藤本健のソーラーリポート

「動く蓄電池」として日産サクラを買った 電気を買わない生活は叶う?

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
購入した日産サクラとV2Hシステムで、夢の生活は叶うのか!?

いまポータブル電源が流行っているが、せっかくなら家を丸ごとバックアップできる家庭用蓄電池を導入したい。そうした蓄電池と太陽光発電をセットで利用できれば、電力会社に頼らなくても生きていけるのでは……とちょっと夢も膨らんでいた。

ただ、据え置きの蓄電池は何百万円もするものが多く、簡単には導入できないのも事実。一方で、電気自動車(EV)を蓄電池として活用する「V2H」という方法があり、以前から気になっていた。そうした中、2022年に日産から軽自動車タイプのEV「サクラ」が登場したことで状況が大きく変わった。これを使えば、家庭用蓄電池よりも安く導入できそうなのだ。まさにそれを実践すべく、クルマとしてというより“蓄電池用途”でサクラを購入してみた。実例を聞くことが少なく情報もまだ多くないだけに、右往左往しながら使っているが、その実情をレポートしていく。

クルマを「動く蓄電池」にすると安上がり?

ここしばらく本連載が止まっていたが、筆者の横浜にある自宅の屋根には18年前の新築時に搭載した太陽電池が載っており、いまもその電気を使って暮らしている。

2005年に取り付けた太陽光発電パネル。屋根の右に見えるのは太陽熱温水器

導入当初は電気を買う単価と売る単価が同じと設定されていて、それなりに納得して使っていたが、世の中の脱炭素化の動きに押されて、いつのまにか売電単価が大きく上がるFITという制度が登場。ある意味ボーナス的に余った電力を売電することができたが、それも10年で終了し、2019年からは1kWhあたり8.5円という激安で電力会社に売電する形になっている。

一方で、円安やエネルギー価格の高騰から電気代が爆上げになっているのはご存じのとおり。その状況で、ほとんどタダのような値段で売電しなくてはならないのはもったいない限り。やはり作った電気を売らずに自家利用する方法を模索するようになったのだ。

とはいえ、家庭用蓄電池はなぜか、かなり高価だ。工事費まで入れた正確な値段はわかりにくいが、200~300万円以上は軽くかかってしまうため、さすがに躊躇してしまった。以前、記事にしたテスラのパワーウォールはかなりリーズナブルでよさそうだけど、なんとなく融通が利かなそうな印象があって見送っていた。

そんな中、以前から気になっていたのがV2Hの存在。V2HとはVehicle to Homeの略で、要はクルマから家に電気を送る仕組み。2015年にこの連載でV2Hを記事にしたときは、まだ夢のような話というイメージだったけれど、着実に進化してきているようではあった。そうした中、昨年5月に日産からサクラが発表された。これは233万3,100円~という価格で(2022年末に値上げとなり、記事執筆現在は249万3,700円~)、一番下のグレードでも容量は同じ20kWh。「もしかして、これは時代がやってきたのかも!?」と思ったのだ。

筆者自身、普段そんなにクルマに乗るわけでもないし、いわゆるクルマ好きというわけでもないけれど、家族も運転するため、遠出用と近所使いという意味で2台のガソリン車は持っていた。最近、家庭の事情でクルマの買い替えなどをしたタイミングではあったが、「いつかはEV」というなんとなくの思いはあり、EVならV2Hができる、というイメージがあったが、まさにそのためのクルマが登場した、という思いだった。

普段、よく徒歩1時間くらいかけて横浜~みなとみらい近辺まで散歩に出る。ちょうど、サクラが発売される直前のタイミングで日産本社のそばを通ったので、ふと本社ショールームに寄ってみたところ、サクラが展示されていた。ショールーム内で乗ってみると、軽自動車の割に中も広く、クルマとしてもよさそう。話を聞くと、かなり予約が殺到しているということだったので、家の近所のディーラーを教えてもらい、後日見積などを取りに行ってみることにしたのだ。

日産本社ショールームに展示されていたサクラ

さっそくディーラーへ。でもまだわかっている人が少ない?

1~2週間後、頭の中はすでに「サクラをV2Hでバッテリーとして使う」という思いがいっぱいで、特にアポイントもとらず近所のディーラーにふらっと寄ってみた。若い担当者さんが付いてくれて、ちょうど試乗車が入ったところだということで、すぐに試乗もさせてもらった。運転してみると、普通にガソリン車に乗るのと変わらない操作性で、モード変更するとゴーカートのような動きをするのも面白いところ。また、想像していた以上にパワーもあり、加速性も優れていて、クルマとしても結構よさそうと感じていた。

ただ、その担当さんに「V2Hとして使いたい!」と話すと、ちょっとキョトンとした反応。もちろんV2Hという言葉は知っていたし、すでにリーフなどで実績はあったようだが、まだレアケースのようで、詳しいことは知らない様子だった。詳細については、ディーラー本社の電気自動車スーパーバイザーを後日呼ぶので、改めて来店してほしいといわれ、10日ほどして改めてディーラーに行ってみた。

話をしてみると、「V2Hのシステムはニチコン製のものが主流でそれを推奨していて、提携している業者がいるので、そこを紹介する」、「ニチコンのV2Hもスタンダードモデルとプレミアムモデルがあり、機能差がある」、「今なら補助金もあるので、かなり安く導入できる」といった説明を受けるとともに、パンフレットなどをもらった。金額的にいうとスタンダードモデルが工事費別で498,000円で、プレミアムモデルは798,000円と30万円の差はあるが、機能・性能的にスタンダードモデルはかなり貧弱で200V出力に対応していなかったり、停電時に太陽光からの充電ができないなど、思い描いていることが実現できそうにないので、プレミアムモデル一択と判断した。

ディーラーからもらったV2Hのパンフレット
内容を見て、プレミアムモデルを選んだ

一番気になっていたのは、充電において太陽光からの余剰電力だけを使うことができるかという点だったが、そのスーパーバイザーに聞いてみてもよくわからない状況。そのスーパーバイザーが本社に電話をして確認もしてくれたが、答えは「できない」と。そんなわけはないだろうと思いつつ、いったんはそれで終了。帰宅後に改めてネットで情報を調べてみると、どう考えても太陽光の余剰電力だけでの充電が可能そうではあったので、スーパーバイザーさんの知識不足、ということで自己解決。後日正式契約をすることになった。

ちなみに、バッテリーとして買うのだから、車体は一番下のグレードでいいと思っていたが、いろいろと説明を受けるうちに、多少は乗ることもあるだろうから……と、いろいろと欲しいスペックなども出てきてしまい結局、真ん中のXというグレードにいくつかのオプションも付け、最終的な価格は305万円。思っていたよりちょっと高くなってしまったが、「まあ、よし」ということで決めた。

ついに納車へ。意外に時間がかかったのは……

契約に行ったのは7月11日と、サクラが発売されてから1カ月弱したタイミング。しかし発表直後から予約殺到と言っていただけに、年内納車は厳しいだろうということだった。まあ年度内くらいには来るだろうと、気長に待つことにした。

その一方でV2Hのシステムは日産のディーラーから買うのではなく、紹介してもらう業者と契約する形で、まずはウチを下見してもらい、本当に工事できるかの確認が必要とのこと。後日に来てもらったところ、問題ないということで、そちらも契約が決まった。価格的には先ほどの798,000円の定価であり、それに付属品や工事費などを入れて112万円ちょうど。

ちなみに、その業者が下見に来てくれた際に、太陽光からの余剰電力だけで充電できるのかを聞いてみたところ、もちろんOKとの返事が得られて安心したのだった。

そんなわけで、結果として全体金額は305万円+112万円=417万円。これはさすがに普通に蓄電池を買うのとあまり変わらないのでは? とはなったものの、クルマ本体に55万円の国からの補助金。さらに、V2Hには国から68万7,000円、さらに神奈川県からも25万円の補助金が得られるということで、トータルでは303万3,000円。「イザとなれば走らせることもできるわけだし」と納得して、しばらく待つことにした。

ところが……、サクラ本体がなかなか納車できない話は聞いていたけれど、実はそれより物不足が深刻だったのがニチコンのV2Hのほう。秋になってもまったくメドが立っていないという。そうした中、11月中旬に日産ディーラーから電話があり、「思ったより早くサクラ納車できそうです」とのこと。12月にはモノがあるとのことだったが、こちらはクルマとして必要なのではなく、あくまでも蓄電池としてほしいので、V2Hのシステムがないことには話にならない。

もちろん、そのことは担当さんも承知していて、「やっぱりサクラだけ納車というのは無理ですよね。簡易的な充電設備だけ追加で入れてというのはどうですか?」との提案があったが、こちらは充電より放電が重要だから、残念ながら、V2Hとセットじゃないと無理、と返したのだった。結局、クルマはディーラーのカープールでナンバープレートをつけないまま寝かせておくことに。その担当さんの売り上げにもならないので申し訳ないとは思いつつも、そうさせてもらった。

翌年になっても、年度が明けてもメドが立たない中、4月にアメリカへ取材出張している際に、担当さんから着信が。折り返してみると、いよいよV2Hのほうが動き出したので、補助金の申請書類などを書いてほしいとの話。帰国後、そうした書類を何往復かした結果、ようやく納品のメドがつき、8月末に工事することになった。

当日は、工事の担当者さんが一人で朝10時にやってきて、黙々と作業。家の中の配電盤とかをいじるのかと思っていたが、そうしたことも不要だったようで、ちょうど車庫の外にある東京電力のスマートメーターのところから車庫内に配線をいくつか回していた。

工事当日の様子
家のスマートメーターから車庫内に配線を回していた

そして、車庫内にニチコンのV2Hパワーステーションを設置。壁にはスイッチボックスを取り付け、その中に、ブレーカーや切り替えスイッチ、Wi-Fi通信ユニットなどを入れる形となった。

ニチコンのV2Hパワーステーション
壁に設置したスイッチボックス

工事は15時過ぎに終わったので、5時間程度の作業とはなったが無事に完了。サクラとの接続にもピッタリの位置とのことで、いよいよカープールで9か月眠っていたサクラをお迎えする準備が整ったわけだが、実は家族の引っ越しなどの都合で、どうしても9月いっぱい別のクルマを置いておかなくてはならない事態が発生。日産ディーラーの担当さんにお願いして、もう1カ月だけ納車を待ってほしい旨を伝え、10月2日納車ということになったのだ。

工事が完了!

工事は完了するも、予想外の現象が

サクラの存在を知ってから1年5カ月、契約を決めてからは1年3カ月という長い期間はかかったものの、いよいよ納車。これで待ちに待ったV2Hによる生活がスタートすることになる。ちなみに昨今のインフレの折、サクラもV2Hシステムも途中で値上げになっていたが、幸いなことに当初の見積もり通りの金額で購入することができたのは正直ホッとしたところでもあった。

10月2日の朝、ディーラーに行くと、ちゃんとナンバーも取れたサクラが待ち構えていた。乗ってみると、バッテリーは満充電の状態にあった。ガソリン車を買う場合、たいていタンクはほぼ空で、まずガソリンスタンドに行かなくちゃならないのが常だが、20kWhがフルに入っているので、スペック上はこれで180km走れる形。ウチまでは5~6kmだから、ほとんど電気を使わずに帰宅できて、この電気だけで数日分の電気が利用できるのではと皮算用。

ようやくサクラをディーラーで受け取った

当日の天気はくもりだったのであまり太陽光発電は期待できないけれど、秋はエアコンも使わないし、かなり省電力生活を送っているので、10月なら1日の消費電力は10kWhもいかないはず。多少晴れてくれれば3日近くは持つかもしれない、なんて思いながら自宅に戻った。

20kWhで180km走れるから1kWhで9km走れるという計算。自宅まで5km程度なので2~3%程度の消費で家に着くはずが6%程度消費となっていた。まあそんなものだろうと、いよいよV2H接続を行なった。

これは最近撮影したもので、当日の写真ではないが、スピードメーターが表示される液晶パネル左下に現在のバッテリー容量と、あと何km走れるかが表示される
自宅でV2H接続

ニチコンのEVパワーステーションの放電スイッチを押すとクルマから家への放電がスタート。その時点では、まだスマホアプリの使い方などを理解していなかったが、とりあえず問題なく放電がスタートし、東京電力からの電力供給なしに、電気を使える生活がはじまった。

サクラから家へ放電

ところが……その夢のような電気生活も、簡単ではないようだった。なんと翌朝には、サクラのバッテリーがほぼ空になってしまっていたのである。もっとも完全な空になるわけではなく、V2H側で10%を切ると放電ストップになる仕様になっている。そのため10%は残っているが、これ以上放電できない状態だった。でも19kWh程度はあったはずなので、明らかにおかしい。ちょっと気が大きくなって、電気を普段より多めに使ったような気はするけれど、絶対に10kWhを超すほどの電気は使っていないはずなのに。

なぜ、こんな現象が起きたのか。どうすれば解決するのか、そこからV2Hを探求する生活がスタートしたのだった。

(次回へ続く)

藤本 健