JASRACの独占禁止法による排除措置命令を考えながら著作権運用の未来を考えてみる

さて。JASRACの件です。ついに来たのですよ、この判決が。

「公取委のJASRACに対する排除措置命令取り消しは誤り」、東京高裁が判決
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20131101/515527/

この経緯、もうちょっとさかのぼってみましょうか。

そもそもは2009年2月にJASRACが公正取引委員会から受けた放送事業者との「包括契約」が独占禁止法違反に当たるとして排除措置命令が出たのがきっかけです。

「JASRACの包括契約は独禁法違反」公取委が排除措置命令
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2009/02/27/22612.html


 新たに管理事業に参入した4社のうち、イーライセンスが2006年3月にエイベックスマネジメントサービスなどから放送等利用に係る音楽著作権の管理の委託を受けた。イーライセンスは放送事業者に対して管理楽曲全体を包括的に利用許諾した上で、使用料は個別徴収とする内容の契約を締結した。

 当時エイベックスマネジメントサービスがイーライセンスに対して放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託した楽曲の中には、大塚愛の「恋愛写真」を含め、すでに人気のあった楽曲や人気が出ることが予想される楽曲があった。

 しかし、FMラジオ曲を中心とした放送事業者は、エイベックス楽曲を放送番組で使用すると、JASRACの包括契約の他に、イーライセンスに支払う放送等使用料の追加負担を生じることを嫌って、2006年10月以後はエイベックス楽曲をほとんど使用しなかった。

 こうした事態を受けてエイベックスマネジメントサービスとイーライセンスは10月から12月までの使用料を無料としたが、無料期間終了後も放送等使用料を徴収できる見込みが立たないことから、エイベックスマネジメントサービスは2007年1月以後のイーライセンスへの放送等利用に係る音楽著作権の管理委託契約を解除するに至った。

 イーライセンスの管理楽曲を使うこと、すなわち放送事業者にとっては音楽著作権料のコストアップを意味するため、イーライセンスでは放送等利用に係る著作権の管理を委託されることはほとんどない。また、イーライセンス以外の他事業者についても、放送等利用に係る著作権管理事業の委託を受けることができないため、放送等利用料の管理業務を開始していない。

この件を受けて公正取引委員会が調査に入り「実質的に独占状態になる」と判断。JASRACに排除措置命令が下されたわけです。ただ、これに対して当然JASRAC側も反発します。

公正取引委員会に対する審判請求について
http://www.jasrac.or.jp/release/09/02_6.html


 昨年4月に立入検査を受けて以降、当協会は、公正取引委員会に対し、現行の放送使用料の徴収方法や将来的に考え得る変更内容、その実現のための課題、実現に要する時間等について詳細に説明してまいりました。しかしながら、このような状況に至ったことから、今後は、審判を請求して適正な事実認定と正 しい法令の適用を求めつつ、あるべき方向性を見出していきたいと考えています。

と殊勝なコメントを出したかと思えば、なぜか追記があって

◇ 今回の命令に関する当協会の見解の概要は、次のとおりです。
1. 当協会は反競争的な指示・要求などを一切していません。
2. 今回の命令では、放送使用料の算定において具体的にどのような方法を採用すべきなのかが明確にさ れていません。
3. 今回の命令は、放送事業者の協力が得られない限り、当協会単独では実行不可能な内容です。
4. 当協会にお支払いただく使用料は、あくまでも当協会の管理著作物についての利用許諾の対価です。

と俺は悪くない、とつい追記してしまうあたりがJASRACっぽいなあって思ったりもしていたわけです。

 これに対してイーライセンス側もプレスリリースを発表。

公正取引委員会「独占禁止法(私的独占)違反による排除措置命令」について
http://www.elicense.co.jp/u/20090227.pdf

(略)
 当社としましては、それから6年の年月が経過し出されたこの「排除措置命令」により、公平公正な競争が促進されるよう、社団法人日本音楽著作権協会が速
やかに対処されることを期待します。
 また、放送権とともに、業務用通信カラオケ、貸レコードなど他の利用形態においても同様の「包括利用許諾契約」が締結され、競争阻害要因となってい
るおそれがあります。
 このような他の支分権・利用区分においても、今後、公平公正な競争市場が早期に形成されることを願っています。

 「おらJASRACてめえちゃんと対処しろよコノヤロウ、カラオケもレンタルもな!!」っていうね。


 ここで出てきたカラオケやレンタル、って言葉からもう一度この件の問題点がどこにあるのかを整理しておきましょう。

 まず包括契約に関して。2001年までは著作権管理事業というのは文化庁の許認可が必要になる仕事だったので、実質JASRACしか著作権を管理していなかったわけです。で、レコードやCDは何枚作成したとか売れたとかの実績値がほぼ出ますが、テレビとかだと困るわけです。著作権はちょっとしたジングルなんかでも発生するので、流した音源全曲を原則論で言えばチェックし報告する必要がある。しかしそれをチェックするのも管理するのも報告するのも実質出来ないから「年間いくらでJASRAC楽曲は使い放題にして下さい」ってのが包括契約。これは「著作権管理=JASRAC」の時代だったらほぼ間違いなかったわけです。
 しかし時代は流れてインディーなどの音源も増え、音楽業界の中の人間だけが音楽を作成するって時代ではなくなってきた。でもテレビやラジオでは「音源は使い放題でまとめてJASRACに報告でオールOK」というスタンスのままだったわけです。
 2001年に著作権管理事業の許認可をつかさどる「仲介業務法」が廃止されます。この時点で著作権管理事業に飛び込んできたのはイーライセンス、ジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)、ダイキサウンド、アジア著作権協会(確かMCJPとかもあった気がするが今ではイーライセンスのグループ会社になったみたい)。どの事業者も大した楽曲やアーティストは持ってなかった。ただJASRACとは違いレーベル寄りのスタンスで著作権管理を行う業者が多く、これは着メロや着うたのライセンス許可をはじめとするデジタル時代の著作権運用に大きく貢献したわけです。JASRACに比べると圧倒的にフットワークが軽い。デジタルの時代に対応するにはJASRACはあまりに大きくなりすぎていた。
 レンタルやカラオケに関しての著作権運用は過去の時代のものを引きずったままだ。かつてのレコードレンタルなどと違い今ではPOSでどのCDが何回レンタルされてたかであるとかは調査できないわけではない。カラオケも8トラやレーザーディスクの時代と違い、どの曲が何回利用されてたかは容易に調査できる。しかし過去の経緯と調査や作業の手間とトレードオフされる形で「包括契約」、言いかえれば「ブランケット方式」が成立していた。そしてそもそもの問題として「使用された曲に対して著作権料が支払われない事態」が発生する。これは音源の発表が大手レーベルに限られた上、著作権管理=JASRAC」だったから成立していた話であって、複数著作権管理団体が存在するとなると、著作権料の支払い等が著作権管理団体の間でてんでバラバラになっている事態が発生する。
 

 話がそれたが、JASRACは先の排除措置命令を不服とし、審判請求の申し立てをした。

公正取引委員会に対する審判請求の申立について
http://www.jasrac.or.jp/release/09/04_2.html


 審判請求で述べている当協会の主張の概要は、次のとおりです。
1 代替可能な商品・役務とは異なり、音楽の著作物は基本的に代替性を欠くこと。
2  放送事業者が放送使用料の追加的な発生を回避するために、他の管理事業者の管理楽曲を利用しないということはなく、利用しないと考えること に合理性がないこと。
3 包括契約及び1曲1回の個別契約の双方にそれぞれ存在理由があり、また、包括契約は諸外国のほとんどの著作権管理団体で採用されているこ と。
4 包括徴収する使用料に他の管理事業者分が含まれていないこと。また、このことは管理事業法の施行又は他の管理事業者参入前後で変わりないこ と。
5 包括契約の対象となる当協会の管理楽曲数は一定ではなく、年々増大していること。
6 我が国の放送使用料は、国際的にみて極めて低い水準にあり、諸外国の著作権管理団体からの求めにより、その改善に取り組んでいる最中である こと。
7 当協会は、本件について、排除措置命令という方法ではなく、公正取引委員会との協議を通じて実行可能で効果のある徴収方法を検討することが 適当だと考えており、排除措置命令の必要性についても正しい判断を求めること。

 これを見た時「?」ってなったのを覚えている。まず文章の意味が良くわからない。そして「包括契約」の存在意義を主張すればするほど、先の疑問が頭をよぎるわけです。改善策は「包括契約」を守ることしかないのか?っていうね。
 多分、放送業界の方からも強い圧力があったのではないかなあと考えている。今までバイキングだったものが一品一品の値段に変わるだなんてありえない、みたいな。正直テレビもラジオもJASRAC管理楽曲だから使ってるなんてことはなく、体のいい使い放題にJASRACがお墨付きを与えてるような状況にあったわけだ。これは悪意があってそうなっていたわけじゃなく、「過去はそれで何ら問題がなかった」ってことなんだろう。


 で、まさかの展開、東京高裁は公取委の排除措置命令について執行免除を決めるのです。

東京高裁、公取委の排除措置命令について執行免除を決定
http://www.jasrac.or.jp/release/09/08_1.html

 一億円の供託金を払って現状維持という謎の結論に。


 そして2013年、11月に再度排除措置命令。これでJASRACは一にも二にも改善策を検討しなければならなくなったのです。
 当然JASRACはキレてます。

審決取消訴訟の判決について
http://www.jasrac.or.jp/release/13/11_1.html

 
①本件排除措置命令及び本件審決の名宛人でないイーライセンスには原告適格(※)が認められないこと。
②仮に原告適格が認められるとしても,本件審決の事実認定は合理的であり,法解釈にも誤りはないため,本件審決には取消事由がないこと。

本日の判決はこれらの主張をいずれも否定したもので,到底承服することができないため,判決文を精査した上でしかるべき対応をとる必要があると考えています。

 そしてイーライセンス側は快哉を上げるわけです。

http://www.elicense.co.jp/u/20131101.pdf
当社といたしましては、放送権など新規支分権管理参入から7年、「排除措置命令」から3年9ヶ月が経過し出されました今回の判決を受け、放送権のみならず、本件包括徴収方式にて管理されている他の支分権や利用形態につきましても、公平公正な競争市場の早期形成に向け、一般社団法人日本音楽著作権協会が速やかに対処されること願っております。

実際JASRAC側がそれに対してなんら取り組んでないということはない。そのあたりはこのブログ記事に詳しい。

JASRACの審決取消で、新聞が書かなかったこと。 〜キーワードは、デジタル技術活用とガラス張りの徴収分配
http://yamabug.blogspot.jp/2013/11/jasrac.html

この記事に書かれている動きは確かに正しい方向ではあると思う。


 しかし、僕としてはJASRACはいかんせん大きくなりすぎた巨獣のような存在になってしまってるので一度解体すべきだと考えている。というのも「徴収」に対する問題は先のブログ記事にあるようなデジタル透かしと著作権情報集中サーバーみたいなものでOKなのかもしれないが、「分配」に関しての問題が未だに残っている。そしてそれはJASRACだけが何とかすればいいものではない。著作権管理自体は国で横断して管理すべきような状況なのだ。そして使用方法や分配方法などに関して各著作権運用管理事業者が行うという形にならないと、大元の問題は解決を見ない気がする。
 かつてひょんなことからJASRACの理事会を見学したことがある。この包括契約から生まれる収入の各著作権者への分配はその時からブラックボックスだったし、それに対して多くの著作権者である著名作曲家は異を唱えていた。放送局がJASRAC管理楽曲外のものを利用してもオールOKみたいな風潮に関しても質問であがっていた。そしてそれに対して理事長たちは他の放送局や実演家などの各種団体との関係からなのかのらりくらりと言い逃れていた印象を受ける。
 過去の経緯は過去の経緯だ。今さらそれを糾弾してもしょうがない。しかし「著作物を利用したら著作権者に対価が支払われる」という当たり前の原理原則をないがしろにし、既存の「業界」関係の内部で金を回し続けてきたことへのツケが今回の独占禁止法による排除措置命令に繋がったのだと思っている。