木走日記

場末の時事評論

佐藤参院議員「駆け付け警護」発言を批判する〜この国の法を尊重し擁護することは全ての国会議員・公務員の義務

 当ブログとも親交のある『玄倉川の岸辺』さんが日本の不甲斐ないマスメディアにお怒りです。

鳴らない木鐸

どう考えても変だ。
おかしい、納得できない。
以前からマスコミのニュース価値選定(アジェンダセッティング)能力には疑いを抱いていたけれど、このニュースがほとんど報道されないのは不思議だ。

(後略)

玄倉川の岸辺
http://blog.goo.ne.jp/kurokuragawa/e/e62584ea0bd1e158fd44576295f1206d

 日本のマスメディアの情けないチキン体質という点で全面的に同意いたします。

 どうしたなぜメディアはこの重大な問題を報道しない?

 ・・・



●佐藤参院議員:イラク駐留時に「駆け付け警護」するつもりだった

 この問題に関して数少ない限られた報道をネットからひろいながら時系列にまとめてみましょう。

 まず政府は10日、首相官邸で「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二前駐米大使)の会合を開きます。

 11日付け産経新聞記事から。

「駆けつけ警護」容認が大勢 自衛隊で有識者懇談会

 政府は10日、首相官邸で「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二前駐米大使)の第4回会合を開いた。国連平和維持活動(PKO)などで海外に派遣された自衛隊が、活動をともにする他国軍が攻撃された場合に現場へ移動して応戦する「駆け付け警護」を容認すべきだとの意見が大勢を占めた。

 安倍晋三首相は会合で、「わが国要員が他国と共通の基準を踏まえて活動し、緊密に助け合わなければ各国の信頼を得ることも、効果的な活動をすることもできない」と強調。委員からは「憲法や国連憲章が禁止している武力行使と、PKOや人道復興支援での武器使用は別だ」「仲間を見捨てる形で武器使用を禁じるのでは、国際社会から非難を浴びる」といった意見が相次いだ。

 政府の現行憲法解釈は海外での武力行使を禁止しており、自衛官の武器使用は「自己の管理の下に入った者」などに対する必要最小限の正当防衛や緊急避難措置に限定されている。

 安倍首相は10日、憲法解釈の見直しに関連し、首相官邸で記者団に「政策を進める上で困難な状況になったと覚悟しているが、私が続投するのはあくまでも政策を前に進めていくためだ」と述べ、参院選での自民党大敗後も基本方針に変更はないとの姿勢を示した。

(2007/08/11 01:44)
http://www.sankei.co.jp/seiji/seisaku/070811/ssk070811001.htm

 この会合では「海外に派遣された自衛隊が、活動をともにする他国軍が攻撃された場合に現場へ移動して応戦する「駆け付け警護」を容認すべきだとの意見が大勢を占め」ます。

 これを受けて「ひげの隊長」こと元陸上自衛隊イラク先遣隊長の佐藤正久参院議員が
TBSのニュース番組で、当時イラクで指揮官として「駆け付け警護」を行うつもりだったことを明言し「日本の法律で裁かれるのであれば喜んで裁かれてやろうと」と発言します。

 この佐藤正久参院議員の発言は「違憲、違法なもので、シビリアンコントロールに反する」として、弁護士ら約150人(呼びかけ人代表・中山武敏弁護士)が16日、「違憲」と公開質問状を送る騒動になります。

 17日付け毎日新聞記事から。

佐藤参院議員:イラク駐留時に「駆け付け警護」するつもりだった 弁護士らが質問状

 元陸上自衛隊イラク先遣隊長の佐藤正久参院議員が、派遣先のイラクで他国軍隊が攻撃を受けた場合、駆け付けて援護する「駆け付け警護」を行う考えだったことを表明したことに対し、弁護士ら約150人(呼びかけ人代表・中山武敏弁護士)が16日、「違憲」と公開質問状を送った。

 佐藤氏は10日に放映されたTBSのニュース番組で、当時イラクで指揮官として「駆け付け警護」を行うつもりだったことを明言し、「日本の法律で裁かれるのであれば喜んで裁かれてやろうと」と発言した。「駆け付け警護」は、正当防衛を超えるとして憲法解釈で認められていない。

 質問状は「違憲、違法なもので、シビリアンコントロールに反する」として、7項目について今月中の回答を求め、安倍晋三首相にも佐藤氏に辞職勧告するよう要望書を送った。佐藤氏の事務所は「現場に行って法的不備があると感じての発言。質問状は届いていないが精査する」と話した。【長野宏美】

毎日新聞 2007年8月17日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/feature/news/20070817ddm012010036000c.html

 翌17日の新聞では全国紙がまったくベタ記事扱いの中で、一人共産党機関誌『しんぶん赤旗』だけが解説付きで報道いたします。

2007年8月17日(金)「しんぶん赤旗」

イラク派兵 「駆けつけ警護」発言
市民ら違憲と質問状
佐藤正久・自民参院議員

 元陸上自衛隊イラク先遣隊長でさきの参院選で当選した自民党の佐藤正久議員が、テレビの報道番組でイラク派兵時に事実上の「駆けつけ警護を行う考えだった」と発言した問題で十六日、弁護士や市民グループが「自衛隊法に違反するばかりか、憲法九条をないがしろにするものだ」として同議員と安倍自民党総裁らへの公開質問状と要望書を提出しました。

 佐藤議員の発言は十日のTBS系報道番組で、集団的自衛権に関する政府の有識者懇談会の議論についてコメントしたもの。

 佐藤議員は自衛隊とオランダ軍が近くで活動中に、「オランダ軍が攻撃された場合、何らかの対応をやらなかったら、自衛隊への批判はものすごいと思う」とした上で、「駆けつけ警護」についてこう語りました。

 「情報収集の名目で現場に駆けつけ、あえて巻き込まれる」「巻き込まれない限りは正当防衛・緊急避難の状況は作れませんから。(略)日本の法律で裁かれるのであれば喜んで裁かれる」

 公開質問状は、発言の事実確認、同議員がイラクで予定していた「巻き込まれる」作戦を現在も肯定するのか、「巻き込まれ」は旧日本軍が中国東北地方の占領を開始する口実として実行した柳条湖事件をほうふつさせるが関東軍の暴走をどう評価するのか――の七項目。

 安倍総裁には、同議員の辞職勧告を求めています。

 公開質問状を提出した弁護士、市民グループのよびかけ人を代表して中山武敏弁護士らが同日、参院議員会館で記者会見し、「佐藤議員の発言は中国での関東軍の暴走、戦争拡大の教訓や、(海外での武力行使を禁じる)憲法、自衛隊法からも放置できない危険なもの。弁護士、市民ら百四十四人が賛同、佐藤議員に八月中に回答するよう求めている」と語りました。

解説
問われる防衛相の責任

 「駆けつけ警護」は、安倍自公政権が、歴代政府の憲法解釈として禁じている「集団的自衛権」の行使に向けた「有識者懇談会」で個別事例として検討している四類型の一つで、「PKO(国連平和維持活動)などで、外国部隊が攻撃された際の救出」問題です。

 四類型の検討は、米国の圧力を背景に、明文改憲の前にも、解釈の変更で行使を可能にし、「米国とともに海外で戦争する国づくり」を狙った議論です。

 佐藤氏は、参院選公示日の街頭演説でイラク派兵での体験をまじえ、「集団的自衛権の解釈で(オランダ軍など)友軍が倒れても助けることはできない。法的に問題があるが、仲間はどんなことがあっても助ける」と発言(本紙七月十三日付)してきました。

 今回の佐藤発言は、「有識者懇談会」が「駆けつけ警護」を容認したことを受けて、さらに一歩踏みこんだものです。

 選挙時には「巻き込まれ」作戦にまでは踏みこみませんでしたが、“日本の法律で裁かれる”という違憲・違法であるという認識をもっていた点では同質です。しかも重大なことは、応援にかけつけた小池百合子防衛相が同議員の発言を隣で聞いていた事実です。憲法の順守義務を負う閣僚としてその責任が問われます。(山本眞直)

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-08-17/2007081714_01_0.html

 以来、今日(21日)まで、本件に関して主要マスメディアは沈黙を守ったままであります。

 『玄倉川の岸辺』さんがお怒りのとおり、日本のマスメディアで「このニュースがほとんど報道されないのは不思議」なのであります。

 この発言内容を批判するなり支持するなり論陣を張ることもなく、朝日も産経も本件では無視を決めつけているかのようです。

 産経の無視はまだ理解できます。

 この問題を取り上げる事自体、批判的意見を助長してしまうと考えているのかも知れません。

 では朝日をはじめとした護憲派メディアはどうした?

 なぜ沈黙するのでしょうか。

 ・・・



●佐藤元1佐の「駆け付け警護」発言は人間として正しい〜ライブドアPJニュース

 ネット上では『玄倉川の岸辺』さんのエントリーでも紹介されているとおり護憲派ブロガー達がこの発言に対する批判を展開しています。

 批判派の意見は是非あちらにてご確認下さい。

 さてネットでは批判と同時に発言を擁護するテキストもいくつか起こっています。

 擁護派の代表的意見をライブドアPJニュースから。

佐藤元1佐の「駆け付け警護」発言は人間として正しい
2007年08月18日11時10分

【PJ 2007年08月18日】− 陸上自衛隊の元1等陸佐で参議院議員の佐藤正久氏が、10日に放送されたTBSの報道番組で、隊長として派遣されていたイラクでもし他国の軍隊が攻撃を受けた場合、駆けつけて援護する「駆けつけ警護」を行う考えであったことを明言した。これに対し中山武敏弁護士が呼びかけ人となって弁護士ら約150人が「違憲である」として公開質問状を送った。

 現場の指揮官が本国の意に反して独断で部隊を動かすことは許されることではない。だがそれはあくまで原則論である。たとえば、ある国の派遣部隊がテロリストの襲撃を受けて死傷者が出ていることを知り、自分が指揮する部隊でヘルプできる状況だったら、それでも襲撃を受けている部隊を見殺しに出来るだろうか。

 国内法的には適法かもしれない。しかし人の道を外してまで法を守ることを強いる事はできない。国内法を犯してしまうことは、佐藤議員とて百も承知だったはず。それが「日本の法律で裁かれるのであれば喜んで裁かれてやろうと」という発言につながったのだ。佐藤議員は「人間であること」を選択したに過ぎない。

 現場の指揮官にそこまで悲壮な決意をさせた責任は国民にもある。国の将来を思えば必要な仕事であることは明白なのに、目先の理想論でさんざん邪魔をして結局、武器の使用基準を国内法の基準のまま、すなわち正当防衛と緊急避難に限定したままイラクへ送り出してしまった。

 国外では理想論に過ぎない日本の武器使用基準など、どこの国が理解するだろうか。日本人さえ死ななければ他国民が何人死のうが意に介さず、とにかく国内法を守ったことに満足する身勝手で愚かな民族に成り下がりつつあるわけで、しかもそれを望んでいる人たちがいることに大きな不安を抱かずにはいられない。【了】

パブリック・ジャーナリスト 平藤 清刀【大阪府】
http://news.livedoor.com/article/detail/3272744/

 「現場の指揮官が本国の意に反して独断で部隊を動かすことは許されることではない」としながら「だがそれはあくまで原則論である」としています。

 そして「人の道を外してまで法を守ることを強いる事はできない。国内法を犯してしまうことは、佐藤議員とて百も承知だったはず。それが「日本の法律で裁かれるのであれば喜んで裁かれてやろうと」という発言につながった」のだと佐藤氏の発言を擁護します。

 その上で記事は「現場の指揮官にそこまで悲壮な決意をさせた責任は国民にもある」と指摘、「目先の理想論でさんざん邪魔をして結局、武器の使用基準を国内法の基準のまま、すなわち正当防衛と緊急避難に限定したままイラクへ送り出してしまった」のが問題だったとしています。

 ・・・



●佐藤参院議員「駆け付け警護」発言を批判する

 本件に関する当ブログの立ち位置を明らかにしたいと思います。

 この問題はプチリベラルのナショナリストを自称する私にとってもっとも痛い点を突かれている頭の痛い問題であります。

 私は自衛隊のイラク派遣に一貫して反対してきました(今もです)。

 アメリカのイラク戦争には何ら大儀がなかったという立場からです。

 しかしながらどうせ派遣されたなら派遣自衛隊の諸氏には何の罪もないわけで彼らはしっかりと任務を遂行して我が身を守る自衛手段を講じることは当然であるとも考えてきました。

 上のPJニュースにもあるように、問題は派遣自衛官にあるのではなく「目先の理想論でさんざん邪魔をして結局、武器の使用基準を国内法の基準のまま、すなわち正当防衛と緊急避難に限定したままイラクへ送り出してしまった」この国の為政者側にあると認識しております。

 ですから私個人は「ひげの隊長」には親近感すら持っておりましたし、いまも個人的には何もわだかまりは持ち合わせていません。

 しかし、必要な自衛措置は認めるとして、「駆け付け警護」発言はこれは認めるわけにはいきません。

 当時の日本政府の立場からすれば、「駆け付け警護」はあきらかに現場指揮者としては日本国の立場を無視した越権行為と見なされるからであります。

 現場指揮官が独断で違反してよい内容では断固ありません。

 それはガバナビリティ:被統治能力が何よりも求められる軍事組織としての自衛隊、そして日本のシビリアンコントロール:文民統治による自衛隊に対する国民の信頼の根本を揺さぶりかねないと考えるからであります。

 佐藤氏は当時派遣自衛隊の隊長という要職にありました。

 りっぱな日本国の責任ある公務員であります。

 そして現在はこの国の国会議員であります。

 当然ながらいかなる事態においてもこの国の憲法を尊重し擁護する義務を負っています。

第九十九条

 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

 佐藤氏は、いや派遣自衛隊の隊長という要職にあった佐藤氏は特に遵法行動を何よりも頑なに守らなければならない立場なのであります。

 たとえこの国の為政者達がどんなに現場を無視した法的根拠しか用意していなくても、また、現場にて仲間が襲われるのを見て見ぬ振りをして他国から大顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまったとしても、それがこの国の定める法律に基づく行為ならば、それを遵守しなければいけないのです。

 「悪法も法なり」であります。

 この国の法を尊重し擁護すること。

 それが戦後民主主義国としてそして法治国家してシビリアンコントロールの元で軍隊を管理するこの日本の、公務員の、国会議員の、そして自衛官の、この国を導く立場の者たちのまさに憲法で義務付けられたつとめなのであります。



●法律に不備があれば問題提起してそれぞれの立場で法律の改正努力をすべき

 終戦後の食糧難の時代、その立場からかたくなまでに「法」を守り、ついには自らの命をたってしまった一人の判事がおりました。

山口良忠

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

山口 良忠(やまぐち よしただ、1913年11月16日 - 1947年10月11日)は東京地裁の判事。佐賀県出身。太平洋戦争の終戦後の食糧難の時代に、闇米を拒否して食糧管理法に沿った配給食糧のみを食べ続け、栄養失調で死亡した事で知られる。史料によっては誕生日が1月10日と記されている事もあるが、それは誤りである。


[編集] 来歴・人物
1913年、現在の佐賀県杵島郡白石町に、小学校教師の長男として生まれる。鹿島中学校(旧制)・佐賀高等学校 (旧制)・京都大学を卒業後、高等文官司法科試験に合格し、判事となる。1942年に東京民事裁判所に転任後、1946年10月に東京区裁判所の経済事犯専任判事となる。この部署では、主に闇米等を所持していて食糧管理法違反で逮捕された人物の担当を行なっていた。

食糧管理法違反で逮捕された人々を担当し始め、配給食糧以外に違法である闇米を食べなければ生きていけないのにそれを取り締まる自分が闇米を食べていてはいけないのではないかという思いにより、この時から闇米を拒否するようになる。

山口判事は配給のほとんどを2人の子供に与え、自分は妻と共にほとんど汁だけの粥などをすすって生活した。義理の父親・親戚・友人などがその状況を見かねて食糧を送ったり、食事に招待するなどしたものの、山口判事はそれらも拒否した。自ら畑を耕してイモを栽培したりと栄養状況を改善する努力もしていたが、次第に栄養失調に伴う疾病が身体に現れてきた。しかし、「担当の被告人100人をいつまでも未決でいさせなければならない」と療養する事も拒否した。そして、1947年8月27日に地裁の階段で倒れ、やっと故郷の白石町で療養する事となる。同年10月11日、栄養失調に伴う肺浸潤(初期の肺結核)のため33歳で死去した。

(後略)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E5%8F%A3%E8%89%AF%E5%BF%A0

 山口良忠のこの愚直なほどの遵法行動は、当時からただの美談としてだけでなく、多くの議論を呼んできました。

 賛否ある多様な議論の中でひとつだけ異論のない指摘は、彼はその立場からあくまでも当時の「食糧管理法」という法を守り、その結果自ら栄養失調死することにより当時の「配給食糧以外に違法である闇米を食べなければ生きていけない」現実からあまりにも「食糧管理法」が遊離していた事実を世に知らしめたということでしょう。

 ・・・

 この国の法を尊重し擁護することは全ての国会議員・公務員の義務なのであります。

 法律に不備があれば問題提起してそれぞれの立場で法律の改正努力をすべきです。

 しかし法を犯すことは断じて認められません。

 日本は法治国家なのであります。



 この問題、読者のみなさまはいかがお考えでしょうか。



(木走まさみず)