修復されなかった円債市場心理、日銀総裁は金利上昇容認との疑念消えず

修復されなかった円債市場心理、日銀総裁は金利上昇容認との疑念消えず
5月22日、長期金利が上昇する中、注目された日銀決定会合と総裁会見だったが、傷ついた円債マーケットの市場心理は修復されなかったとの声が多い。写真は記者会見を行う黒田総裁(2013年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 22日 ロイター] - 長期金利が上昇する中、注目された日銀決定会合と総裁会見だったが、傷ついた円債マーケットの市場心理は修復されなかったとの声が多い。
黒田東彦総裁は、高いボラティリティに警戒感を示したほか、市場関係者と密接に意見交換することを表明した一方で、長期金利の上昇には物価上昇や景気回復期待の要素もあると指摘。ある程度の金利上昇は容認しているのではないかとの疑念は消えなかった。市場とのコミュニケーションをどうとっていくか、金利急騰リスクを抑える上での課題はまだ残っている。
<本音探る円債市場>
「一度、心が傷つくと、つい相手の心を裏側を読んでしまうものだ。黒田日銀総裁の会見についても、円債市場は本音を探ろうとするのではないか」(国内銀行の資金運用担当者)──。円債市場で高まるボラティリティの背景には、日銀が、株価上昇や景気回復の中で、ある程度の長期金利上昇は致し方ないと考えるようになってきたのではないか、との疑念がある。その疑念を晴らしてほしいと市場関係者が耳をそばだてていたのが、きょうの黒田総裁会見だった。
日銀決定会合では政策現状維持が決定され、市場から注目されていた直近の長期金利上昇に関する言及もなかったが、市場では「具体的な政策という贈り物がなくても、円債市場のことを気に掛けているという言葉、メッセージがあれば、マーケットは安心し、ボラティリティも低下する」(りそな銀行・総合資金部チーフストラテジストの高梨彰氏)と総裁会見への期待が高かった。
黒田総裁の会見では、上昇する長期金利や高止まりするボラティリティに警戒感を示した発言が多く、そのうえで、市場関係者と密接に意見交換しながら国債買い入れ頻度やペース、対象などについて弾力的なオペレーション運営を行うと語るなど、一見、円債市場に気を使ったようにみえる。
だが、円債先物はナイトトレーディングで徐々に下げ幅を拡大。市場に安心感が広がっている様子は乏しい。同総裁は、長期金利の上昇に警戒感を示したものの、その上昇には物価上昇や景気回復期待の要素があるほか、国際的に連動する可能性も否めないと指摘。日銀の金融緩和策だけでは、長期金利の上昇を抑えきれないとの見方も示した。市場では、こうした発言をとらえ、「こちらが黒田総裁の本音なのではないか。金利急騰リスクは残りそうだ」(前出の担当者)との見方が広がっている。
JPモルガン証券チーフ債券ストラテジストの山脇貴史氏は、金利の急上昇に関して、あまりケアしていない面もうかがえると指摘。「黒田新体制になって、株価は上がり続けているため、今の段階で、日銀が長期金利に対して、新たなオペレーションを実施しなくてはならない状況ではないとの判断のようだ。株式相場と債券相場のバランスを見ながら、過剰なボラティリティが出ないように工夫するということだろう」と述べている。
<円債金利上昇の影響少ない日本株>
一方、ドル/円や日本株は、円債金利の上昇とはやや相関性が薄くなっている。特に日本株は上昇ピッチを速めており、ナイトトレーディングで大証の日経平均先物6月限は一時、1万5800円に乗せた。「市場は日本よりも米国への関心を高めている。米景気回復による需要拡大、米金利上昇によるドル高・円安を織り込む動きだ」(大手証券トレーダー)という。
前日は、今年のFOMC(米連邦公開市場委員会)で投票権を有するブラード米セントルイス地区連銀総裁やバーナンキFRB(米連邦準備理事会)議長に考えが近いとされるダドリー米ニューヨーク連銀総裁が中立からハト派方向の発言を行った。今晩のバーナンキ議長の議会証言でタカ派的な発言が出ない場合は、ドル安・円高材料だが、その場合でも、強気が支配する日本株市場では、流動性維持のポジティブ面を評価する可能性がある。
東洋証券・投資調査部ストラテジストの土田祐也氏は「緩和方向の発言が維持されれば株高基調を一段と強めそうだ。日経平均先物への買いの勢いをみると上に押し上げたい投資家の意向がうかがえ、来週にも日経平均1万6000円を回復するだろう」との見方を示している。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab