アングル:中国の「太子党ファンド」、著名投資家引きつけるコネと実力

アングル:中国の「太子党ファンド」、著名投資家引きつけるコネと実力
4月10日、中国は世界で最も大規模な新興プライベートエクイティ市場だが、「太子党」と呼ばれる政府高官の子息が経営する投資ファンドは、高いリターンを得ようとする投資家たちを引きつけている。写真は香港に拠点を置く投資会社「博裕投資顧問(BoyuCapital)」のロゴ。昨年12月撮影(2014年 ロイター/Tyrone Siu)
[香港 10日 ロイター] -中国は世界で最も大規模な新興プライベートエクイティ市場だが、「太子党」と呼ばれる政府高官の子息が経営する投資ファンドは、高いリターンを得ようとする投資家たちを引きつけている。江沢民元国家主席の孫である江志成氏(28歳)も、そんな太子党のひとりだ。
香港に拠点を置く投資会社「博裕投資顧問(BoyuCapital)」の共同設立者である江氏は、利益を生み出す取引を成功させる才能の持ち主。同社には香港の富豪、李嘉誠氏やシンガポール政府の投資機関テマセク・ホールディングスなども注目する。
2010年に設立された博裕投資顧問は過去1年半の間に、2つの中国企業の新規株式公開(IPO)に関わり、莫大(ばくだい)な富を手に入れようとしている。1つは電子商取引会社アリババ・グループ・ホールディングス。そしてもう1つは、不良債権処理会社の中国信達資産管理(チャイナ・シンダ・アセット・マネジメント)<1359.HK>だ。比較的新しい中国特化ファンドがこうした注目案件の双方に関わった例はほかにない。
博裕投資顧問は経験豊富な経営陣をそろえ、中国のプライベートエクイティファンドのなかで最も影響力のある1つとみられているが、複数の投資家によると、アリババと中国信達資産管理の案件だけが、投資家たちを引きつける理由ではない。
投資家たちは、博裕投資顧問が2011年に日上免税行の経営支配権を取得したことに強い印象を受けている。日上免税行は上海や北京の国際空港にある免税店すべてを運営している。この一件で投資家たちは、江氏が厳しく規制された国有セクターにコネを持ち、高いリターンは望める投資先へと変えてくれると信じるようになった。
江氏が個人的なコネを使っているかどうかは明らかではない。祖父の江沢民氏が日上免税行や他の案件で助け舟を出したという証拠はない。それでも、投資家たちは江志成氏が家族のコネを利用していると信じてやまない。
江志成氏と博裕投資顧問はこの記事について、コメントを差し控えた。
<太子党の影響力>
中国共産党の支配は同国経済や社会のほぼすべての側面に及んでおり、太子党が富を蓄えるために自身の政治的なつながりを利用することは難しいことではない。
太子党は金融、エネルギー、国内の治安、通信、メディアに関わる事業で中心的な役割を果たしてきた。その性質から不透明になりがちな取引を扱うプライベートエクイティが、彼らにとってそもそも安全な分野だった。
ロイターが確認したところによると、中国のプライベートエクイティ会社のうち、15社は太子党が設立したか、もしくは幹部を務めている。こうしたプライベートエクイティ会社によるファンドは1999年以降、少なくとも175億ドルの資金を調達している。
事情に詳しい3人の関係筋によれば、博裕投資顧問は2011年の中ごろ、日上免税行の株式40%を約8000万ドルで取得することに合意。残り60%の保有者は明らかにされていないが、博裕投資顧問は投資家たちに日上免税行の経営支配権を取得したと話したという。
2人の関係筋の話では、2013年初めまでに博裕投資顧問は、日上免税行の価値を約8億ドルと評価。博裕投資顧問は3年で莫大な含み益を手にした可能性がある。また関係筋によると、博裕投資顧問はすでに、日上免税行への投資分の大半を配当の受け取りで取り戻したという。
江志成氏の友人らによれば、日上免税行を築き、博裕投資顧問に売却したのは、江一族と近しい中国系米国人のフレッド・キアン氏という人物。キアン氏は日上免税行を1999年に設立している。
この年、当時の江沢民国家主席のもと、中国政府は新しい上海浦東国際空港に入る免税店の入札で外国企業にも門戸を開いた。上海は江沢民氏の政治的な権力基盤でもある。
日上免税行の業績は急成長している。ロイターが確認した同社資料によると、2012年の売上高は10億8000万ドル。免税店など流通業界の動向を追うムーディーリポートは、日上免税行を、国有企業の中国免税品(集団)有限責任公司の次にランク付けしている。
<2つの投資案件>
博裕投資顧問が注目度の高く、高リターンな投資案件でその影響力を発揮するとの名声を確立した2つの案件がある。江志成氏はその両方で交渉役を担った。
2012年、アリババの創業者、馬雲(ジャック・マー)氏は江氏と向かい合っていた。博裕投資顧問は、アリババが米ヤフーから自社株20%を買い戻すのに必要な71億ドルの一部を調達するために設立された中国投資有限責任公司(CIC)主導のコンソーシアムに参加。コンソーシアムは資金調達の見返りにアリババ株5.6%を取得した。当時、アリババの評価額は約380億ドルだった。
アナリストらの試算によると、現在のアリババの時価総額額は少なくとも1400億ドルに上る。つまり、コンソーシアムを通じた博裕投資顧問のアリババへの出資分は、1年半の間に3.5倍以上に増えたことになる。
アリババは今年の第3・四半期に米国で株式を上場すると発表している。IPOの規模は、2012年の米フェイスブックの160億ドルを上回る可能性があるとみられている。
また、2人の関係筋によると、博裕投資顧問は中国信達資産管理に約5000万ドルを投資。IPOに先立ち引き受けを行う「コーナーストーン投資家」(戦略的投資家)として、中国の全国社会保障基金(NSSF)やスイスの銀行大手UBSなどとともに名を連ねていた。
<ヘッドラインリスク>
一方、太子党の特権は必ずしも永久に続くわけではない。それがたとえ、存命の元国家主席の孫であったとしてもだ。薄煕来・元重慶市党委書記の失脚は、プライベートエクイティに出資する投資家たちのこうした考えをいっそう強固なものとした。
外資系企業で働く投資家たちのなかには、「太子党ファンド」に出資することに慎重になる者もいる。新聞の一面に出て、取引が水泡に帰す可能性「ヘッドラインリスク」もささやかれる。習近平国家主席が汚職撲滅運動を強化するにつれ、こうした懸念は高まっている。
ある欧州の投資家は、勤め先では太子党ファンドと一緒になって投資することについて意見が分かれているとし、「自分は反対だが、多くの同僚が賛成している。太子党ファンドはもろ刃の剣だ」と語った。
(Stephen Aldred記者、Irene Jay Liu記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)

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