今夜はいやほい

きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」のいやほいとは何か考察するブログ

一泊二日、クアラルンプールを食べる。熱中症に倒れ、車に轢かれ、されど麗しきマレーシア料理。

 

マレー文化とインド文化の交錯点、カレーラクサを食べる

タイを経由し、マレーシアはクアラルンプールにやってきた。正直、全くマレーシアに興味がなかった。マレーシアについては、有名なタワーがあるらしいくらいのことしか知識がなく、東南アジアを旅行するとき、常に候補から外れ続けてきたのだけど、このブログによく出てくる男、加藤が、「マレーシアはいいですよ、というよりむしろ最高と言っていい可能性があります」と言うのだ。

 

「そうなのか。それはなんで」

 

「いいですか、まず、料理がいいんですよ。マレーシアの料理は、インド、中華、マレーの文化が混ざっていて、いろいろなものがあり、その上、けっこう日本人の口に合う感じなんです。きくちさんなんてむしろ好きなんじゃないかとおもいますよ」

 

「え、そうなの...... なんかにわかにいいところのような気がしてきたな。行ってみようかな......」

 

そんな経緯で、僕は、タイを経由し、マレーシアに到着した。近代的で小ぎれいな電車に乗り込み、首都クアラルンプールにやってきた。じとっとして、日差しはぎりぎりと肌を痛めるような暑さがあった。加藤の説明にあったように、いろんな背景を持った人がいるようで、街を歩き人とすれ違うだけで、かなり多文化的な印象があった。まずは腹ごしらえということで、マーケットに行き、マレーシアの文化的背景を象徴するような料理、カレーラクサを食べることにした。

 

 

行こうと思っていた店は、ホテルから五分くらいの距離だった。カレーラクサはなんでもロンリープラネットにおいて、世界で食べるべき料理の二位だか三位になっているらしい。そりゃ、なんかすごそうだなと歩いていたのだけど、目的の店は、結構カジュアルな感じのマーケットの中にあるようだ。

 

陽がとどかない、うす暗いところに、所狭しと屋台がならんでいた。まだ昼には早い時間帯だったので、客は誰もいなかった。

 

「Hi」というと、どれを食べるのかと聞いてきた。どれと言われてもよくわからないのだが、適当に指をさした。店員は、ひょいひょいと具をひろって、麺はと聞いてきた。よくわからないなあという感じの雰囲気を出していると、その人はいい感じに碗に盛り付けてくれた。

 

ビーチとかにあるようなプラスチックのテーブルにカレーラクサを置く。スープを飲む。ラクサっぽい南国の味付けに、カレーの風味がまざっている。あまり辛くはなく、まろやかなんだけど、スパイシーなおいしさがある。具はどれもごつごつと大きくて食べ応えがあった。箸でつまんでいくと、でっかい油揚げがはいっていて、それがもうスープをたくさん吸い込んでいて、噛むと幸せな気分になった。

 

 

麺は中華麺と春雨のハーフにしてくれたようだ。マレー、インド、中華の文化が入り混じった、まさにマレーシアを思わせる混雑的食べ物で、面白いなあと思った。

 

 

マレーシア、全然興味ないなと思っていたのだけど、僕はこの時点で、マレーシア結構好きかもしれないぞと思った。加藤の言う通り、料理がかなり口に合いそうな気配があるのだ。

 

僕は満足して、店を出た。奥深きマレーシアの入り口に立ったのだなと思った。あたりはとにかく暑く、歩いているとクラクラした。マレーシアは、一筋縄ではお前を楽しませるわけにはいかないのだと言ってきているかのようだった。なるべく日陰を歩くため、軒下を歩いた。

 

 

路上のカフェでミルクティーを

 

とりあえず、一回ホテルにチェックインするかと、歩いていると、おっちゃんがじろっとこちらを見ているのに気が付いた。おっちゃんは、手にマグカップを持っており、てこてこと歩いて、道端になげやりに置かれたテーブルの上にそのカップを置き、深いため息をついた。おっちゃんはてこてこと半野外のキッチンへと戻っていった。どうやら、簡易なカフェのようなものらしい。

 

 

僕は、そのおっちゃんの労働があまりにもだるすぎるというオーラが染み出ている、なんとももの悲しい後ろ姿に突然ぐっときてしまった。キッチンを覗き込み、注文いいか?という念を放つと、おっちゃんは、だまってメニューを指差した。僕は、ミルクティーを注文した。

 

 

真っ赤なプラスチックの椅子に腰掛け、強くなり続ける日差しを恐れながら、ミルクティーを待った。大通りを一本入ったところで、道は静かだった。隣のテーブルでは、マレーシアのおっちゃんたちが、肉まんのようなものに合わせ、やはりミルクティーを飲んでいるようだった。

 

なかなかの年季を感じさせるカップにミルクティーは入っていた。このカップで一体何千人、下手したら何万人がミルクティーを飲んだのだろうと思うと街の歴史に溶け込んでいくような感覚がある。ゆっくりすすり飲む。なかなかの甘さだ。何日も移動しっぱなしだから疲れてきたなあと思う。

 

 

カップの半分くらいを飲んだ頃、隣の席のおっちゃんたちは、モーニングを終えて、去っていった。食べかけのパンなどを床にばっと捨てた。あら、もったいないことだなあと思っていたら、どこからともなくホームレスの人が現れ、捨てられたパンなどを回収し、すっとどこかへ消えていった。

 

昼が近づいてきて、太陽は力強く照り続け、熱射病になりそうだったので、ホテルへ行くことにした。今、部屋空いているから、入っていてもいいよと、なんとも優しいスタッフに導かれ僕はベッドに倒れこんだ。

 

国立博物館に行くのは難しい

 

ふっと、意識が飛ぶと二時間ほどが経っていた。8畳くらいのほの暗い部屋だった。眠ったことで少し体力が回復したのでクアラルンプール国立博物館に行ってみることにした。ホテルの最寄駅からは一駅くらいのようだった。

 

クアラルンプールは大変発展していて、高層ビルがバンバン立っている。

 

電車を降りて、国立博物館を目指し歩き始めたのだが、あまり歩いていくことが想定されていないらしく、とんでもなく広い高速道路か?というような道を歩行横断しなくてはならなかった。車はびゅんびゅんやってきてなかなか切れない。太陽は無慈悲に暑い。じっと切れ間を待って、帯状に長い道を走って渡り切った。

 

 

結果的に、国立博物館に着くまでにめちゃくちゃ疲れてしまった......

 

 

しばらくベンチに座って休んでから見てまわることにした。マレーシアの歴史を全然知らないので、マレー王国は西暦2世紀ころの痕跡が色々あるのだということを知って驚いた。

 

 

日本についての記述はほんの少ししかなかった。日本統治時代はいろいろな物が欠乏していて大変よろしくなかったようである。それの反動で、独立運動が盛んになったというようなことも書いてあった。

 

 

ローストチキン+ローストポークライス

 

だんだん腹が減ってきたので、ホテルの近くにある有名なチキンライスの店に行ってみることにした。南香飯店は、クアラルンプールにきたら、まず行くでしょ的な店であるらしい。

 

すでに15時に近い時間だったこともあり、客はほとんどいないようだった。店内は薄暗く、中華っぽい香りがした。

 

 

丸々太った鳥が吊るされている。色が違うものがあるが、スチームされたものとローストされたものの二種類があるようだ。

 

 

ローストチキンとローストポークのセットを注文した。ローストチキンが、いい感じにしっとりとしていて、柔らかく、しかし、皮目はぱりっとしていて、完璧な美味しさだった。米とスープも良い感じに鳥の出汁が効いていてよく合うのだ。

 

 

シンプルなんだけどうまい。朝昼晩食べたいような普遍的なおいしさだ。手のひらの上で踊っているようであれだが、加藤の言うとおりどうやらマレーシアというのは、かなり好きな国であるように思われた。

 

 

劇的に苦いお茶・王老吉を飲む

 

疲れたので、ホテルに戻ることにした。疲れた疲れた言っているが、疲れたので仕方ないのだ。ベトナム、タイと来て、クアラルンプール 、そろそろ限界である。

 

道端で、王老吉が売っていた。え、これあの中国でよく売っているやつ?とじろじろ見ていると、屋台主の女性が、はいはい、飲んで行って、このコップ持って!いいからいいから、はい、今からお茶入れるよ〜と一瞬にして試飲体勢に持ち込まれてしまった。

 

 

やかんから注がれる茶をつぎつぎに飲む。苦いのが多くて、うまいんだかただ苦いんだか、よくわからなかった。結果的に、問答無用で買わされた。野良の王老吉はものすごく苦い。舌がぎゅっとするようなレベルで、胃腸には良さそうな苦さだったので、旅の疲れとかにはよいのかもしれない。冷たさが心地よくごくごく飲んでしまう。

 

 

マレーシアのワンプレート山盛りごはん、ナシカンダール

 

ホテルで、2時間ほど寝た。旅行中に何時間もホテルで寝るのもどうかと思うが、限界なのである。起き抜けでも、口の中はまだ苦かった。体力が回復してきたので、近くにあるモスクまで歩いてみることにした。

 

 

暑い暑いと、ひとりうめきながら歩いていたのだけど、モスクに到着したら、ちょうど5分前に観光客が入れる時間が終わっており、門番のおっちゃんに、あっち行けと冷めた感じで追い払われてしまった。しかたがないので、近くの店で珈琲を買ってそれを飲みつつお土産などを見て過ごした。

 

 

夕飯には、前から食べてみたかったマレーシア料理のナシカンダールの店に行ってみることにした。ナシというのはコメのことで、カンダールというのは行商人がもつ天秤棒のことを言うらしい。要はインド系の住民たちの日常飯のようなものだ。

 

タクシーに乗った。メーターを使ってと言うも、ノー、今は夜、それはつまり、渋滞、それはつまり、メーターの料金では行けない、というようなロジックで巧みにメーターを拒否してくる。めんどくさいなあと思いつつ価格交渉する。最初の言い値の65%くらいまで落とせたのでまあいいかと思い、乗り込む。東南アジアのタクシーはこういうことがあるから面倒である。

 

案の定、別に渋滞はなく、スムーズに店に到着した。

 

店はそこそこ賑わっており、僕は、どのように注文すればよいのかよくわからないので、しばし様子をうかがった。

 

 

同い年くらいのマレーシアの人が常連的な手慣れた様子で、最小限の言葉で注文を通しているのを見て、僕はその人の後ろにさっと付き、店員に、あの人と同じものを作ってくれとお願いしてみた。

 

 

店員は、はいはいと手首のスナップを鋭くきかせ、日本人には言語化不能な、さまざまなスパイスに彩られた具材を盛り付けていった。

 

 

結果こんな感じのものが盛り付けられた。美味しそうではあるのだが、前の常連が注文していたものから比べると、いくつかのパーツが足りていないように見えた。しかし、初心者にしては上出来であるようにも思えた。

 

 

鳥もジューシーでうまく、野菜や卵をくずして混ぜて、スプーンを勢いよく口に運んでいく。マレーの料理は日本人の口に合うというのはどうやら真実であるらしい。これは、具材を少しずつ変えて毎日食べられる。日常食としてとても優秀だなあと思った。

 

立派な髭を蓄えた若いスタッフが、何か飲むか?と聞いてきた。何があるのかわからず、そうだな〜と思案していると、店員は、じゃあ、ミロでいいかと言った。マレーシアでは、どこの店でもとにかくやたらとミロを見かける。

 

ナシカンダールをもりもり食べる。ミロをすする。ミロは大変甘いので、とてつもないカロリーを摂取しているように思われる。

 

旅行というのはよく動くので、カロリーをどんなにとっても太らないのではないかという錯覚を形成する。しかし、それはまさにただの錯覚なので、家に帰って、薄暗がりの洗面所で体重計に乗ると、常に現実は無慈悲なのであった。

 

 

摩天楼の資本主義MAXのバーで蜂蜜をなめる

 

マレーシアで行ってみたいところがあった。バーである。Bar trigonaという店で、世界的に有名であるらしく、世界なんとかかんとかランキング的なものにも載っているお店らしい。

 

腹ごなしに歩いて向かうことにした。クアラルンプールはなかなかの都市で見上げるようなビルが林立している。

 

 

マレーシア?あのでかいタワーがあるところでしょ、別にタワーなんてわざわざ見たくもないなあと来る前に言っていたのだけど、実際に煌々と光る巨大なタワーを見ていると、一応それなりにすごいなあと思うものである。ただ、まあ、なにかそんなに深い驚きや目新しさがあるものではない。

 

 

バーはこのツインタワーの横のホテルの中にあるようだった。ピカピカのエレベーターに乗り込む。無用にきれいなので、翻ってみずからの格好がみすぼらしく見えてくる。スムーズな上昇を続けるエレベーターがチーンと鳴ると、これまた、資本主義!をまざまざと見せつけてくるような空間が広がっている。

 

スタッフは、そんなに金も持っていなそうな格好の僕を優しく案内してくれる。ひとりだったので、カウンターの席についた。目の前に広がるバックバーの圧倒的資本主義感たるや、おいおい、ちょっとおちついていこうぜと言いたくなるような感じである。目一杯にギラついていて、日本のバブル期でもここまでマックスではなかったのではないかというような状態だ。

 

 

あきらかに場違いであることが分かるのだが、カウンターに他に客もいなかったので、そんなに気を使わないでもよさそうだった。バーテンダーがメニューを持ってきてくれた。同じくらいの世代っぽく、30代でこんな資本主義の頂点のようなところで働いているのだな......と感心した。流暢な英語を話すようだった。

 

まず、BUNGA RAYAというマレーシアの国花らしいハイビスカスのカクテルを頼んだ。ウォッカベースで、ハイビスカスの何かとグレープフルーツなどなどが入っているらしい。

 

飲んでみた。そんなに好きな感じでないなと思った。僕はそもそも、ハイビスカスのお茶とかもあまり好きではないので、多分それ系の味があまり好みでないのだと思うのだけど、つい、国の花だぞ!とメニューに書いてあったので注文してしまったのだ。

 

 

感想を聞かれるも、どんな感想を返せばよいのかもよくわからなかったのでGoodと答えた。そうそうに飲み終えて、次はBUK KUT EHというカクテルを注文してみた。これはつまり、マレーシア料理のバクテーである。

 

「これってあのバクテーですか?」

 

「そうです、あの味をイメージして、再構成しているんですよ」

 

ハイビスカスにバクテーといかにも観光客的注文だな、しかし、まあ、実際に観光客だからなと思いながら、バーテンダーがカクテルを作っているのを見た。

 

左はウーロン茶で、右はバクテーのカクテルである。カクテルはマレーシアのキノコのクリームで覆われている。下に潜んでいる酒部分は塩気があり、飲むと、たしかに、バクテーっぽいな...という味わいだった。口に油分が残るので、お茶でさっと洗い流す。なかなかいい感じのカクテルだ。

 

 

「日本には、何回か行ったことがあります」

 

「どこに行ったんですか」

 

「京都と札幌ですね」

 

「京都にはたくさんバーがありますもんね」

 

「東京にも行ってみたいです」

 

カウンターにでかい板のようなものが置いてあったので「それなんですか」と聞くと、「ああ、これハチの巣なんですよ」と言って食べさせてくれた。

 

 

マレーシアではちみつがけっこう有名らしい。噛むとハチの巣の網目から蜜がとろとろと流れ出てきて、口の中を満たした。景色を塗り替えるようなパワーを持ったとてもいい香りがした。僕はうまい、これはうまいぞと、ひとりカウンターで巣を噛み続けた。

 

「よかったら蜂蜜のカクテルがありますよ」と言ってバーテンダーが蜂蜜のオールドファッションを作ってくれた。ウイスキーベースのカクテルを飲み、ハチの巣をかじる。バクテーよりも直接的ではなく、しかし、なんとなくマレーシアの豊かさを感じられるような気がして、楽しかった。

 

 

この辺で、ウルトラ資本主義バーを後にした。日常使いするようなところではないけれど、まあ、人生で一回くらい行ってみてもよいなという感じのバーだった。

 

ふたたび野良カフェへ。肉まんを食べる

 

大変に疲れ果てて、起きたら10時まであと数分だった。急いでチェックアウトをした。

 

また、昨日の路上のカフェに行ってみることにした。今日は先客はいないようだった。ミロに肉まんを頼んだ。今日もやたらと暑い。日差しが徐々に上がっていってビルの影の幅を減らしていく。

 

店主のおっちゃんは、お、今日も来たのかというような表情で迎えてくれた。

 

 

熱中症になりながら、感動的ナシレマを食べに行く

 

今日は、やるべきことがあった。Village Park Restaurantという店にナシレマなるマレーシア料理を食べに行くのだ。僕にマレーシア行きをすすめた男、加藤が、クアラルンプールの郊外にあるナシレマというココナッツ風味の米を炊いた料理がめちゃくちゃおいしく、なんだったらそれを食べに行くためだけにクアラルンプールに行きたいくらいなのだと言っていたのだ。そんなにおいしいのであれば、行かざるをえない。

 

電車に乗り込む。ビルそびえたつ中心部を抜け、郊外へ出ていく。マレーシアは都心を離れても、なかなか整った空間が広がっている印象がある。電車もきれいである。

 

最寄り駅を降り、ナシレマ店まで歩く。問題があった。信じられないくらい暑いのだ。まあ、そんなに距離があるわけでもないしなと歩いていたのだけど、気温はびしばし上昇を続けているようだった。しばらく歩くと、道路が高温になっているのか、なによりも靴の中がめちゃくちゃ暑くなってしまって、それに伴って一気にくらくらしてきて、道端の木陰に座り込んでしまった。

 

やばい、やばいと靴を脱いで体育座りになり、うつむいた。手の指先が少し痺れていた。これは、いわゆる熱中症というやつではないかと思った。幸い、クアラルンプールの緑は色濃く、木陰はそこそこ涼しかった。

 

コンビニでもあれば涼めるのだが、周りには民家と幼稚園以外何もなさそうだった。木陰から、灼熱となった道路をただ眺めた。

 

 

15分くらい座って過ごした。誰も人が通らない。倒れたら救助されるのだろうか......などと思う。ここで野垂れ死んだら滑稽だな、うまいものを食べに行こうとのこのこ日本からやってきて、道端で熱中症だもんな。しかし、死ぬなら滑稽なほうがいいような気もする。水を飲む。いま、水を持っていたのは奇跡的なことである。異国の地でこうしてうずくまっているのはなかなか心細いものだ。

 

30分くらい座っていたら、徐々に体力が回復してきた。店までは、距離的にはおよそ1キロくらいである。戻ったらそれはそれで時間がかかるので、僕は、また、天でぎらつく太陽の下を歩き始めた。空からも足元からも熱が飛んでくる。

 

限界歩行を終えて、店にたどりついた。クーラーの冷気が入り口から流れ出てきた。やったぞ、たどり着いたとうれしさがこみ上げた。しかし、それは一瞬だった。店の前にうろうろしている人たちは入店待ちをしているようだったのだ。僕は意気消沈した。日本人がこれを食べにマレーシアまで行きたいというくらいなのだから、世界中に食べたい人がいるのだろう。

 

 

しかし、熱中症の僕に神は味方したらしく、中国人と思われる団体がごっそり店から出てきた。そのおかげで、5分くらい待っただけで店に入ることができたのだ。

 

速やかにナシレマを注文した。

 

店は涼しかった。もう涼しいだけで100点だった。アイスティーもよく冷えているので、200点である。隣には韓国人カップルが座っていた。本当に世界中から客が来ているようだ。

 

ナシレマは大量生成されているのか、ものすごいスピードでやってきた。


 

これを食べに来たのか、シンプルな見た目だなと思った。ナシレマ、はっきり言って謎の料理である。前情報はココナッツ風味の米というだけだ。まず米を食べてみる。パラパラとした米で、うまみは少なめで、ココナッツの香りが適度なふくらみがあった。あまやかである。ピリ辛のチキンと卵をくずし、米と混ぜ口に放り込む。あまやかな香りに弛緩した口が辛みでしゅっとする。鶏肉のうまみが広がっていく。キュウリ的野菜も皮がむいてあり清涼感があって別方向に感覚を引っ張って行ってくれる。

 

これを食べに人々が集まってくるというのはよく分かるなあと思った。なにせ、すごく分かりやすく美味しいのだ。僕は、ついさっきまで本当にぶっ倒れそうだったのだけど、この涼しい空間で、激うまナシレマを食べていると、気力がいい感じに復活してきた。

 

 

店のすぐ横がショッピングモールだったので、そこでタクシーを捕まえようと思った。もうこれ以上あるくと、本当に危険だと思ったのだ。ショッピングモールについているロータリーのようなところまで歩く。気温は下がることもなく、ひたすら暑い。

 

陽をよけられるところで15分ほど待ったのだけど、タクシーは全く来なかった。どうなってんだと、僕は、絶望しつつ、近くにいたスタッフの人に、タクシーって来ないんですかと聞いてみた。スタッフは、アプリで呼んでとすげなく言って去って行ってしまった。

 

そもそも、アプリが使えるなら使いたいのだ。それはとっくに知っているのだけど、海外ローミングでネット接続しているからか何なのか、ショートメッセージ認証ができず、アプリに登録できなかったのだ。僕はさらに10分ほど待ったのだけど、タクシーが来る気配がないので、あきらめて、歩いて帰ることにした。しかし、今すぐ行くと本当に危険なので、カフェに入ってクーラーの下、虚無の面持ちで甘いカフェオレを2時間かけてすすった。

 

やや気温のピークが過ぎて何とかなりそうな感じになってきたので、僕は、また、決死の帰還を開始した。帰りは途中で座り込むことなくなんとか中心部まで戻ることができた。

 

マッサージ屋のげきうまミックスジュース

中心地に戻ってきたのだけど、結果的には体はつらい状態で、もう歩けない...となってしまった。ふと、砂漠のなかにオアシスが浮かび上がって見えたかのように、マッサージ屋が目に入った。僕は何も考えずに階段を駆け上った。いや、疲れていたので、正確には、心は駆け上がったが、足はのしのしとしか動かなかった。どうしてこんなつらい思いをしなくてはならないのだと嘆きながら受付で説明をうけた。

 

砂漠のオアシス的に出現したこの店は、端的に言って、最高の店であった。60分のコースにしたのだけど、まず、第一に、なぜか、80分ほどマッサージをしてくれた。こういうのはなんだったら、気持ち短めに切り上げられがちだが、何かを勘違いしていたのか、ましましでマッサージをしてくれた。

 

若めの男性スタッフだったのだけど、マッサージが大変うまく、僕はすべての疲労が彼の手によってどこかへ去っていくのを感じた。そして、予想外なことに、ドリンクがやたらとおいしかった。中は見えなかったので詳細は不明だったのだが、ミックスジュースのようなものだった。カップにたっぷり入っていて、それもよかった。ジュースはたっぷり飲みたいではないか。

 

 

車に轢かれながら、新峰肉骨茶にバクテーを食べに行く

 

二日目は、完全に疲れ果てて、昼ご飯を食べる以外ほとんど何もできなかったわけだが、マッサージ中にうたた寝をして、体力がちょっと回復した。この夜、恐ろしいことに、飛行機に乗って台湾に朝5時に着く。どんな旅程だと突っ込みたくなるが、労働者の有限の休みを最高に使い倒そうとしたら、こんなことになってしまったのである。

 

まあ、飛行機まで時間があるので、最後に夕飯でも食べるかと、マレーシアの名物バクテーを食べに行くことにした。そして、僕は、以下の道でカジュアルに車に轢かれた。キー、バアアアアンが通常の交通事故であるとすると僕のは、キッ、ボスッというかんじで、そんなに速度が出ていなかったので、大事にはならなかったのだけど、後ろからセダンが来ていたのに気が付かず、ふともものあたりをボスッと轢かれたのである。

 

車は、何事もなかったのように、去っていった。ひき逃げである。僕は、日本だったら、スマホで動画でもとって、警察に行ってとやっていたと思うが、異国の地でそんなことやっても手間なだけなので、ただひき逃げをされて道に立ち尽くした。

 

 

熱中症が落ち着いてきたと思ったらこれである。僕は立ち尽くし、太ももにはあざができていた。ふんだり蹴ったりである。

 

何はともあれバクテーだ。Googleマップに従って歩いていく。クアラルンプールというのは横断歩道が少ない。歩きで移動することがあまり考慮されていないような気がする。

雑踏の中に見慣れたキャラクターが現れた。ドンペンだ。結構溶け込んでいるではないか。よく見ると看板にはISETANと書いてある。ドンキとISETANがこの距離で並んでいるのも不思議なものだ。

 

 

だらだらと20分くらい歩いてやっと到着した。熱中症になりかけて、車に轢かれている。加えて1週間分の荷物も背負っているので、すこし歩くだけでもくたくたである。

 

新峰肉骨茶というお店で、クアラルンプールのバクテー屋としては結構有名なお店であるらしい。

 

 

まだ、5時ころだったが、店はものすごく混んでいた。僕はテーブルの隙間をつかつかと歩いて店に入っていった。スタッフの人に声をかけると、ちょっとまっててと言ってひと席だけあいていた端っこの席をかたづけてくれた。

 

バクテーと告げると、さっと裏へ去って行って、数分でバクテーを持ってきてくれた。

 

 

はあ、深刻に疲れているな。これから飛行機のるのか......ていうかその前に空港まで移動するんだよな......と意気消沈モードである。ていうか、足が痛い。

 

スプーンで小鍋からバラ肉をすくう。唐辛子やニンニクなどが使われたたれをかける。味はしっかしとしていて、なかなかバランスのよい漢方の香りがする。

 

肉も適度に柔らかく、タレが肉のうまみを底上げして、ぎゅっと噛むと肉汁に混ざり、幸福感のある味わいだあった。いい塩気で、これがまた、米に合うのである。マレーシアの人々と言葉で分かり合わなくても、我々には米があるのだ。

 

内容のわからない異国の会話はよいBGMである。周りは皆、家族や友人とにぎやかに食事している。クアラルンプールの意地悪な陽が急速に落ちていくのが見えた。なんとも大変な2日間だった。僕は店の角でひとり、満身創痍の体をやすめるように、滋養がありそうなスープをちみちみとすすったのだった。

 

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