焦点:製造原価は売価の1割、バングラ工場崩壊が映す現実

焦点:製造原価は売価の1割、バングラ工場崩壊が映す現実
5月14日、バングラデシュのビル崩落事故現場で回収された発注書は、外国企業がバングラデシュに衣類を発注する理由を明確に示している。米カリフォルニア州で撮影(2013年 ロイター/Mike Blake)
[マドリード 14日 ロイター] 1100人以上が死亡したバングラデシュのビル崩落事故。現場で回収された発注書では、欧米諸国での販売価格のわずか10分の1で注文を受けていた工場もあったことが明らかになり、外国企業がバングラデシュに衣類を発注する理由を明確に示している。
首都ダッカ近郊では4月24日、縫製工場などが入る8階建てのビル「ラナ・プラザ」が崩壊。当局によると、ビルは適切な許可を得ず違法に建設されていたもので、事故前日に危険な亀裂があると指摘されていたにもかかわらず、その日も従業員を建物内に入れていた。
ラナ・プラザに入居していた工場は、世界の大手小売企業のサプライヤーだった。例えば英ロンドンで46ドル(約4700円)で販売される、あるブランドのポロシャツの場合、製造原価は4.45ドルだった。最新トレンドを消費者にできるだけ早く、そして安価に届けようとする業界では、典型的な価格の変化となる。
5ドルのTシャツであれ5000ドルのスーツであれ、消費者が支払う金額に製造コストが占める割合はほんの一部であることは周知の事実だ。しかし事故現場から入手した文書は、世界的なサプライチェーン(供給網)の一端から一端までの関係を如実に表している。
縫製工らの多数の遺体が見つかった事故現場では、スペインのアパレル大手マンゴによる工場ファントム・タックへの発注書も見つかった。ファントム・タックは同ビルを拠点とし、事業経営者らは利益のために安全を犠牲にしたとして非難の対象となっている。
1月23日付の発注書では、秋冬コレクション用のコットン100%の男性用ポロシャツ1万2085枚の注文内容が記され、マンゴが1枚当たりに支払う金額は4.45ドルとなっている。同ブランドの似たようなポロシャツはスペインで26─30ユーロ(約3400─4000円)で販売されている。
一般的に、バングラデシュの縫製工場で働く労働者の給与は、中国の労働者の給与の半分以下とされる。バングラデシュの労働者がスペインの首都マドリードでマンゴのポロシャツを買うには、2─3週間分の給与が必要となる。
<「良質な製品で低価格」>
消費者が低価格を求める競争の激しいアパレル業界では、輸送コスト、店員の給与、店舗の賃料、広告費などで利幅が減っていく。一方、多くの企業はサプライヤーが労働者を酷使しないよう対策を講じていると強調。スウェーデンのアパレルメーカー、へネス・アンド・マウリッツ(H&M)や傘下に「ザラ」などのブランドを展開するスペインのインディテックスなどは今週、安全性強化などを盛り込んだバングラデシュでの労働環境改善案に合意した。
マンゴの広報担当は事故現場から発見された発注書について、注文は完了していなかったと指摘。サンプルをチェックし、ファントム・タックが労働安全基準を満たしていると確認できない限り注文しない予定だったと説明した。マンゴは100カ国以上で約2600店舗を展開している。
このほか事故現場では、デンマークのブランド「Jack's」の発注書も見つかった。長袖シャツの製造原価は5.08ドルで、このシャツに付けられる商品タグには24.90ユーロの価格が記載されていた。北欧諸国、ロシア、英国、アイルランドで男性向け衣類を販売する同ブランドは、広告では「低価格で良質な製品」と宣伝している。
世界銀行のデータによると、2010年の工場労働者の最低賃金でバングラデシュは最下位だった。事業経営者はロイターに対し、同国での工場労働者の平均月収は64ドル程度だとしている。同国の衣料業界では最もスキルの低い労働者の最低賃金は3000タカ(約3900円)だという。
<小売企業への批判>
活動家らは、世界の小売りチェーンが製造側とより多くの利益を共有すべきだと指摘。スペインの消費者団体FACUAの広報担当者ルベン・サンチェス氏は、「小売企業は消費者への安価な製品提供や労働者の安全確保よりも、高い利益率の達成を重視している」と非難した。
ソーシャルメディアでも小売企業は批判の対象となっている。アパレル大手ベネトンのフェイスブックのページでは、バングラデシュの労働環境についてのコメントが相次ぎ、これを受け同社は「われわれは責任を果たし、犠牲者への資金提供を行う」と発表した。
英国の低価格ブランドのプリマークやカナダのロブローも、ラナ・プラザで勤務していた犠牲者の遺族に補償を申し出ている。
バングラデシュでは死者が出る工場崩壊事故が過去6カ月間で4件発生しており、欧州連合(EU)や米国の当局は労働安全基準の厳格化を検討している。
(Sarah Morris記者;翻訳 本田ももこ;編集 野村宏之)

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