焦点:IMFが緊縮一辺倒の過ち認める、遅すぎた方向転換

焦点:IMFが緊縮一辺倒の過ち認める、遅すぎた方向転換
10月15日、過去に国際通貨基金(IMF)の緊急融資プログラムを実施して景気悪化の痛みを味わった国々は、憤懣(ふんまん)やる方ない気持ちだ。写真はラガルドIMF専務理事。13日撮影(2012年 ロイター)
[東京 15日 ロイター] 過去に国際通貨基金(IMF)の緊急融資プログラムを実施して景気悪化の痛みを味わった国々は、今ごろになってIMFが緊縮策のコスト計算を間違っていたとを認めたことで、憤懣(ふんまん)やる方ない気持ちだ。
アルゼンチン、インドネシア、韓国といった国々はかつて、IMFによる数百億ドルの融資と引き換えに厳しい財政支出の削減を義務付けられた。これらの国々は、IMFがようやくアジアや中南米の経済危機の際に犯した過ちから学び始めたとみている。
インドネシアのギタ貿易相は「彼らは過去の出来事から学んでいる。我が国が1998年に経験したことは間違いなく過酷だった。その時期を生き延びた私は、われわれが被った困難が教訓となるよう期待する」と話す。
インドネシアはアジア金融危機が勃発した1997年に100億ドルのIMF融資に調印し、財政支出削減、増税、銀行閉鎖、引き締め的な金融政策といった経済プログラムに着手した。IMFは、これらを実施すれば景気の悪化を抑制できると主張していた。
インドネシア経済は結局、98年に13%ものマイナス成長に陥り、IMFの予想した3%のプラス成長とは程遠い結果になった。
IMFのストロスカーン前専務理事は2010年、IMFがアジアにおいて「過ち」を犯したことを認めた。
IMFは先週発表した調査報告書で、厳しい財政緊縮策による経済への打撃は以前想定していた規模の3倍に及ぶ可能性があると指摘した。
ラガルド専務理事は12日に東京で開かれたIMFと世界銀行の年次総会全体会合の冒頭で「助言というのは、受け取るのも与えるのも時として難しい」と述べた。
調査報告書と並行してIMFは、ユーロ圏債務危機に対処するため財政緊縮を促す従前の姿勢を緩和し、ギリシャその他の重債務国に早急な財政赤字削減を強いれば副作用を招くとの主張に転じた。
<緩衝剤>
IMFの報告書は、2009年の前後で緊縮策が先進国に及ぼす影響が著しく変化したことを示している。09年以降、大半の主要先進国は政策金利をゼロ近くまで引き下げている。
通常なら、財政政策を引き締めても中央銀行が利下げという緩衝剤によりその打撃を和らげることができる。しかし現在は金利が限界まで下がったため、財政引き締めを相殺するために打ち出せる金融政策は乏しい。
IMFのブランシャール調査局長は「現在は多くの国々が流動性の罠に陥っている。これは周知の通り、金融政策を使えないことを意味しないが、平時に比べて金融政策には大幅な制約がある。こうした場合、金融政策によって相殺されずに財政健全化の影響が直に出ることになる」と述べた。
1997年のインドネシアでは、IMFは財政赤字の削減と金融引き締めの両方を勧告。これが景気悪化を深刻化させたとの批判を招いてきた。
IMFは99年、インドネシア経済が予想よりはるかに悪化していることが明らかになった時点で、もっと素早く政策の緩和を許す余地があったことを認めた。しかし同時に、インドネシア政府がIMFの計画を適切に実行しなかったことを批判した。
アジアにおけるIMFの評判には今でも泥が塗られたままで、アジア諸国は二度と救済を仰ぎたくないという理由もあって、総額約6兆ドルの外貨準備を積み上げている。
<失敗が約束された戦略>
アルゼンチンのロレンシノ経済財務相はIMFが失敗を認めたことについて、ユーロ圏危機に対する姿勢を改める「最初の一歩」になるはずだと言う。
経済財務相はIMFに寄せた公式声明で「IMFはまたしても失敗を約束された政策条件や改革戦略を支持している。これらは対象国における景気後退を深刻化させ、失業率を押し上げ、債務は持続不可能な道をたどって社会的な失敗も招くことになる」と訴えた。
アルゼンチンは過去10年間にIMFから合計約230億ドルの融資を受け、それを返済。現在はIMFが融資対象国に課す条件を声高に批判している。
韓国は1997年にIMFから210億ドルの融資枠を与えられ、成長率が97年の5.7%から98年には3%に減速することを前提とした改革プログラムに合意した。実際には韓国経済は98年に6%近くのマイナス成長に陥った。
97年のIMFとの交渉で韓国代表団を率いた鄭徳亀氏は、IMFは通貨危機の診断を誤り、財政政策の問題だとして間違った改革案を処方したと指摘。「すっかり手遅れになってから消防団が到着したが、十分な水を積んでおらず火事の性質も正確に把握していなかったようなものだ。その結果、火事はますます大きくなった」と話した。
IMFの示した処方箋から離れることによって成功を収めた国が少なくとも1つある。
ボリビアのアルセ経済・財務相は、IMFが他の国々で失敗を犯したのを見たため、ボリビア政府はIMFの勧告を無視することを決めたと説明。IMFの勧告と正反対の政策を実施したことにより、2005年に38%を超えていた貧困率を11年には24%強に抑え、一人当たり国内総生産(GDP)はこの間に倍増したと述べた。
財務相は「ボリビアでは国家の介入を強めることで、より良い富の配分を成し遂げた。われわれは市場をまったく信頼しておらず、2006年に市場主義経済を捨てた」と指摘。「IMF理事らの志は良いのだが、一部の局はIMF内で実施すべき改革にまったく耳を貸さない。ラガルド専務理事ができる最良の行動は、彼女の良い志を下のレベルまで浸透させることだ」と述べた。
(Emily Kaiser、Sophie Knight記者)

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