保育の質をどこで線引きする気なのか

 これなんだけどね。

今の保育園の問題は、「日本の競争力強化の阻害要因」の問題であって「弱者救済の福祉の不備」の問題ではない。 - 蕎麦屋 今の保育園の問題は、「日本の競争力強化の阻害要因」の問題であって「弱者救済の福祉の不備」の問題ではない。 - 蕎麦屋


 このブロガー(「蕎麦屋」)の主張は、どこからか原資を調達してきて認可保育園でなくて、保育所をつくれということにつきる。

  1. 「認可かどうかはどうでもいい」という点と、
  2. 「原資の調達先は保育園に入所している高額所得者に限定」という点に

その主張の特異性がある。



(1)
 認可園に落ちたかどうかが問題じゃないんだ、保育施設が(都内は)満杯なんだ、というのがまずこの「蕎麦屋」の主張としてあるけども、認可かどうか(保育の質)がどうでもいいなら、都の「認可外保育施設指導監督基準」を一気に緩和して、空き教室や都心の廃校や体育館で無資格者を使って数百人を託児すればいい。そこまでいかなくても、今の安倍政権が提案している「緊急の詰め込み」をすればいい(足りなければ足りるまで詰め込む)。



 だがそうなっていないのは、親が保育の質を求めるからだ。今の日本ではその質があるかどうかの線引きは認可かどうかだ(東京都ならそこに認証=準認可かどうかという基準が加わる程度だろう)。保育需要に対して一定の質をもったサプライ(認可園)が足りないというのが起きている事態の本質だ。


 結局保育の質を落としていいのか、落とすならどこまでいいのか、ということについて、この「蕎麦屋」は何も言っていない。そこが肝心なところなのに。都の「認可外保育施設指導監督基準」(つまり今ある東京都の認可外施設一般の基準)さえ満たせばいいのか、やっぱり認可・準認可くらいの基準はほしいねということなのか。それとも質なんかどうでもいい、とにかく需要さえ満たせばいいということなのか。


※補足
 「保育園を考える親の会」は3月28日に安倍政権が出した待機児童緊急対策についての採点を行っている。その中ではいわゆる「詰め込み」対策にはマイナスの厳しい評価をつきつけている。条件緩和しただけの認可外の認可化などは園庭がなくなるなどの理由でこちらもマイナス。「認可外でまったくオッケー」というのは「保育園落ちた!」という叫びの中には含まれていないことがわかる。むしろ一定の質を求めているのだ。


出典: http://www.eqg.org/oyanokai/opinion_160406kinkyu_saitenhyo.pdf



 基準を落として押し込めば原理的には簡単に解決する。このブロガーはそのことに何もこたえず、“認可がどうかは問題ではない”と決めつけているのは、問題をあいまいにしているだけでしかない。ブコメで「わかりやすい」「整理されている」などというのが並んでいるのにびっくりするわ。


 ぼくは保育は託児ではないのだから、認可水準のものが必要だというのが意見である。そのために国と自治体が金をかけて必要な数の認可園をつくるべきであると考える。そもそも今の児童福祉法は「保育を必要とする場合において、…当該児童を保育所…において保育しなければならない」(24条)とあるからだ(ここでいう「保育所」とは認可保育園のことである)。



(2)
 「蕎麦屋」の呼びかけている「解決策」というのは、保育園入所世帯のうち「高額所得者」から累進的な保育料をとって、それを原資にして保育所をつくれというものだ。もちろんすでに保育料は現在応能負担(ある程度累進性がある)になっている。つくられる保育施設の質の問題をおいておくとして、ふんだくる相手を「保育園に入所している高額所得者に限定」することは正しいのか。


 戦後児童福祉法ができるとき、保育園はそれまで「救貧対策」としての生活困窮者だけの託児所・児童保護事業ではなくなった(厚生省児童家庭局編『児童福祉三十年の歩み」)。「保育に欠ける子ども」であれば所得に関係なく誰でも保育園に入れることになり、その構造は今でも変わっていない。


 保育料が応能負担になっているのは、高所得者まで無料サービスにするのはおかしいので、という別の理由からである(一見ここでぼくの言っていることは「蕎麦屋」と同じことを言っているように見えるが、いったん低所得者対策であることを否定した上で高額所得者から負担金をとるという考えだから、違うのである)。


 わかりやすく言い直そう。保育(しかもその保育というのは単なる託児ではなく一定の質をもった保育である)を受けられない子がでないようにするのは、金持ちだろうと貧乏人だろうと関係なく、それは市町村というか公が責任を持つことである。だけど少し負担してね。その際は、お金持ちは多めに出してね。こういうことだ。


 このブロガーが「今の保育園の問題は、『日本の競争力強化の阻害要因』の問題であって『弱者救済の福祉の不備』の問題ではない。」と主張するなら、これは社会の経済的基盤を整備するという問題なのだから、全社会的な問題である。一部の利用者だけの問題ではない。となれば受益者負担金である保育料に保育施設(しかも民間の認可外施設)の整備費用の原資を求めるのは筋が通らず、一般の税金から出すべきである。そしてその税金のとり方が応能原則になっていればよい。もしくは法人税*1。


 つまり、ぼくが言いたいことをまとめると、税金で認可園をもっとつくるべきだってこと。

*1:30万人の定数の認可園は約6000億円程度で整備できる。新年度の法人税減税(32.11→31.33%)で0.4兆円、今国会法案提出の法人税減税(31.33→29.74%)で0.8兆円、計1.2兆円(年)を中止する。