焦点:「戦争」に消極的なヒズボラ、レバノンの経済破綻が重荷

焦点:「戦争」に消極的なヒズボラ、レバノンの経済破綻が重荷
 10月27日、イスラエルと敵対するイスラム教シーア派組織ヒズボラを抱えるレバノンは、4年前の金融危機以来、経済が破綻し、国家が崩壊状態に陥っている。写真は26日、レバノンとの国境付近で演習に参加するイスラエル部隊の戦車(2023年 ロイター/Lisi Niesner)
[ベイルート 27日 ロイター] - イスラエルと敵対するイスラム教シーア派組織ヒズボラを抱えるレバノンは、4年前の金融危機以来、経済が破綻し、国家が崩壊状態に陥っている。このためヒズボラとイスラエルが戦争状態に陥れば、持ちこたえることは不可能だ。
関係筋によると、イランの影響下にあるヒズボラはこうしたレバノンの危機的状況を承知しており、この点を念頭に置きつつ、対イスラエル戦における次の一手を練っている。
ヒズボラの盟友ハマスとイスラエルとの戦争の波紋が中東全域に広がる中、ヒズボラとイスラエルが戦争に陥るリスクは2006年の前回の大規模な紛争以降、最も高い状態が続く。
中東情勢に詳しい専門家によると、レバノンから200キロの位置にあるガザ地区でハマスが窮地に陥った場合、ヒズボラが動きをエスカレートさせる可能性があり、レバノンの指導者はイスラエルがヒズボラとの大規模な紛争に突入するのではないかと不安を抱いている。
イスラエルはヒズボラに対し、ヒズボラが戦線を開けばレバノンに「壊滅的な打撃 」を与えると警告している。既に1975─90年の内戦以来、最も不安定な局面にあるレバノンにとって、いかなる戦争も大きな代償を伴う。
ヒズボラの内情に詳しい関係筋は「ヒズボラは戦争に熱心ではないし、レバノンもそうだ」と明かした。レバノンからは既に数千人が国外に脱出しており、ヒズボラはこれ以上の国土の破壊や国民の流出を望んでいない。
レバノンは財源が枯渇しており、復興費用を誰が負担するのかも疑問だ。レバノンにおけるヒズボラの影響力の大きさを考えると、06年に復興資金を提供したスンニ派の湾岸アラブ諸国が今回も急ぎ支援に動くかどうか疑わしいとの声もある。
関係筋によると、ハマスとイスラエルの戦闘開始以来、27日までにヒズボラの戦闘員47人が死亡しているが、それでも国境付近での衝突は今のところ大規模戦闘へのエスカレートを避けるように調整されている。
ただ、ヒズボラはイスラエルと米国に対抗するイランの支援を受けたグループの急先鋒としての立場を背景に、戦争に乗り出す用意があることも表明している。
レバノンの政治家は、ヒズボラに戦闘を激化しないよう働き掛けているが、ほぼ影響力はない。
<代償払わせる>
イスラエルのヘルツォグ大統領は、イスラエルは北部国境での対立を望んでいないが「ヒズボラがわれわれを戦争に引きずり込めば、レバノンがその代償を払うことになるのは明白だ」とくぎを刺した。
ヒズボラと関係の深いキリスト教政治家スレイマン・フランギエ氏は25日、ヒズボラは戦争を望んでいないと述べ、もし、望んでいたならハマスがイスラエルを奇襲した7日にイスラエルを襲撃していたはずだとした。
あるレバノン高官は、複数の国の政府が緊張を和らげるためにレバノンに接触してきたと語った。そうした政府には「われわれにヒズボラを抑えろと言う代わりに、イスラエルにエスカレートを避けるなと圧力をかけるべきだと伝えている」という。
レバノンは独立以来、安定した時期がほとんどない。1978年と82年のイスラエルによる侵攻など戦争に耐えてきた同国にとって、この数年は特に困難な時期だった。
数十年にわたる与党政治家の汚職と政策ミスにより、2019年には金融システムが崩壊。外貨準備が払底し、通貨は暴落、貧困に拍車がかかった。
さらに翌年、首都ベイルートの港湾で起きた化学薬品の大爆発で壊滅的な被害が発生した。ヒズボラがこの事件を巡る捜査を妨害し、緊張状態が激しい暴力につながった。
国家はかろうじて機能しているが、派閥争いのため大統領は不在で、完全な権限を備えた行政機構もない。地元紙アンナハルのナビル・ブーモンセフ副編集長は、レバノンには危機を管理できる政府がないと指摘。「本当に恐ろしいシナリオに直面することになる。インフラが破壊され、経済回復の見通しが立たなくなる」と戦争拡大に懸念を示した。
2006年、ヒズボラがイスラエル兵2人を拉致したことに端を発する戦争では復興に何年も要した。この戦争の後、ヒズボラの指導者であるサイエド・ハッサン・ナスララ氏は、ヒズボラは戦争を予期しておらず、もし、このような紛争につながると知っていたら作戦を実行しなかっただろうと述懐した。
<ヒズボラが主導権>
それから17年、ヒズボラの攻撃力は大幅に拡充され、レバノン国内でのパワーバランスはヒズボラ有利な形で固定されている。
強硬な反ヒズボラ政党、レバノン軍団党のガッサン・ハスバニ氏は「ヒズボラが主導権を握っている。全く容認できない」と述べた。「レバノンがヒズボラによって破壊的な対立に引きずり込まれることに深刻な懸念がある。社会的・経済的状況は脆弱で、これ以上、不安定な状態が続くことには耐えられない」と述べた。
カーネギー中東センターのモハナド・ハゲ・アリ氏は、ヒズボラは戦争後に復興資金が調達できるか否かを真剣に考えるだろうと予測する。湾岸アラブ諸国が支援に動くか、イランがどれだけの資金を提供できるかなど、疑問があるからだ。
「復興しなければ、ヒズボラは間違いなく政治的な代償を払わされる。そうなれば人々は疑問を口にし、怒りが広がるだろう」と同氏は語った。

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