焦点:高まる自動操縦への依存、アシアナ機事故で見えた皮肉

焦点:高まる自動操縦への依存、アシアナ機事故で見えた皮肉
7月15日、米サンフランシスコ空港で着陸に失敗したアシアナ航空の事故で、自動操縦への依存が、パイロットの能力の衰えという皮肉な結果を招いたのではないかとの見方も出ている。写真は乗客の1人が撮影していた事故直後の同機。提供写真(2013年 ロイター/Eugene Anthony Rah/Handout via Reuters)
[サンフランシスコ/シアトル 15日 ロイター] - 今月6日に米サンフランシスコ国際空港で着陸に失敗した韓国アシアナ航空の214便。中国人女子学生3人が死亡した今回の事故で、安全を追求したゆえの自動操縦への依存が、パイロットの能力の衰えという皮肉な結果を招いたのではないかとの見方も出ている。
今回の事故では滑走路進入時に機体後部が防波堤に衝突したが、直前の飛行速度が目標値を著しく下回っていたことが分かっている。事故機のパイロットは着陸の中止を試みたが間に合わず、オートスロットル(自動速度維持装置)は目標速度に設定していたと説明している。
事故を調査している米運輸安全委員会(NTSB)は、今の段階で事故原因を断定するのは時期尚早と強調しているが、航空業界の専門家らは、これまでにNTSBが明らかにした情報から、今回の事故と近年の航空機事故には共通点があると指摘する。
米ニューヨーク州バッファロー郊外でのボンバルディア機の墜落事故、大西洋に墜落したエールフランス機、オランダ・アムステルダムでのトルコ航空の墜落事故──。いずれも2009年に発生したものだが、これらの事故と同様、アシアナ機のパイロットは機体の速度が危険水準まで落ち込んだ後、立て直すことができなかったものとみられている。
2009年の3件の事故については、これまでに複数の原因が挙げられているが、いずれの場合も当局からはパイロットの訓練を疑問視する声が上がっているほか、コンピューター制御されたフライトシステムのモニタリングや、緊急事態への対応に関する指導強化を求める意見が出ている。
アシアナ機の事故は、大型航空機で高まる自動操縦への依存が、パイロットのマニュアル飛行能力や不測の事態への対応力を衰えさせた可能性をあらためて問う格好となった。
米連邦航空局(FAA)はNTSBからの勧告を実行しなければならないが、NTSBはFAAの対応の遅さへの批判を繰り返しており、今回の事故ではこうした点も浮かび上がらせている。特にNTSBは、コックピット内での失速警報の強化や、パイロットの訓練の改善を推奨しているが、FAAの動きは鈍い。
航空機の安全はここ数十年で大きく改善している。航空業界では、死亡事故減少を支えているのはコックピットの機械性能向上だという見方で概ね一致している。しかし、この高性能機器がパイロットに新たな問題も突き付けていることは今や明らかだ。
1960年代に英トライデントの航空機が初めて自動操縦で着陸して以降、パイロットらはマニュアルでの飛行技術が失われていると指摘してきた。新世代の航空機になればなるほど自動システムに重きを置くようになり、リスクを回避しようとする航空会社はパイロットのマニュアル飛行の技術を、実際のフライトではなくシミュレーターで維持することを促している。
ある韓国の航空当局者は、元空軍パイロットが多い同国航空業界では、以前はマニュアルでの飛行が一般的だったと明かす。しかし1997年にグアムで大韓航空機が墜落して以降、安全面を改善するため、パイロットらは自動操縦の使用を勧められるようになった。NTSBの元調査官グレッグ・フェイス氏は、「航空会社はパイロットの訓練プログラムを見直し、マニュアル飛行の訓練を強化すべきだ」と指摘している。
FAAは先週、2009年のボンバルディア機事故を受けた安全強化対策の一環として、副操縦士に求める要件を厳格化すると発表した。
ボンバルディア機の事故では、失速警報が鳴ったにもかかわらずパイロットが適切な措置を取らなかったとされており、その10日ほど後に発生したトルコ航空機の墜落事故でも、電波高度計の故障とパイロットのミスが原因で失速する事態に陥っている。さらに、その約4カ月後のエールフランス機の墜落事故も、経験の浅いパイロットが速度計に異常が生じたことに過剰反応し、機体を失速させている。
<動かぬFAA>
航空機の速度が落ちたことをパイロットに知らせる警告システムの導入を義務付けるか否か。ここ10年近くにわたり、NTSBはFAAに検討を求め続けてきた。2010年には、NTSBは安全に関する勧告の中で、失速警報をめぐるFAAの対応の鈍さに不満をあらわにしている。
ボンバルディア機の事故で娘を亡くしたスコット・マウラーさんは、FAAがコストを気にして規制改革を遅らせていると非難する。FAAの腰の重さは「正しいことをする妨げになっており、結果として数々の人命が失われた」とし、「アシアナ機の事故は転換点になるだろう」と話した。
一方、ニューヨークで航空関係のコンサルタントをしているロバート・マン氏は、パイロットのペアの組み方をより慎重に考える必要があると指摘する。NTSBによれば、着陸に失敗したアシアナ機を操縦していたパイロットは、ボーイング777型機によるサンフランシスコ国際空港での着陸が初めてで、指導にあたっていたパイロットも教官役としては初の飛行だった。さらにこの2人でペアを組んだフライトは初めてだったという。
アシアナ機事故をめぐって最終的に何かしらの結論が出たとしても、FAAによる新規制導入に長い時間がかかっていることを踏まえれば、変化が訪れるのはまだ先になるだろう。世界の航空当局どうしで合意が必要な国際基準は言うに及ばず、なおさら時間がかかるのは想像に難くない。
(原文執筆:Gerry Shih and Alwyn Scott、翻訳:梅川崇、編集:宮井伸明)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab