焦点:CIA元職員の「価値」、触手伸ばすロシア情報機関

焦点:CIA元職員の「価値」、触手伸ばすロシア情報機関
6月25日、米当局による個人情報収集を暴露したCIA元職員エドワード・スノーデン容疑者が公の場に姿を現さないことで、ロシアの情報機関と接触しているのではないかとの憶測が高まっている。写真は12日、香港で撮影(2013年 ロイター/Bobby Yip)
[モスクワ 25日 ロイター] - 米当局による個人情報収集を暴露し、スパイ活動取締法違反容疑などで訴追された中央情報局(CIA)元職員エドワード・スノーデン容疑者が公の場に姿を現さないことで、ロシアの情報機関と接触しているのではないかとの憶測が高まっている。
ロシアのプーチン大統領は25日、この件について一蹴したものの、同国の情報機関が新たな情報をスノーデン容疑者から引き出そうと面会したとのうわさは消えていない。
ロシアのある治安当局筋は「われわれも含め、スノーデン容疑者はどの国の情報機関にとってもおいしい情報源であり、彼と絶対に話したいと思うはずだ」と述べた。
ロイターはロシア連邦保安庁(FSB)にコメントを求めたが、FSBからの返答は得られていない。しかし、元・旧ソ連国家保安委員会(KGB)のレフ・コロルコフ氏は、スノーデン容疑者が協力的であると仮定した上で、ロシアはこの千載一遇のチャンスを逃すことはないだろうとし、「他の方法で入手するのが非常に困難な情報を入手する機会を見逃すとしたら愚かなことだ」と語った。
米共和党のマケイン上院議員も、元KGB諜報員のプーチン大統領がこの機会を見逃さないとみる1人。マケイン氏は25日、CNNで「この状況を利用するだろう」と述べた。
スノーデン容疑者は23日に香港を出発し、モスクワのシェレメチェボ国際空港に到着。この時からすでにFSBの関与がささやかれ始めた。同空港の乗り換えエリアを警官と共に私服警備員20人以上が監視し、スノーデン容疑者の到着から間もなくしてエクアドルの駐ロシア大使が同エリアにやって来ると、ラウンジの入り口を封鎖した。プーチン大統領は25日、乗り換えエリアに同容疑者がいると認めたが、その姿は確認できていない。
米当局者らによると、スノーデン容疑者が機密情報をどれくらい知っているかは不明で、当初の予想よりも多くの資料を手に入れていた可能性があり、そうした情報が外国の手に渡ることを情報機関は懸念しているという。
<スノーデン容疑者の価値>
ロシアの政治アナリスト、パベル・サリン氏は、同国政府がスノーデン容疑者の到着から36時間以上にわたってほぼ沈黙を貫いていたことは時間稼ぎだったと指摘。「現在、ロシア政府はスノーデン容疑者がどれくらい使えるか評価しているところだろう。彼の価値は持っている情報で決まる」と述べた。
一方、先述のコロルコフ氏は「スノーデン容疑者がどのような情報を持ち、どれだけ有用なのかは分からない。彼の情報は全て、すでに分かっている可能性もある。それでも他の多くの理由から、彼が(ロシアにとって)有益であることに違いはない」との見方を示した。
専門家らは、スノーデン容疑者が冷戦時代に行われていたようなスパイの交換や、米国が他国に求める自由や民主主義の精神に自ら違反していると非難するためのプロパガンダの手段として利用される可能性があるとみている。
ジリノフスキー下院副議長は、スノーデン容疑者と、地対空ミサイル密売を図った罪などで米国で禁錮25年の判決を受け服役中のロシア人武器密売業者ビクトル・ボウト被告を交換することを提案している。
コロルコフ氏と先述の治安当局筋は、ロシアがよくある国際的な慣行に倣い、ボウト被告を送還させるための取り引きにスノーデン容疑者を使用するだろうと分析。コロルコフ氏は「スノーデン容疑者の引き渡しに応じないことは、ロシア政府にとって有利に働く」とし、治安当局筋も「ロシアは交渉する上で優位にある」と述べた。
とはいえ、スノーデン容疑者をめぐる問題が泥沼化すれば、米ロ双方にリスクが生じかねない。
カーネギー国際平和財団モスクワセンターのドミートリ・トレーニン所長は「米ロ関係全体にとって、今は非常に重要な時期であり、近い将来の関係を決定付ける岐路にある」との見方を示した。
コロルコフ氏は、ロシアが慎重に事を進めるだろうと指摘。「地政学的な敵であるとともに、政治的なパートナーである米国と対立することにロシアは全く興味がない」と述べた。
(原文執筆:Lidia Kelly記者、翻訳:伊藤典子、編集:梅川崇)

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