木走日記

場末の時事評論

民主党が「復活の呪文」を唱えた杭打ち桟橋方式がダメダメな理由

kibashiri2010-04-27




 普天間移転問題で民主党政権の迷走が止まりません。

 ついに民主党政権はカネばかりかかって全然自然に優しくないデメリットだらけの工法に「復活の呪文」を唱えたようです。

 27日付け産経新聞記事から。

政府、「浅瀬案」で米側と最終調整 審議官級協議で打診
2010.4.27 01:33

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾=ぎのわん=市)の移設問題で、政府は26日、米軍キャンプ・シュワブ(同県名護市)沿岸部に移設する現行案の2本のV字形滑走路を南側の1本だけとし、これを沖合に移動させる「浅瀬案」を米側に提示して最終調整を図る方針を固めた。工法も海流やサンゴ礁への影響が大きい埋め立て方式から杭(くい)打ち桟橋(QIP)方式に変更する。複数の政府関係者が明らかにした。

 浅瀬案は、現行案を「最善」とする米政府と、騒音軽減や危険性除去の観点から滑走路の沖合移動を求めてきた沖縄県の要求をともに満たす案として、外務・防衛両省の主導で検討されている。

 浅瀬案は、滑走路を現行案より最大で南側に350メートル、西側に150メートルの位置にある浅瀬に移動するもので、住宅地の騒音被害は現行案よりもかなり軽減される。また、埋め立てずに、海底に杭を打った上に滑走路を造るQIP方式は「きれいな海を埋め立ててはだめだ」(小沢一郎民主党幹事長)との声に配慮している。

 政府は、シュワブ陸上部にヘリ離着陸帯(ヘリパッド)を建設してヘリ部隊の拠点とする一方、鹿児島県・徳之島に可能なかぎり多くのヘリを移して沖縄の基地負担を軽減する案を検討してきた。だが米側は「ヘリ部隊と地上部隊は一体的運用のため65カイリ(約120キロ)以内に配置する必要がある」として、地上部隊が駐留する沖縄本島から約200キロの徳之島への分散移転に難色を示している。

 このため、日米協議の膠着(こうちやく)化を懸念する北沢俊美防衛相を中心に現行案の修正を模索する動きが本格化した。26日のワシントンでの外務・防衛当局者による審議官級事務レベル協議で米側に浅瀬案を打診し、27、28両日に来日するキャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)とも協議する。

 これに先立ち、キャンベル氏は25日、ワシントン近郊のロナルド・レーガン空港で記者団に対し、「最近の(日米間の)協議を通じ、われわれは勇気づけられている」と述べており、日本政府内で検討が進む浅瀬案を好意的にとらえている可能性がある。
 ただ、社民党の福島瑞穂党首(消費者・少子化担当相)は25日の記者会見で「現行案の修正では全くだめだ」と反発しており、浅瀬案で進めた場合、同党の連立離脱は不可避ともみられる。また、鳩山首相はこれまで「県外」を強く主張してきただけに、浅瀬案では“公約”違反に近い。仮にこの案で決着したとしても、鳩山政権は大きく動揺し、首相の進退が問われる可能性が出てくる。

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100427/plc1004270131001-n1.htm

 うーん、複数の政府関係者が明らかにしたところでは、「沿岸部に移設する現行案の2本のV字形滑走路を南側の1本だけとし、これを沖合に移動させる「浅瀬案」を米側に提示して最終調整を図る方針」を固めた模様で「工法も海流やサンゴ礁への影響が大きい埋め立て方式から杭(くい)打ち桟橋(QIP)方式に変更」することを検討中であるとしています。

 25日にキャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は「最近の(日米間の)協議を通じ、われわれは勇気づけられている」と述べており、産経記事は「日本政府内で検討が進む浅瀬案を好意的にとらえている可能性」を指摘しています。

 ・・・

 地元沖縄県が同意するとはとても思えませんが、「杭(くい)打ち桟橋(QIP)方式」ですか、15年前に一度は検討されいろいろな理由で放棄された工法をまた見事に蒸し返してくれましたね。

 少し整理しておきます。

 そもそも米軍キャンプ・シュワブ飛行場移設の建設工法は、防衛施設庁により3工法が検討されてきました。

■くい打ち桟橋工法
「多数の支柱を海底からたて、波高が及ばない高さに鋼鉄製の上部構造物を支える方式」
上部構造物により太陽光が遮られる区域が存在すること及び複数の支柱の海中設置による海生生物・潮流への影響について検討が必要
 
■ボンツーン工法(メガフロート)
「静穏な海面に箱形構造物(鋼鉄製)を浮かべ、係留する方式。静穏な海面を確保するため防波堤が必要」
箱形構造物により太陽光が遮られる区域が存在すること、及び箱形構造物の海上設置による海生生物・潮流への影響について検討が必要(付随して必要になる防波堤の影響も検討が必要)

■埋め立て工法
「護岸を築き、その中を土砂で埋め立てて人工地盤を造成する方式」
人工地盤面の形成による海生生物・潮流への影響について検討が必要

防衛施設庁による3工法の説明(要旨) より
http://www.mdsweb.jp/doc/676/kouhou.html#kui

 環境への影響度は、深刻な影響順に■埋め立て工法>■くい打ち桟橋工法>■ボンツーン工法(メガフロート)であり、一方建設費維持費は負担の大きい順に■ボンツーン工法(メガフロート)>■くい打ち桟橋工法>■埋め立て工法といった所です。

 当時(13年前)の共同記事によれば、各工法はぞれぞれの業界団体や地元業者の利権が複雑に絡んでいたことが理解できます。

2工法で業界団体が争奪戦
1997年11月9日

米軍普天間飛行場返還に伴う海上へリポート建設で政府は二工法を地元に提示したが、総工費が数千億円に上る巨大プロジェクトだけに、それぞれの工法を推す業界団体の争奪戦が激しさを増している。基本案は(1)最寄りの集落から一・五キロ離れたリーフ(浅瀬)内に海底に鋼管くいを打ち込んで上部構造物を支えるやぐら型のくい式桟橋方式(QIP)(2)三キロ沖合のリーフ外に防波堤を設け、箱型の浮体施設を浮かべる箱方式(ポンツーン)-を併記。名護市の住民投票を経て建設同意が得られれば、どちらの工法を採用するかが焦点となる。
QIPを推す商社、建設業者でつくる「沖縄海洋空間利用技術研究会」は、「費用も安く済む。直径一メートルのくいを四千本打ち込むが海底を痛める部分は滑走路本体面積に比べるとわずか〇・四%で、自然破壊も少ない」と利点を強調。「ポンツーンでは巨大な防波堤が海流をせき止め、環境への影響が大きい」と主張している。
これに対し、ポンツーンを推す造船業界などで構成する「メガフロート技術研究組合」は「水深のある地点ではQIP方式では、くい打ちコスト、鋼材も膨大になる。米側の要求への対応も万全だ」と反論。環境面でも「騒音などを考えると沖合に造った方がいい」とPRに余念がない。
防衛庁筋は、今回の海上施設の場合「ポンツーンの方が費用は割高になる」ことを示唆しているが、久間章生防衛庁長官は五日の那覇市での記者会見で「それぞれプラス、マイナスがある。騒音問題ではリーフ外がいいが、さんごの問題もあり、経費の問題もある」と指摘。
費用、騒音や自然環境への影響など一長一短があるとされ、最終的には米軍の意向や地元の要望も考慮して決定することになりそうだ。(共同)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-90560-storytopic-86.html

 この記事によれば■くい打ち桟橋工法は商社、建設業者でつくる「沖縄海洋空間利用技術研究会」が、■ボンツーン工法(メガフロート)は造船業界などで構成する「メガフロート技術研究組合」がそれぞれ押していました。

 またこの記事にはないですが■埋め立て工法は地元沖縄の土建業者が主たる支援者であったわけです。

 結局最終的には地元沖縄業者が潤い、工費も抑制できる■埋め立て工法に決定します。

 この決定は当然ながら「環境への影響が最悪」との批判を浴びるのですが、では■くい打ち桟橋工法や■ボンツーン工法(メガフロート)は「環境への影響」がなかったのかと問えば、■埋め立て工法よりはまし程度の効果しかないし、また建設費も高く安全性にも問題があるといった、多くの問題を抱えた工法であったから、費用対効果の面から不採用になった経緯があるのです。

 環境への影響に絞っても、■くい打ち桟橋工法では、直径一メートルの鉄筋コンクリートのくいを約四千本海底に打ち込まなければなりません、また広大な面積の浅瀬が日光から遮断されますので、防衛施設庁も「上部構造物により太陽光が遮られる区域が存在すること及び複数の支柱の海中設置による海生生物・潮流への影響について検討が必要」と認めています。

 浮き船方式の■ボンツーン工法(メガフロート)も巨大な浮き船を安定させるための防波堤が必須であるがために「箱形構造物により太陽光が遮られる区域が存在すること、及び箱形構造物の海上設置による海生生物・潮流への影響について検討が必要(付随して必要になる防波堤の影響も検討が必要)」(防衛施設庁)というありさまです。

 つまり、■埋め立て工法を■くい打ち桟橋工法に修正したところで、建設費・維持費は高くなり、安全性の問題も新たに発生するわりに、海流やサンゴ礁など自然環境への影響は決して軽微ではすまない中途半端なアイディアなのです。

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 過去に検討されはしたが、カネばかり掛かって自然保護にもまったくなっていないというしかるべき理由があって否定されたきた「杭打ち桟橋(QIP)方式」を復活させようという民主案であります。

 記事に、「「きれいな海を埋め立ててはだめだ」(小沢一郎民主党幹事長)との声に配慮」とありますが、埋め立てはだめだが「きれいな海」に直径1メートルのコンクリートくいを4000本も海底に打ち込むのは自然に優しいとでも思っているのでしょうか、これは詭弁ですね。

 工費・維持費の面からも、自然保護の面からも、デメリットだらけの選択であるダメダメな杭打ち桟橋(QIP)方式を、苦し紛れに復活させようとしている民主党政権なのであります。



(木走まさみず)