミスターSECONDと呼んでもいいのかもしれません。呼んじゃいます。
来年は開催されるかまだわかりませんが、第3回が開催された暁にはさらにまた混迷を極める大会になることは間違いないでしょう。
暴れる叫び声と整えられたビブラートみたいな技術、侍とロボット、どちらのパターンも出尽くしたので、ここからどっちの良さをどうとるのか、どう見るのか。お笑いファンが審査するというザセカンドの設計上、審査員となるお笑いファンにどんな人が多いのか、けっこう運要素がデカくなりそうですよね。運とも言えるし、トレンドをいかに正確に捉えることができるか、とも言えそうです。意図的でもたまたまでも運やトレンドを捉えられた人が強い。相変わらず厳しい大会になりそうですね。いやぁ。。。SECONDやなあ。。。
髙比良くるま
写真・北原千恵美