コラム:「ドローン戦」全盛、最新鋭ハイテク兵器もすぐに時代遅れに

コラム:「ドローン戦」全盛、最新鋭ハイテク兵器もすぐに時代遅れに
4月18日、最も高度な防空網でさえ突破する能力を備えた米空軍の第6世代戦略爆撃機「B21レイダー(Raider)」は、地球上で最先端の軍用機と言えるかもしれない。写真は16日、イスラエル軍が死海から回収した、イランの弾道ミサイルとされる残がい。イスラエル南部ジュリスの基地で撮影(2024年 ロイター/Amir Cohen)
[ロンドン 18日 ロイター] - 最も高度な防空網でさえ突破する能力を備えた米空軍の第6世代戦略爆撃機「B21レイダー(Raider)」は、地球上で最先端の軍用機と言えるかもしれない。
だが米国防総省では、2030年代に初期発注分100機の生産が完了する頃には、すでに同機も時代遅れになっている可能性があると考えている。
16日に米上院軍事委員会で証言したオールビン空軍参謀長は、レイダーが「爆撃機部隊の未来」であることに変わりはないとしつつ、2030年代中頃までには別の技術的進歩が生じると予想しており、「それ以降も戦力の基盤として(レイダーに)コミットする前に」、米軍はそれらを理解しておく必要があるだろう、と述べた。
大国間の競争が激化し、毎年のように新世代のドローンとミサイルが投入されている状況で、別の領域での進歩によって時代遅れになるリスクに直面している最先端の兵器システムは、B21だけではない。 
米陸軍は2月、新型偵察用ヘリコプターの導入を目指す将来型攻撃偵察機構想について、すでに20億ドル(3088億円)を投じたにもかかわらず、これを断念すると発表した。「現代の戦争に対する冷静な評価」の結果、ドローンでも要件を満たせる可能性が高い、との結論だった。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は先月、米空軍が人工知能(AI)を装備した無人機1000機からなる「ウィングメン」ジェット戦闘機を今後5年間で導入する計画だと報じた。第5世代の戦闘機F35を主力とする有人機と平行して運用される。
これによって、1人のパイロットが少数の無人機編隊を指揮できるようになる。コストが有人ジェット戦闘機の約3分の1になるだけでなく、パイロットの訓練費用も削減できる。無人機は米空軍が2000年代初頭から進めてきた「協調戦闘機(CCA)」プログラムの成果となる。
だが、新たなドローンと既存の航空機を、急速に変化する2020年代の戦場で通用するレベルで維持することはますます困難になりつつある。
イランが先週末に仕掛けたドローンとミサイルによる対イスラエル攻撃では、最新鋭の防衛システムがその能力を存分に発揮した。
一方、ウクライナの戦場では、2022年2月にロシアが侵攻を開始した当初はトルコ製の攻撃用ドローン「バイラクタル」などのシステムが戦場における切り札だったが、双方がより進化した防空システムを投入したことで時代遅れになっている例も多い。
米シンクタンクの戦略国際問題研究所における討論に参加した英陸軍のサンダース参謀総長によると、ウクライナ軍が先日実施した攻撃では、ウクライナ側が投入したドローンの80%が作戦中に失われた。主としてロシア側の電子戦能力の向上が原因だという。
とはいえ、ロシアとウクライナはドローンやミサイル、そして広域防空システムを動員して、ハイテク戦の応酬を続けている。新たなハイテクシステムを使って防空網をかいくぐる一方で、どんな防空網でも圧倒できるようドローンやミサイルによる飽和攻撃をしかける、という応酬だ。
先週末のイランによる対イスラエル攻撃は概ね失敗に終わっており、こうしたアプローチに限界があることを示している。
もっともイスラエルは、「アイアンドーム」「アロー」「ダビデ・スリング」と呼ばれるシステムによる、世界でも有数の防空体制を備えた国であり、しかも明け方の数時間には、イスラエルや米国、フランス、ヨルダンのジェット戦闘機が比較的スピードの遅いイラン製ドローン「シャヒード」を迎撃できた。
シリアに配備されたロシアのレーダーがこうした迎撃状況を追尾しているのはほぼ確実で、得られた情報をロシア軍司令官とイラン政府に提供している可能性が高い。
ウクライナでの紛争では、ロシア、ウクライナ双方において、発電所や製油所、空軍基地といった重要インフラの一部が攻撃に対して脆弱(ぜいじゃく)であることが度々示された。イスラエル並みの防空体制は実現できない、国土面積がはるかに広い国ではなおさらのことだ。
またウクライナの紛争では、空中発射巡航ミサイルの有効性が示された。自国の領空内から隣国に対して発射でき、技術の進歩に合わせて、改良された新型を導入することも比較的容易だ。
逆説的ではあるが、空中発射巡航ミサイルは、非常に旧式の機体にも新たな生命を与える可能性がある。米国は初飛行が1950年代というB52爆撃機部隊を1世紀をはるかに超えて運用し続ける予定であり、ロシアも旧式のプロペラ駆動の「ベア」爆撃機に大きく依存するが、いずれも長射程の巡航ミサイルを発射でき、最新式のドローンを搭載するよう改造することもできる。
こうした空中発射巡航ミサイルや最新鋭のドローンの大量運用が、今後ますます勝利への鍵になってくると思われる。
ウクライナは2024年に100万機以上のドローンを国内で製造する予定であり、国内製造能力のさらなる倍増を図るとともに、国外での生産拡大に向けて、ラトビアを含む欧州の複数国による「ドローン連合」と協力しているという。
一方、米国防総省は昨年、無人機の「レプリケーター」計画を発表した。対中国を念頭に、紛争全般に向けて、最先端であっても相対的には低コストのドローンを大量生産する能力を確保する構想で、特に中国側の巨大な工業生産力に対抗することを狙っている。
米国の当局者は中国が2027年までに台湾に侵攻する準備を整える可能性があると述べているが、その台湾もドローンに重点的な投資を行っている。
英国防情報参謀部によれば、ウクライナ側の圧倒的な物量によるドローン攻撃は時にロシア側の防空体制を圧倒しているようであり、ロシア側ではいわゆる「友軍誤射」により自軍の機体を撃墜してしまう例もあるという。一方でウクライナ国内の都市は、防空網の不備により、攻撃に対して非常に脆弱なままだ。
最前線では、ドローンを使った戦闘は今や日常であり、従来型の砲撃戦よりも多くの犠牲を生じている可能性がある。砲撃戦の大半も、今ではドローンによる情報や映像を利用して照準を定めている。
ウクライナの戦場では、ドローンの自爆攻撃に備えるために簡素な「ケージ(鳥かご)」防御を施したロシア軍戦車が目撃されており、数は少ないもののウクライナ側でも同様の例が見られている。効果が得られなかった例もあるものの、前線からの最近の映像によれば、少なくとも2台のロシアの戦車が防御力を増すために波型鉄板のようなもので完全に覆われていた。
主砲の砲身だけが露出した状態で戦場を移動する戦車は、21世紀の戦場にふさわしいものというよりは、むしろ中世の攻城兵器や第1次世界大戦当時の戦車のように見える。
だが少なくとも1本の動画には、こうした即席装甲がなければ致命傷になったはずの攻撃に耐えきった戦車が撮影されていた。
こうした安上がりな防御が有効であったとしても、テクノロジーと兵器システムがそれを克服するのは時間の問題だろう。ウクライナが実証しているように、大規模な現代戦に勝利する、あるいは少なくともそれに耐え抜くには、依然として多くの兵士と強大な火力が必要である。とはいえ最近の紛争は今まさに、ここ数十年に見られなかった規模の軍事的なイノベーションをけん引している。
軍事予算が拡大する中で、さまざまな試行錯誤の可能性が開かれている。それと同時に、誤った選択がなされた場合に、膨大な金額が無駄に費やされてしまう可能性もある。
※ピーター・アップス氏は安全保障や防衛力問題などを専門とするロイターのコラムニスト。非政府・中立のシンクタンク、プロジェクト・フォー・スタディ・オブ・トウェンティーファースト・センチュリー(PS21)の創設者。2003年にロイター記者となり、アフリカ南部やスリランカ、世界の国防問題などについて取材した。2016年以降、英労働党の活動家であり、英陸軍予備役に在籍している。
(本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
(翻訳:エァクレーレン)

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