アングル:対北朝鮮制裁に抜け穴、中国からぜいたく品の流入続く

アングル:対北朝鮮制裁に抜け穴、中国からぜいたく品の流入続く
3月20日、3度目の核実験で国連による制裁が強化された北朝鮮だが、同国のエリート層は中国から最新型のカメラや薄型テレビなどを入手しており、制裁の効果はあまり表れていない。写真は北京の北朝鮮大使館近くの小売店。18日撮影(2013年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
[北京 20日 ロイター] 3度目の核実験で国連による制裁が強化された北朝鮮だが、同国のエリート層は中国から最新型のカメラや薄型テレビなどを入手しており、制裁の効果はあまり表れていない。
北京の北朝鮮大使館近くにある電子機器などを取り扱う商店では、平壌行きの航空券を手にした北朝鮮人が冷蔵庫や洗濯機を品定めする姿が見られ、商売も繁盛しているようだ。
確かに、ぜいたく品の禁輸を定めた新たな制裁は、これらの商品を明確に明示している訳ではない。北京での光景は、北朝鮮のエリート層が制裁の痛みを感じていないことを示している。
「何も問題ない」。北朝鮮大使館裏にある店のオーナーのCaoさんは、「顧客は大型の台所家電をここでピックアップすることが可能で、われわれが直接北朝鮮に送ることもできる」と語る。
今月7日に国連安全保障理事会で採択された制裁決議案は、対北朝鮮禁輸品目としてヨットや高級車、宝石などのぜいたく品の具体例を明示。禁輸される品目は、これらに限らないとした。
ぜいたく品の禁輸措置は、北朝鮮のエリート層の生活スタイルにメスを入れる目的で2006年に始まった。ただ、これまで具体例が明示されたことはなく、品目は加盟国の判断に委ねられ、中国をはじめ各国はぜいたく品の定義を公にしてこなかった。
かつて国連で北朝鮮の監視を担当していた経験を持つ米ノートルダム大学のジョージ・ロペス教授は、「禁輸する品目について統一した見解がない場合、実際に制裁を加えることは難しい」と指摘する。
北朝鮮人を主な顧客とする店舗では、日本製や韓国製のDVDプレーヤーやカラオケマシン、化粧品、香水が並ぶ。その店舗の1つでは、ソニーのデジタルカメラの購入を希望する中年の北朝鮮男性が、計算機を片手に中国人店主と値切り交渉を行っていた。
中国の税関資料によると同国は昨年、7750万ドル(約74億円)相当の宝石類などを北朝鮮に輸出。また、音響・テレビ関連製品に関しては同年、2億6690万ドル相当を輸出し、2007年の3倍以上に上った。
<薄型テレビ>
一方、北京の空港では、冷蔵庫や乾燥機付き洗濯機、大型テレビをカートに乗せた北朝鮮人が、北朝鮮国営の高麗航空のカウンターに列を成していた。
NGOの代表で北京─平壌間を頻繁に行き来するというアンドレイ・アブラハミアン氏は、「北朝鮮人が飛行機で移動する際、非常に多くの商品がいつも行き交う」と説明。その上で「中でも薄型テレビはとても多い」との印象を述べた。
英語を教えるため平壌を定期的に訪れているオーストラリア出身のスチュワート・ローン准教授は、「もちろんBMWやベンツは平壌の道路にあふれている」と話し、最も目にするぜいたく品はアルコールで、特にウイスキーのシーバスリーガルが目立つという。
また、鉄道で中国・丹東から北朝鮮との国境を越える人たちの話でも、制裁強化後に検査などが厳格化された様子はない。丹東に拠点を置くツアーガイドのBrooklyn Zhangさんは、「ぜいたく品をどのようにチェックしているのか分からない」と首をかしげる。
北朝鮮のエリート層が、外国で自由に買い物ができるもう1つの要因には同国の国際収支も挙げられる。
米ワシントンのピーターソン国際経済研究所によると、対中貿易を主な背景に2011年の北朝鮮の経常収支は黒字に転換。同研究所の試算では、2012年も黒字で資本輸出が進んでいるとみられる。
同研究所のマーカス・ノーランド氏は18日のブログで、「国内消費は不必要に圧迫されているが、その代わりに資金が外国に移動している。それは恐らく、エリート層が将来的に行う消費を支援するためだろう」との見方を示した。
(原文執筆:Megha Rajagopalan記者、翻訳:野村宏之、編集:伊藤典子)

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