焦点:海洋領有問題が世界中で再燃、尖閣は最もハイリスク

焦点:海洋領有問題が世界中で再燃、尖閣は最もハイリスク
10月1日、尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐり日中間の緊張が高まっているが、資源獲得や影響力拡大を狙った領有権争いは世界各地で再燃しつつある。写真は9月、尖閣周辺海域に向かう台湾の漁船(2012年 ロイター/Pichi Chuang)
[ワシントン 1日 ロイター] 尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐり日中間の緊張が高まっているが、海洋領有権をめぐる争いはアジアに限ったことではない。資源獲得や影響力拡大を狙った領有権争いは、北極圏や地中海東側、南大西洋など世界各地で今、再燃しつつある。
尖閣をめぐる日中の争いは、アジア最強の両国が全面戦争に突入するとの見方に同調する専門家は少ないものの、これまでのところ、最もリスクの高い懸案の1つだ。
スタンフォード大フーバー研究所でアネンバーグ高等客員研究員を務めるゲイリー・ラフヘッド元海軍大将は、日中の争いについて「資源がからむと事態は先鋭化する」と指摘。「エネルギー資源だけでなく、われわれが見落としがちなアジアの食卓に欠かせない魚種資源もそこにはある。海底の鉱石やレアアース(希土類)にも関心はますます高まっている」と述べた。
日本政府による尖閣国有化を発端に、この問題は純粋な外交問題から、周辺海域に巡視船や監視船、漁船が入り乱れて対立するまで事態がエスカレート。先週にはやはり領有を主張する台湾の監視船と漁船も接続水域に進入し、日中台三つどもえの様相となっている。
「こうした争いは確実に再燃しつつある」。こう指摘するのは米シンクタンク、海軍分析センターのエリック・トンプソン氏。「大きな地政学的変化が起きており、一部の国は以前にも増して政治的、経済的、軍事的に主張するようになっている。また、数年前なら存在すら分からず、採掘不可能だった資源を手に入れるための技術が今はある」と分析する。
とはいえ、全ての国が直接行動に訴えるわけではない。チリとペルーは領海境界線画定問題を国際司法裁判所(ICJ)に委ねるほか、バングラデシュとミャンマーも国際海洋法裁判所に付託した。
アルゼンチンも英領フォークランド(アルゼンチン名・マルビナス)諸島の領有権を改めて主張する可能性があるが、外交筋の多くは、1982年に起きた紛争のような直接攻撃ではなく外交的手法を探るとみている。
しかしその一方で、漁船、石油やガスの探査船、時に航空機や軍艦も出動して対峙するケースが一段と増加している。まだ領有問題が発生していないアフリカ沿岸水域などでも今後、石油やガスをめぐって近隣諸国間で争いが勃発する可能性がある。
米海軍大学のニコラス・グボスデフ教授は「資源獲得のための地上戦はもはや容認されないが、海の資源となれば別問題となり得る」と語る。
<地域的緊張や軍拡競争を刺激も>
先のトンプソン氏は、地中海東側のトルコ、キプロス、イスラエル、レバノンに接する海域で2009年に巨大ガス田が発見されたが、これは世界の約1年分のエネルギー供給量に匹敵する規模だと説明。同氏によると、このガス田をめぐっては「ほぼ全面的にもめている」という。
昨年、トルコとキプロスは探査船と共に軍艦をそれぞれ海域に派遣。トルコ軍による侵攻でキプロスが分断された1974年以来、緩和していた緊張が高まった。地中海の大国として存在感を増すトルコは、キプロス北部のトルコ系住民への支持を明確にし、同地域を実行支配している。
また、ガス田をめぐるライバル関係は、かつては同盟国だったトルコとイスラエルの関係を一段と悪化させたように見える。防衛関係筋によると、海域上空では両国のジェット機が定期的に対峙しているという。ただ、近隣のシリア情勢などを受け、今年は関係国にそれほど目立った動きはないと見る向きもある。
専門家によると、こうした対立が軍事衝突に至らないまでも、より広範な地域で緊張を高め、軍拡競争を刺激するほか、他の問題もからめば戦争に発展する潜在的リスクが高まるという。
このことは、中国が近隣諸国と争っている領有権問題がもたらす最大の危機の1つだと言える。中国がより強硬な態度に出る一方で、外交当局者らは、他のアジア諸国も中国に触発されていると指摘する。
例えば、日本が領有問題に重点的に取り組んでいることは、1945年以降、政府がとってきた外交手法とは大きく異なることを示唆する。また、中国が関わる最も複雑な領有問題は、石油資源が豊富な南シナ海の南沙諸島をめぐるフィリピンとベトナム、台湾との争いだが、それぞれの国が海と空から監視を強化している。
<米国のジレンマ>
米高官らは、こうした問題には直接関与しない姿勢を明確にしている。ジョナサン・グリナート海軍作戦部長(大将)は先月27日、記者団に対し、日中は自分たちで問題を解決する必要があるとし、「ニ国間の問題は、当事国が解決すべきということは極めて明白だ」と語った。
しかし、日本などアジア諸国との同盟関係を考えると、米国が傍観者であり続けることは困難かもしれない。元海軍大将のラフヘッド氏は「米国の世界的プレゼンスという点から言えば、結局は関与せざるを得ない」とした上で、「平和的解決を促すため、米国の影響力を行使する必要が出てくるだろうが、一筋縄ではいかないだろう」と述べた。
資源問題の専門家によると、海底に眠る資源を採掘したい企業は、こうした領有をめぐる争いが解決され、リスクが取り除かれることを望んでいる。
とはいえ、経済に逆風が吹いているこの時期には、国家主義的な言動が容易に受け入れられやすく、解決しようとする人たちにとっては、ますます難しい状況となっているようだ。
海事関連を専門とする米ワシントンの弁護士、ローレンス・マーティン氏は、利害が大きければ大きいほど解決は難しいとし、「国内の政局が領有問題で妥協するのを非常に難しくしている場合がある」と指摘した。
原則として、こうした領有問題は1982年に採択された「海洋法に関する国連条約(UNCLOS)」に基づいて解決されるが、米国は同条約に署名していない。
ただ、米専門家らによれば、米国は申し立てをする際にUNCLOSに従う傾向にある一方で、同条約に批准している中国など一部の国は無視しているとみられている。
ロンドンに拠点を置くコンサルタント会社コントロール・リスクスの世界問題アナリスト、ジョナサン・ウッド氏は「解決困難な問題において、世界的にコンセンサスが得られるという状況は極めて珍しい。それに、ユーチューブに投稿された映像がデモや暴動を引き起こしかねないことを考えると、こうしたことを収拾できる保証はない」と語った。
(原文執筆:Peter Apps記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)

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