焦点:アベノミクスは日本救うか、実体経済への波及に正念場

焦点:アベノミクスは日本救うか、実体経済への波及に正念場
4月12日、アベノミクスがもたらす恩恵に関する議論は、奇跡のダイエット方法や命を救う新薬についての議論に非常によく似ている。本物かどうか懐疑的な人は多いが、その効果に興味がないという人はほとんどいない。写真は1日、都内で撮影(2013年 ロイター/Toru Hanai)
[東京 12日 ロイター] 安倍晋三首相が進める経済政策「アベノミクス」。それがもたらす恩恵に関する議論は、奇跡のダイエット方法や命を救う新薬についての議論に非常によく似ている。本物かどうか懐疑的な人は多いが、その効果に興味がないという人はほとんどいない。
日本経済が強さを取り戻すことは世界の経済成長に寄与し、高齢化や負債膨張など日本が抱える問題の対応にもつながるため、多くの人がアベノミクスを好意的に解釈することに不思議はない。言い換えれば「疑わしきは罰せず」ということだろう。
今のところ、安倍首相が打ち出した「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」という3本の矢は、日経平均株価を約5年ぶりの高値に押し上げ、内閣支持率70%の原動力にもなっている。
ただ、たとえアベノミクスが経済活動に望み通りの効果をもたらすと確信したくても、日本では過去20年間、雇用環境の改善や賃金上昇、持続的成長が実現しなかったのも事実だ。
アベノミクスにとって最初の大きな山場は、政府が6月に成長戦略を発表するときに訪れるだろう。そこで示される改革案が、金融緩和や円安、株高による資産効果などの好循環を持続させることができるかが焦点となる。
企業経営陣や投資家は、安倍政権が既得権益にどこまで切り込めるか、投資や成長への障壁をどこまで切る崩せるかに注目するだろう。
経済同友会の長谷川閑史代表幹事(武田薬品工業社長)は、最近行われた日本外国特派員協会での講演で、「安倍政権の本当の苦しい戦いは今から始まる」と述べた。長谷川氏は、政府の産業競争力会議で民間議員を務める。
<一部には明るい兆し>
安倍首相は先月、環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加を表明。TPP参加は輸出促進だけでなく、日本国内の市場開放のきっかけになるともみられている。
また今月に入って政府は、電力小売りの全面自由化や発送電分離などの一連の電力改革を実施するための電気事業法改正案を閣議決定。これは、地域独占の電力会社の分社化や市場の競争促進に向けた最初のステップとなる。
年央にも出される予定の中期財政計画では、安倍政権の財政健全化への本気度が問われ、2014年4月から予定されている消費税率の引き上げが計画通り実施されるのかを占うことになる。
アベノミクスは原則として、投資家や企業、消費者の期待の変化が、実体経済に波及することへの大きな賭けと言える。
期待の変化はすでに景況感調査や金融市場には表れているが、実体経済への波及という点で注目すべき動向の1つは企業の設備投資だ。潤沢な現預金を保有する日本企業に余剰生産能力があることを考えれば、企業がさらなる投資や借り入れに動くまっとうな理由は見当たらない。
実際、3月日銀短観では、大企業の業況判断こそ製造業・非製造業ともに3四半期ぶりに改善したが、大企業・全産業の2013年度の設備投資計画は前年比2.0%減とマイナスだった。
<物価と賃金>
政府にとってもう1つの頭痛の種は、円安とインフレ期待の変化により、賃金が上昇し始める前に物価が上がり、結果として家計を圧迫し、経済成長が阻害されるというシナリオだ。
ある政府当局者はロイターに対し、賃金上昇は円安による物価上昇からは遅れるので、それが大きな社会問題になる可能性に「注意を払う必要がある」と述べている。
株高による資産効果は、すでに高額品を中心に顕在化し始めている。しかし、経済産業省が先に発表した2月の小売業販売額(全店ベース)は前年比2.3%減となり、2カ月連続でマイナスとなった。
ファーストリテイリング<9983.T>は今月、国内ユニクロの3月既存店売上高が前年比23.1%増になったことを明らかにしたが、ユニクロ事業の通期の営業利益予想は据え置いた。 柳井正会長兼社長は会見で、「消費者に購買意欲が以前に比べかなり出てきた」とし、政権交代後に景況感がよくなったとの認識を示したが、「続くかどうかはわからない」と持続性については懸念も示した。
失われた20年を経験した日本では、平均的「サラリーマン」が自分たちの給料が再び上がると確信できるようになるまで、消費者心理の真の改善は訪れないのかもしれない。
日銀が1日発表した3月の「生活意識に関するアンケート調査」では、物価上昇を見込む人の割合が大きく増加し、収入増加を見込む人の割合も増えたが、収入の上昇が物価上昇についていくと考える人は9.5%にとどまった。
来月から本格化する企業の2013年1─3月期決算発表も、輸出産業が円安のメリットをどれだけ享受できているかを計る試金石となる。
安倍首相は業績の回復した企業から賃金を引き上げるよう要請しているが、企業は業績の持続的改善が確認できない限り、それに応じるのは難しい。夏のボーナスが1つの手掛かりとなりそうだが、野村証券金融研究所の木下智夫チーフエコノミストは、給料が上昇し始めるには2年かかる可能性があると指摘する。
大胆な金融緩和に踏み出した黒田日銀が目指すのはデフレ脱却だが、エコノミストの多くや一部の日銀審議委員さえ、2年以内の物価目標2%達成には懐疑的なのが現実だ。
機関投資家向けにリスク管理サービスなどを提供するサンガードAPTのリサーチ部門責任者、ローレンス・ウォーマルド氏は、顧客の多くは、日本が「やるべき実験」をやり抜くまで忍耐強く待つ準備ができているようだと語る。ただ「問題は、アベノミクスが消費拡大や建設業など特定セクターへの恩恵で終わらず、日本経済の競争力強化につながるかどうかだ。競争力の低下、それが心配だ」と述べている。
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