コラム:オバマ大統領が露呈した「哲学なき外交」

コラム:オバマ大統領が露呈した「哲学なき外交」
9月25日、オバマ米大統領(写真)は、24日の国連総会演説で、米国の中東への関与継続を強調した。しかし、その演説内容は、米外交政策の2つの大きな流れが、むしろ置き去りになっている実態を浮き彫りにした。NYの国連本部で24日撮影(2013年 ロイター/Mike Segar)
国際政治学者イアン・ブレマー
オバマ米大統領は、24日に国連総会で行った一般討論演説で、米国の中東への関与継続を強調した。しかし、その演説内容は、米外交政策の2つの大きな流れが、むしろ置き去りになっている実態を浮き彫りにした。
まず、中東への関与を継続する必要性を訴えたものの、実際の行動は真逆であることが今では誰の目にも明らかになっている。オバマ大統領はことあるごとに、この言行不一致を露呈させてきた。国内有権者の支持が得られず、シリア軍事介入の先送りを決断したのは記憶に新しい。先にロシアのサンクトペテルブルクで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議は不調に終わり、中心的な役割を果たす国が不在の「Gゼロ」世界では、「リーダーシップの真空状態」がすでに現実であることが痛いほど伝わった。米国が中東で果たせる役割はますます小さくなっている。
次に、今回の演説では、米外交政策の軸を中東からアジアへ移すという「アジア重視戦略」が、まったく出てこなかった。オバマ大統領の口から出た言葉は、クリントン前国務長官が輪郭を描いた外交政策とは完全に食い違っている。クリントン外交の柱だったアジア重視戦略は、国連演説では闇に葬られた格好だ。オバマ大統領は中東での安全保障問題に対する国際社会の関与を声高に呼びかけ、イラン問題には長い時間を費やした。各問題への言及回数はイランが25回、シリアが20回、イスラエルとパレスチナはそれぞれ15回と11回だったが、その一方で、中国に触れたのはたった1回のみで、それもイラン問題にからめての発言だった。中国以外の東アジアの国には、一度も触れずじまいだった。
クリントン国務長官時代には、彼女のアジア中心路線が、オバマ外交の空白部分を埋めていた。クリントン氏が表舞台を去ってから、オバマ政権のアジア重視戦略には何が起きたのだろうか。
中国の経済面や外交面での台頭など、アジア重視戦略の背骨を支える情勢が変わった訳でもなく、当時の問題が解決した訳でも決してない。しかし、クリントン氏が掲げたアジア重視の外交政策は、エジプトやシリア、イランなど次から次へと迫りくる問題によって埋もれてしまった。後を継いだケリー国務長官が自身の足跡を残そうとしているのはアジアではなく、始まっては頓挫するという歴史を繰り返しているイスラエルとパレスチナの和平交渉だ。
2期目のオバマ政権で目立ったアジア外交と言えば、6月に行われた中国の習近平国家主席との首脳会談だけだ。ただ、その首脳会談も、直前に米国家安全保障局(NSA)がネット上で個人情報を収集しているのが発覚し、オバマ政権はサイバー攻撃問題で中国に向けた矛先を収めるしかなくなるなど、思うようには進まなかった。
しかし、オバマ大統領からアジア重視の声が聞こえなくなっている理由は、他の外交問題に気を取られているからだけではなく、中東問題に詳しい新たな外交政策チームのせいでもない。
その背景には、オバマ大統領に自分自身の哲学(ドクトリン)が欠如しており、時々の急を要する課題に最も限られた方法で対応する方法を好むという明々白々な事実がある。外交をめぐるオバマ大統領の姿勢は、明らかにリスク回避優先に傾いている。失敗しそうな政策や大きくなりそうな問題を避け、米国の関与を最小限にとどめるよう万全を期すというものだ。
外交に携わりたいという意欲はあるが、それは戦略と呼べる代物ではない。そして米国世論も、国際社会への関与より国内問題を重視する姿勢は共通している。
つまり、「リーダーシップの真空状態」は将来の話ではなく、すでに現実ということだ。国連総会演説での主張がどうあれ、オバマ大統領の「哲学の欠如」は、世界での米国の役割縮小と完全に足並みをそろえている。
[25日 ロイター]
*筆者は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長。スタンフォード大学で博士号(政治学)取得後、フーバー研究所の研究員に最年少で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。全米でベストセラーとなった「The End of the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』など著書多数。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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