アングル:米IT大手4強の新社屋、「転落ジンクス」回避なるか

アングル:米IT大手4強の新社屋、「転落ジンクス」回避なるか
5月27日、米グーグルなど大手IT企業4社は新本社の建設計画を進めているが、過去の歴史をひもとくと、企業が豪華自社施設の計画に躍起になっているときは、栄光がピークに達した時期と重なることも多い。写真はグーグル新本社の完成イメージ図。NBBJ提供(2013年 ロイター)
[シアトル/サンフランシスコ 27日 ロイター] - 米企業の多くが所有不動産の圧縮を進める一方、アップルやグーグルなど、同国で最も影響力を持つテクノロジー企業4社は新たな本社の建設計画を進めている。これらの建物はいずれも成功を誇示するような壮大なデザインとなっている。
アマゾン・ドット・コムは先週、緑に囲まれた3つのドームなどから成る新社屋をシアトル中心部に設置する計画を発表。アップルが新社屋として建設する「宇宙船」、著名建築家フランク・ゲーリーが設計を担当するフェイスブックのオープンオフィス、そしてグーグルの新本社ビル(通称「グーグルプレックス」)に続いた形だ。
シリコンバレーの建築物に関する著書もある米ワシントン大学のマーガレット・オマラ准教授は「(これらのビルは)『われわれは特別な存在だ。世界に変化をもたらし、これからもそうしていく』という考えを表したものだ」と指摘。また、企業の手元資金が潤沢であることも示していると述べた。
しかし過去の歴史をひもとくと、企業が豪華な自社施設の計画に躍起になっているときは、その企業の栄光がピークに達した時期と重なることが少なくない。4社が計画している素晴らしい建物は「虚栄の産物」となり、企業を成功へと導いた中核事業から焦点が外れたことを示す結果となるかもしれない。
ヘッジファンド会社ラム・パートナーズのジェフ・マシューズ氏は、「アップルの『宇宙船』は『デス・スター』のニックネームが付くのではないかと思っている。規模が大き過ぎでタイミングも悪過ぎる」と話す。新社屋の完成時期は、アップルの製品サイクルの成長終了時期に重なると指摘。同氏はアップル株を既に手放したという。
RCMキャピタル・マネジメントでITファンドを運用するウォルター・プライス氏も「企業が大規模な本社を建設するのは大抵、事業が軌道に乗り、業績見通しが明るい時だ」とし、株価のピーク時と重なることが多いと述べた。同氏はアップル、アマゾン、グーグル、フェイスブックはいずれも優秀な社員の雇用に苦労しており、魅力的な新本社はそうした社員の獲得に効果があるとの考えを示した。ただ、アップルの新社屋計画は投資家には不評だという。RCMのITファンドも現在はアップル株を保有していない。
<「壮大」なデザイン>
シアトル市当局に提出された企画書によると、アマゾンの新社屋は、鉄とガラスでできた高さ約30メートルのドーム3個などで構成される予定。一方グーグルは、シリコンバレーのマウンテンビューにある現在の本社近くに、新たな社屋を計画。長方形の9棟の建物は庭を囲むように建ち、それぞれが連絡橋でつながるようデザインされている。
フェイスブックは、カリフォルニア州メンロパークの本社キャンパスに加え、新たに「フェイスブック・ウエスト」を建設すると発表。広さはサッカー場7.5面分と巨大で、設計は建築界のノーベル賞とも呼ばれる「プリツカー賞」を受賞したこともあるゲーリー氏が担当する。1回もドアを通ることなくビル内を移動できるオープンフロアのオフィスのほか、屋根には庭園も設ける予定。
最も野心的なのはアップルの新社屋だ。176エーカー(約71万平方メートル)の敷地内に、280万平方フィート(約26万平方メートル)のリング型の建物を計画。2011年に死去した創業者スティーブ・ジョブズ氏は生前に建設計画に関わり、新社屋を宇宙船のようだと説明していた。
報道によると、新社屋建設にかかる費用は最大50億ドル(約5100億円)で、約1万2000人の社員を収容できるという。
<新社屋建設とピーク転落の「呪い」>
スミード・キャピタル・マネジメントのビル・スミード氏は、過去数年で大手IT業界は莫大な現金資産を貯め込み、多くの企業で資本が過剰になっていると指摘。同社は4億6500万ドルの資産を運用するが、アップル、アマゾン、フェイスブック、グーグルのいずれの株も所有していない。スミード氏は「資本が過大化した企業の業績はそれほど良くないことが多く、経営陣が資金を浪費することもある」と述べた。
4社の新社屋計画からは楽観的な姿勢が感じられるが、大企業が大規模な社屋を建設すると同時に、栄光のピークから転落するという「呪い」が繰り返される可能性もある。
AOLタイム・ワーナーがニューヨークのセントラルパークの端で「タイム・ワーナー・スクエア」の建設を開始した矢先の2000年、ITバブルが崩壊。同社の株式時価総額はそこから7割以上も減少した。また、ニューヨークタイムズ(NYT)やベア・スターンズ、ユニオン・カーバイドも大規模本社を建設したが、その後、事業は厳しい環境に直面した。
「本社キャンパスの呪い」はIT企業も犠牲になった。かつては独立系ソフトウエアメーカーとして2番目に大きかったボーランド・ソフトウエアは、1990年代初めに1億ドル以上を費やし、池やテニスコート、スイミングプールを備えたオフィスをシリコンバレーの南部に建設。しかし2008年までにはマイクロソフトとの競争に敗れ、同社の株式時価総額は同オフィス建設費を下回るまでに縮小した。
ヤフー、マイスペース、インクトミ、サンマイクロシステムズ、シリコン・グラフィックスなども新社屋の建設計画を立てたり、実際に移ったりしたが、その後に落ち目となった。
<本社キャンパス建設で生産性向上も>
こうした「転落のジンクス」がある一方で、新しいタイプのテクノロジー企業による本社建設は、長期的には生産性の向上やエネルギー効率の改善などが見込める賢い選択だとの見方もある。
スタンフォード大学で建築設計プログラムを教えるジョン・バートン氏は「適切な環境にあれば、社員らの生産性は高まる。コストは割高になる可能性がある一方、5%の生産性向上につながるのであれば、(自社施設の建設は)非常に賢い選択かもしれない」と述べた。
(原文執筆:Bill Rigby記者、Alistair Barr記者、翻訳:本田ももこ、編集:宮井伸明)

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