光市事件の続き

 判決がでたことで、改めて反響が大きい事件なのだと再認識した。僕の日記にも客さんが多い。ってか、一ヶ月前に気合をこめて書いたエントリーよりも、昨日ざっと書いた感想の方がブクマ多いとは。 以前、競馬でお世話になっid:toroneiさん 昨日の風はどんなのだっけ?にリンクされたりしたことが大きいのだろう。せっかくの機会なので、僕の意見を整理して、繰り返しになるが記しておく。はてな界隈の反応をみるに(mixiは怖くてみてません)依然として弁護団が何をしていたのかということが、ほとんど伝わっていないと思ったからだ。

ちなみに
・昨日の感想

・一ヶ月前の↓こっちにかなり言いたいことを書いている。

光市事件 弁護団は何を立証したのか

光市事件 弁護団は何を立証したのか

本にもなっている。

 まず、この事件は、非常に痛ましい。そう思わない人などいないだろう。殺人事件なのだ。悲惨に決まっている。もしこの件に関して神龍に一つだけ望みを叶えてやる と言われたら、迷わずタイムマシンで九年前に戻り、事件を阻止することを選択する。

 しかし、こうした事件は、毎年数百件 日本国内でおこっている。そして、そういった「刑事事件のひとつ」として捉ると、本件は決して「珍しい」類のものではない。

「DVにより健全な成長が妨げられた少年が、その未熟さゆえに予期せぬ事態に対応できず、結果的に重大な犯罪を犯してしまった。」

この弁護団の描いた事件像を、僕は最も妥当性があるものだと思っている。けれども、マスコミの報道は、事件を極めて複雑なものへと変えてしまった。現在は、厳罰化・判例主義・裁判員制度・死刑制度そのものについて・弁護団について・被害者遺族のありかた・世論・感情的な煽り・刑事弁護について等、多くの論点が幾重にも絡みあった難解な事件になっている。「何がどうなってるのか」を理解するためには、半日以上の時間が必要であろう。

 テレビをみたり、新聞を読んだり等、通常のメディアに接しているだけでは、事態を正確に捉えることは、まずできない。アンチ弁護団の空気ができあがってしまったからだ。こうした状況では、弁護団が何と言おうとも、彼等の発言はすべて愚かしいものにみえてしまうだろう。マスコミの罪は本当に重い。先日、BPOが ようやくそれに対する苦言を呈した。未読な方は「弁護団きも」と言う前に是非読んで欲しい。

 ここで「弁護団にもたたかれる要素はあったから仕方ない」と、まるで「いじめられる原因はおまえにある」みたいなことを言う前に、ハンターハンターを100回読んで、クラピカの台詞を頭に叩きこんでほしい。  

 弁護団が何を言ってたのか。それは極めてシンプルなことだ。「真実」を明らかにし、被告人に真剣な謝罪をさせ、贖罪の道を歩ませよう。そのためには、何がどういう状況で起きたのか、きちんと事実を把握する必要がある。…むしろ、これ以外にどんな選択肢があるのだろうか? やっていないことまで自白させられた供述書の内容(ちなみに裁判所はこの内容が正しいとした。)を認め、偽りの謝罪をすること。それで、遺族感情を沈め、判例から無期懲役をgetする。一審・二審はその方向で裁判をすすめた。(ちなみに現在弁護団にいる石塚弁護士は、その方針で二審の弁護人と関わっていたが、今は方針転換している。) これは本当に「正しい」ことなのだろうか?んなわけねー。

 判決後の弁護団記者会見を産経新聞が詳細に報じている。(非常に評価すべきこと) 是非読んでほしい。
【死刑判決で弁護団(1)】「裁判所は被告人の心を完全に見誤った」 (1/2ページ) - MSN産経ニュース
【死刑判決で弁護団(2)】「被告は冷静に『真実を述べてきた』」 (1/2ページ) - MSN産経ニュース
【死刑判決で弁護団(3)】「事件は厳罰化のために使われた」 (1/2ページ) - MSN産経ニュース
【死刑判決で弁護団(4)完】「私たちの弁護は間違っていない」 (1/2ページ) - MSN産経ニュース

安田弁護士「裁判所は死刑を免れるためにうその供述をしたと認定しているが、前提を間違っている。最初に被告が話したのは2年前の教戒師が初めて。弁護側は教戒師に証言を求める手続きを取ったが、裁判所が採用しなかった。最高裁の呪縛(じゅばく)が極めて厳しものだったのだろう。一体何を聴き、何を見てきたのか憤りを感じる」

井上明彦弁護士「判決では新しい供述を信用できないとされた。その理由は、1審でも控訴審でも争っておらず、今いきなり出てくるのは信用できないということだ。しかし、この不合理な判決を下す裁判所が存在する限り、被告人は怖くて争うことができない。少し争っただけで反省の気持ちがないということになり、死刑になってしまう。そんなリスクがあるのに、争っていないことについてあそこまで断じられてしまうなんて。私は非常に憤りを感じます」

 至極真っ当なことをいっているのにも関わらず、id:muffdivingさんのような人でさえ、恐ろしい偏見を持って「バカいってんじゃねーよ」という読み方をしていたから、もしかしたら火に油を注ぐようなものなのかもしれない。しかし、前提となる事実が間違ってるのであれば、反省のしようがないではないか、というのが弁護団の主張なのだから、そのどこに問題があるのかわからない。

 それにしても高裁の判決はあまりにお粗末だ。 たとえば、

【光市母子殺害判決の要旨(7)】夕夏ちゃん殺害「被害児を床にたたきつけたことは動かし難い事実」 (1/2ページ) - MSN産経ニュース
 世間を騒がせた「赤ちゃんを叩きつけた」という話がある。一審判決が「叩きつけた」と認定したことに対し、弁護団は、法医学の立場から遺体を鑑定し、頭に傷がないという事実から異を唱えた。ちなみに、検察側鑑定人の言い分は「叩きつけた場合、傷害が残る可能性は極めて高いが、残らないこともありうる」ということだった。そして、高裁の答えは「一審で認めていて、その後もそれについて謝罪していたのだから、叩きつけたという事実は疑いようがない」 

 ちょっとまってくれ、と言いたい。「科学的」な立場、客観証拠から、一審判決に異議があったから唱えたのに「一審が認めてるkら」とは、おまえは一体何を言っているんだ? 理解に苦しむ。その他も似たりよったりだ。あまりに「そりゃないんじゃないの」という判断が下されている。弁護団の主張を時間をかけて読んだだけに、この判決はあんまりだと感じざるをえない。

 産経は本村さんの会見も記事にしている。こちらも必読だ。
【死刑判決で本村さん(1)】「彼も覚悟していたんじゃないかと…」 (1/2ページ) - MSN産経ニュース
【死刑判決で本村さん(2)】「彼が納得しているか見極めたくて、背中を見つめていた」 (1/3ページ) - MSN産経ニュース
【死刑判決で本村さん(3)】「弁護人の正義は黒を白やグレーに変えることではない」 (1/3ページ) - MSN産経ニュース
【死刑判決で本村さん(4)完】「不正義まかり通る国でないと信じてきた」 (1/2ページ) - MSN産経ニュース

 裁判所が認定した事実への認識に関しては、勝手な第三者の立場からだが、すれちがいにより誤解が生じていると思う。だが、それ以外の「被害者遺族が軽んじられてきたこと」「司法制度について」は非常に考えさせられるし、同意したい部分多々ある。

 弁護団が上告したことで、事件はまだ続く。何となく結果は予想できるが、最高裁は、もう一度「事実を精査」してほしい。弁護団の主張に耳を傾け、法医学や心理学の蓄積を無視することなく、判断してもらいたい。また、マスコミの誤った報道による「怒れる世間」の影響も踏まえて司法の「正義(罪を憎んで人を憎まず。誰でも裁判は公平に行う)」を実践して欲しい。

おまけ

また東京高裁か。政治的な判断があったとしか思えない。弁護団2100人でもって裁判所を襲撃するしかない。

相変わらず痛い反応だな。これにたいしては↓

id:toled先生が きちんと答えて尊敬する。