アングル:電力改革が促す火力の高度化、原発位置づけは難題に

[東京 15日 ロイター] 経済産業省が今月打ち出した電力小売り全面自由化などの電力システム改革は、原子力に代わる基幹電源である火力発電の高度化を促す効果が期待できそうだ。地域独占の副作用として老朽化した設備が多く残り、産業全体の効率性向上が遅れてきたが、改革に成功すれば状況は改善する可能性がある。
ただ、エネルギー政策における原発の位置付けが不透明なため、電力業界は改革へのコミットメントに及び腰だ。原発維持を主張する有識者からは、国策民営の見直しなど原発事業体制の改革をシステム改革と並行して検討すべきとの主張が聞かれる。
<電力改革のメリットとは>
今回の改革案は直接的なメリットが見えにくい。家庭向けを含む小売りの全面自由化を通じて事業者間の競争を促しても、原発の稼働停止が長期化し、火力に依存する状況が続けば、電気料金の水準はLNG(液化天然ガス)などの国際市況や為替相場が最大の決定要因となり、事業者が差別化を図る余地は小さい。
発送電分離を通じて新規参入の促進を狙っても、本格的な発電所の建設には大規模な投資が必要で参入障壁が高い。自由化市場では石炭火力など割安な電源が選ばれやすくなり、割高な再生可能エネルギーは政策的な支援がなければ増やすことは難しい。
<発電ユニットごとに競争原理>
ではこの改革の利点とは何か。経産省の電力システム改革専門委員会の委員を務めたエネルギーアナリスト兼コンサルタントの伊藤敏憲氏は、発電分野の強化を挙げる。「発電ユニット間で競争原理が発揮され、合理性の高い電源は活用され、そうでない電源はスクラップの対象となる。(結果として)発電分野はブラッシュアップする」と指摘する。競争力がある発電所が残れば、コストが下がり利用者にメリットが行き渡るという。
改革案は「営業区域という概念がなくなる」(経産省関係者)こともポイントだ。「今までは電力会社は(営業管内で)自己完結していたため、古い供給設備が残った」(伊藤氏)という。特に老朽化が目立つのは、かつての基幹電源の石油火力だ。経産省は2020年時点では73%(出力ベース)の石油火力設備が運転開始から40年超になると試算する。中部電力<9502.T>の水野明久社長は15日、都内の記者会見で、原発再稼動を条件に「白黒テレビを使っていた時期に運転開始した老朽化設備は休止、停止していく」と語った。
<自由化と原発は共存できるか>
市場競争が本格化すれば、電力会社にはコスト削減への圧力が高まる一方で、原子力規制委員会による新安全基準が7月に施行されれば、対策コストとして電力業界全体で1兆円規模の投資が必要となる可能性もある。40年運転制限などの規制が施行され、安全対策費を投じても収益的なメリットが小さいと電力会社側が判断すれば、廃炉に追い込まれる原子炉が今後相次ぐ可能性も高まる。
電気事業連合会の八木誠会長(関西電力<9503.T>社長)は15日の定例記者会見で、発送電分離が実施された場合に、発電会社だけで原発を持ち続けられるかどうかについて、「原子力に対するリスクが高まっているので非常に難しい。やりたくても金融機関がおカネを貸してくれなくなるのでは」と危機感を露わにした。
<国策民営は曲がり角に>
昨年9月に民主党政権が掲げた脱原発方針は、自民党の政権復帰により修正されることになった。ただ、安倍政権は将来の電源構成については「10年以内に結論を出す」とするだけで、原子力の位置づけは依然として不透明だ。
全面自由化や発送電分離など戦後最大の電力改革に踏み出す中で、原発の国策民営は維持可能なのか。日本経団連系のシンクタンク、21世紀政策研究所の澤昭裕・研究主幹は国策民営の見直しが必要だと訴え、著書で「原子力発電・廃炉機構」といった組織の創設を訴えている。
一定量の原発維持を主張する澤氏はロイターの取材に対し、「国が(機構の)資本の半分くらいを持って、原子力の運営自体に国が責任を持たないと、電力会社が(原発を)持ち続けることは極めて難しいだろう」と指摘している。伊藤氏も「国策民営の見直しは検討すべき」と話す。原発の位置づけが不透明なままでは、高効率の火力発電については「新設計画など進まない」と強調する。
<政権、原発問題は参院選まで封印か>
一方、政府側の反応は鈍い。茂木敏充経済産業相は昨年末、ロイターなどのインタビューで「電力自由化と原発の国策民営は相性が良くないのでは」との質問に対し、「その印象と私が具体的に進めていくこととは必ずしも一致しない」などと答え、否定的見解を示した。ある経産省幹部は「7月の参院選までは原子力問題は動かないだろう」と話す。
(ロイターニュース、浜田健太郎)

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