焦点:ユーロ圏危機後の欧州を待ち構える「高齢化危機」

焦点:ユーロ圏危機後の欧州を待ち構える「高齢化危機」
4月24日、ユーロ圏債務危機が過ぎ去ったとしても、欧州にはその後、さらに深刻な問題が立ちはだかることになる。高齢化社会の進展にどう対応していくかだ。写真はラトビア東部で3月撮影(2013年 ロイター/Ints Kalnins)
[リガ/リスボン 24日 ロイター] ユーロ圏債務危機が過ぎ去ったとしても、欧州にはその後、さらに深刻な問題が立ちはだかることになる。高齢化社会の進展にどう対応していくかだ。
一部の国では人口の増加は停滞しており、ドイツのようにすでに減少している国もある。高齢化の進行で貯蓄率は下がり、経済の潜在成長力も落ちることになる。労働生産性も下がり、国民の生活水準も低下するだろう。一方、定年退職者の数は膨れ上がり、年金や医療保険は財源不足の危機にさらされる。
欧州連合(EU)27カ国では現在、年金受給者1人当たりを平均4人の生産年齢層で支えている。国連やEUの予想では、2050年までには現役世代2人で高齢者1人を支える構図になる。
2014年のユーロ圏加盟を目指すラトビアは、現役世代の負担がさらに重い社会が待ち構える。2060年までには、現役世代4人で65歳以上3人を支えなくてはならないという。海外移住や低い出生率により、ラトビアの人口は2000年からの約10年間で14%(34万人)も減少。国家にとって深刻な問題となっている。
ラトビア大学の経済学教授で人口統計学の第一人者であるミハイル・ハザンス氏は「終末論を語りたくはないし、国が何とかすると思いたい。しかし、警鐘は打ち鳴らされている」と語る。
<鳴り響く警鐘>
欧州の多くの国では、定年退職年齢が引き上げられている。しかし、スウェドバンク(リガ)のチーフエコノミスト、マルティンス・カザクス氏は、高齢化に備えて必要とされる政策転換の重大さを各国政府はまだ理解していないと指摘。
「転換点を後戻りできない場所と定義するなら、いくつかの点で、われわれはすでにそこを通り過ぎている」とし、「人口高齢化と年金や福祉の負担で成長率は減速するだろう。ここで手を打たなければ、未来はもっと困難になる」と警鐘を鳴らす。
少子高齢化が経済に与える影響を理解するために政策立案者が参考にすべき国は日本だ。スタンダード・ライフ(エディンバラ)のダグラス・ロバーツ氏は「欧州は新たな日本だ」と語る。
エコノミストらは、労働者の生産性を向上させるための教育訓練への投資が、政策上の優先課題に設定されるべきだと指摘。同様に、女性労働力を活用するための育児支援の拡大も優先課題になるべきだとしている。
一方、高齢化のコスト負担をどう分け合うかは、「甘やかされる年金受給者」と「酷使される若年層」の対立という政治的問題をはらんでいる。
UBS(ロンドン)のシニア経済アドバイザー、ジョージ・マグナス氏は、ユーロ圏危機によって目先の問題にしか焦点が当たらないのは無理もないとした上で、「しかし、その背後には非常に構造的な問題がある」と指摘。「社会のモデルや国家に対する国民の権利と義務などの問題を議論しなくてはならなくなるだろう」と語る。
バルセロナのエコノミスト、エドワード・ヒュー氏も、欧州債務危機の根底には、社会の高齢化に伴う潜在的債務にどう向き合うかという問題があるとの見方に同意する。
同氏は、将来の年金や医療保険に必要とされる額の見通しは楽観的すぎると警告し、欧州の政治家や国際通貨基金(IMF)は人口構造の変化がもたらす影響を軽視していると批判する。
<ポルトガルのジレンマ>
景気後退(リセッション)に陥ったポルトガルも、ヒュー氏が指摘するように、ユーロ圏周辺国で人口動態の結果として経済や財政の悪循環を招いたケースだろう。
ポルトガルの出生率は1980年代前半以降、人口を維持するために必要とされる2.1を下回っている。昨年の出生率は1.32で、新生児数は過去100年以上で最低水準となる9万人にとどまった。
2050年までにポルトガルは、人口の40%が60歳以上になると予想されている。現在の24%から大幅に増え、EU加盟国で60歳以上人口が最も多い国になる。
さらにポルトガルでは、毎年人口の約1%に相当する10万─12万人が、より高収入な仕事を求めて海外に移住する。労働者人口の減少で税収は減り、社会保障制度にはさらに負担がのしかかる。
在外ポルトガル人コミュニティー担当閣僚のホセ・セサリオ氏は「移住者を帰国させることができるのは、ポルトガル経済が発展しているときだけだが、彼らなしに経済発展はできない」とジレンマを吐露。解決策があれば、ポルトガルの状況は今とは違ったはずだと話す。
<ラトビアからの脱出>
バルト海に面するラトビアにも同じことが当てはまる。
ドムブロフスキス首相はロイターに対し「(海外移住は)経済的にも社会的にもラトビアにとって大きな課題だ。今集中すべきは経済成長と雇用創出で、それができれば国民は国内で展望を持ち、国を離れないだろう」と語った。
ラトビア政府は2030年までに10万人の移住者を帰国させる目標を持っている。
これは、21世紀に入ってからの海外移住者の3分の1に当たる。EU最貧国の1つであるラトビアにとって、その目標達成は簡単ではなさそうだ。
2006年に英国に渡ったシングルマザーのダツァ・ガイルさんも、今のところ帰国の意思はまったくないという。1カ月150ラト(約2万7000円)の収入で子ども2人を養うのは無理だと感じて国を出たガイルさんは、最初こそ苦労したものの、英語を身に着けてからは良い仕事が見つかり、現在では、英国在住ラトビア人向けのニュースサイトを経営するまでになった。
「一番の問題はラトビアには十分な仕事がないこと。帰国を決断するのは少しリスキーだ」と語り、「ここで8年近くを過ごして自分の生活スタイルも変わった。この国ではよりチャンスが多い」と続けた。
2000年以降のラトビアの人口減少の3分の2は、海外移住組によるもの。人口流出が止まらないことは、経済的側面だけでなく心理面に大きな影響を及ぼすことも見逃せない。ラトビアの出生率は現在、世界最低水準である1.1にまで下がっている。
ラトビア大学のハザンス教授は「(国に残った人たちは)苦い思いに覆われている。もし皆が船から出ようとしているなら、船は沈んでいるに違いないという思いだ。もしくは、船がまだ浮いていて他の人が逃げている時に、なぜ自分は残っているのかという感覚だ」と語った。
(原文:Alan Wheatley記者、翻訳:宮井伸明、編集:本田ももこ)

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