デフレ脱却の「正念場」迫る、市場は日銀追加緩和に期待

デフレ脱却の「正念場」迫る、市場は日銀追加緩和に期待
3月28日、安倍政権が最大の目標とするデフレ脱却の「正念場」が迫ってきた。市場では、日銀追加緩和策を期待する声が出ている。写真は日銀本店で1月撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 28日 ロイター] -安倍政権が最大の目標とするデフレ脱却の「正念場」が迫ってきた。物価は順調に上昇してきたが、消費増税を乗り切れるかはまだわからない。消費圧迫など悪影響も大きくなってきた。一方、中途半端な物価上昇ではデフレ回帰のリスクは消えない。
市場では、日銀が国債とETF(上場投資信託)をともに買い増すことで、物価上昇の副作用を軽減する追加緩和策を期待する声が出ている。
<迫る消費増税>
生鮮食品を除くコア全国消費者物価指数(CPI)は28日発表された2月実績まで3カ月連続で前年同月比1.3%と同じ数字になった。9カ月連続で前年実績を上回り、値上げ品目も増えているが、伸び一服がはっきりしてきている。景気は底堅いが、円安は対ドルで102円台でこう着、株価も年初から軟調だ。物価押し上げパワーは弱まってきている。
さらに4日後の4月1日には5%から8%への消費増税が控える。労働市場がタイト化しているため、増税の影響で消費がいったん落ち込んだとしても、デフレ回帰はないとの見方もある。ただ、増税インパクトが消費マインドに与える影響などは読みにくく、警戒感は依然大きい。
円安は昨年から進行しており、前年比での円安効果は現状の為替水準が続く限り、今後減衰する。これまで物価押し上げの主要因であったエネルギー輸入価格上昇は弱まる見通しだ。さらに労働市場にひっ迫感はあるが、全体的には賃金上昇の広がりは遅れており、増税は消費者の懐を直撃する。増税後の消費落ち込みに対応して、企業の値下げが広がる可能性もある。中国など新興国経済の減速も物価を上がりにくくしている背景だ。
そこで、市場が期待しているのが日銀による追加緩和だ。これまで物価を押し上げてきたメーンエンジンは円安。国内企業の現地生産化による輸入品の増加や、スマートフォンなどの輸入増で日本のCPIは円安に対する感応度を高めている。日銀が追加緩和を行えば、期待が大きい海外勢を中心に好感され、円安が再開する可能性は大きい。円安が進めば、エネルギーなどの輸入価格上昇を通じてCPI押し上げ圧力は再び強まることになる。
<懸念される物価上昇の副作用>
しかし、それで日銀が目標とする2%の物価上昇が達成できるか、また日本経済が本当の意味で良くなるかは、予断を許さない。物価の上昇自体は消費者の実質購買力を低下させる。賃金上昇がついて来くればいいが、1月の現金給与総額は実質ベースで1.8%減少した。
2月の全世帯実質消費支出は前年比マイナス2.5%減。自動車の駆け込み需要の一巡などが影響しているとみられているが、消費者態度指数や景気ウォッチャーなど先行きセンチメントは弱い。足元で起きている物価上昇は需要増を伴わず円安による供給面の変化が引き起こしている「悪い物価上昇」との指摘もある。110円を超えるような円安はトータルで見て日本経済に悪影響をもたらすとの試算も出ている。
もちろん、円安メリットを享受する輸出企業が雇用や賃金を引き上げれば、副作用は軽減される。春闘も一定の成果をみせている。ただ、まだ大企業中心で中小企業への広がりはまだわずか。こうした中では、物価上昇と増税のダブルパンチのダメージは小さくない。需要増をともなった物価上昇が理想だが、「成長戦略」は期待ほど進んでいないのが現状だ。
<市場は株高によるカバーを期待>
ただ多少、副作用があったとしても、中途半端な物価上昇の段階で金融緩和を緩めるのは危険だとの指摘もある。再びデフレに回帰してしまうリスクがあるためだ。
三井住友アセットマネジメントのシニアストラテジスト、濱崎優氏は「日米欧で超が付くほどの金融緩和を実施してもほとんどインフレは進行しなかった。むしろ一時はディスインフレ傾向が懸念されたほどだ。少々、物価が上がったとして金融緩和を緩めれば、今度こそディスインフレが強まり、手が付けられなくなる」と警告している。
市場では、円安物価上昇のデメリットを軽減するために、株価上昇も同時にうながす日銀の追加緩和策を期待する声が出ている。株高は直接的には株式保有者へのメリットをもたらすが、企業の含み益増加やマインドの好転などを通じて景気全体にもプラスの影響があるとみられている。
「国債購入額の増額を通じてバランスシート拡大ペースを加速させ、円安を進行させ、物価を上昇させる。それでは家計部門の悪影響が大きくなるので、ETF購入額も大幅に増額し、株価を上昇させるという組み合わせを日銀は選択するのではないか」とシティグループ証券チーフエコノミストの村嶋帰一氏は予想している。

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