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料理は基準

2024年12月13日 料理は基準

第19回 料理は構想と実行が分離しない(11月9日筆)

著者: 土井善晴

一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。

 学問と生活が乖離している。栄養士や管理栄養士の免許をもっていても、料理をしたことがなければ、調理者を指導し、食の教育を子どもにするのは無理だろう。

 今は建築家が構想して図面を書いて、施工業者が家を建てる。昔の大工は、図面も引かず、柱の位置だけ決めて家を建て、構想と実行は分離しなかった。

 自然物(生き物)を加工する仕事は、人間の都合が良いようには事が運ばない。考える時間は足らず、身体的に対応するより仕方がない。

 料理は、構想と実行が分離しない。人はなにを作るかを決めて料理する。現代は構想と実行も分離している。構想と実行が一つになる仕事は、家庭料理や個人経営の飲食店にこそ存在する。

 大量に作る学校給食、団体食は、みんな同じものにするのが目的だ。均一に平等に分配するためには、食材を丸ごとすりつぶし固めて焼いて調味料に潜らせるといったことになる。レシピが支配する大勢の団体のための調理なら、構想と実行は分離していると思うかもしれない。

 計量、整形、加熱、冷却は機械でできる。だが、構想とは、実行を知る人間にしかできないものだ。「アーティストは職人の知るところを知らなければならない」とは書家石川九楊の言葉だ。

 昔、ホテルのレストランでは、コンソメスープ、ビーフシチュウ、クリーム煮、チキンソテー、とどこも同じホテル料理を作っていた。これは日本だけではない。誰もが食べたことのある、知っている料理を作るのがホテルだったのだ。 

 近頃は、誰も知らない食べたことのないクリエイティブなシェフの料理を、料理人が作らされる。構想と実行が分離した世界では、人はおいしい料理を作れなくなる。

 

*次回は、12月20日金曜日配信の予定です。

 

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

土井善晴

1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。


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