アングル:為替操作国認定、IMFとG7の支持なく影響軽微

アングル:為替操作国認定、IMFとG7の支持なく影響軽微
 8月11日、米国の元政府関係者や現役の当局者、先進7カ国(G7)筋によると、トランプ米政権による中国の為替操作国認定はG7と国際通貨基金(IMF)からの支持を欠いているのが明らかで、中国に重大な影響を及ぼすことはなさそうだ。写真は6月29日、大阪のG20サミットで撮影(2019年 ロイター/Kevin Lamarque)
[ワシントン 11日 ロイター] - 米国の元政府関係者や現役の当局者、先進7カ国(G7)筋によると、トランプ米政権による中国の為替操作国認定はG7と国際通貨基金(IMF)からの支持を欠いているのが明らかで、中国に重大な影響を及ぼすことはなさそうだ。
米財務省は5日、1994年以来初めて中国を為替操作国に認定。金融市場が動揺し、米中通商紛争はエスカレートした。
2013年のG7合意によると、メンバー国は為替について重大な措置を取る前に他のメンバーと連絡を取り合う必要がある。
クドロー米国家経済会議委員長は今回の措置についてG7メンバー国と協調していると述べたが、米国の元政府関係者や現役当局者によると米財務省はこうした事前の相談を行わなかった。
欧州のG7メンバー国のある高官はロイターに、欧州諸国は事前の調整がなかったことに驚いたと明かした。
ドイツのショルツ財務相は中国の為替操作国認定の翌日に声明で「(対立の)さらなる激化は損害を生むだけだ」と述べ、既に貿易紛争が成長を阻害している状況下での緊張の高まりに警鐘を鳴らした。
関係筋によると、米財務省が5月に発表した半期為替報告書で中国の操作国認定を見送ったばかりだっただけに、認定はホワイトハウスの多くのメンバーにとっても青天のへきれきだった。
1988年米包括通商競争法によると、為替操作国認定の主な狙いは当該国を交渉の場に引っ張り出して不公平な優位をなくすことにあり、話し合いで解決しなかった場合に大統領が制裁を科すことができる。
<IMFとG7は沈黙>
IMFは米国による操作国認定について論評を避けている。米国はIMFの最大の出資国で、ラガルド専務理事の後任人事に大きな影響力を持つ。
米財務省筋は、ムニューシン財務長官が5日の週にIMFのリプトン専務理事代行と電話で為替問題と並んでIMF専務理事の後任について協議したと述べたが、詳細は明らかにしなかった。
IMFの中国部門ディレクター、ジェームズ・ダニエル氏は9日、人民元相場の水準はおおむね経済の基礎的諸条件に沿っているとしたIMFの7月の報告を支持。記者団に「米財務省とさまざまな問題で協議を続けている」と述べるにとどめ、IMFと米財務省との協調の見通しについて手掛かりを示さなかった。
G7当局者たちも、繰り返し質問を受けているにもかかわらず、操作国認定について議論を避けている。
IMFの元首席エコノミストでカリフォルニア大バークレー校教授のモーリス・オブストフェルド氏やサマーズ元米財務長官など著名エコノミストは、認定を支持する証拠はないと述べている。
オブストフェルド氏は「客観的に操作国認定が正当だと言うのは非常に難しい。米政権が言おうとしているのは、中国当局が人民元安を阻止できたはずなのにしなかったということに見える」と述べた。
米財務省に務めた経験のあるピーターソン国際経済研究所の特別研究員、フレッド・バーグステン氏は「G7や他の国がこの問題で米国を支持することはあり得ない。中国が為替操作を行った証拠がないからだ」と話した。
<単独介入は困難>
元米財務省職員で現在は戦略国際問題研究所に在籍しているステファニー・セガル氏によると、トランプ政権は欧州連合(EU)からの輸出品への関税をちらつかせているため、今のところ欧州諸国に中国を怒らせ、トランプ氏を支持する雰囲気はない。「たとえ米国といえども、為替市場は単独で働き掛けを行うには巨大過ぎるし、それは持続できない」とし、為替市場に一国で介入しようとするのは困難との見方を示した。
アジア開発銀行研究所の吉野直行所長は、認定は完全に政治的なもので、経済的な根拠はないと指摘。「(中国にとって)最良の解決策は資本市場の開放だ。市場開放で中国の輸出が続けば資本が流入し、人民元は自動的に上昇する」とした。
米国が1994年に中国を為替操作国に認定した際に財務省の担当者だったフィリップ・ディール氏は、トランプ政権の動きは為替操作の評価プロセス全体の正当性に疑問を生じさせると指摘。「トランプ政権は念入りな検討を行っていない。衝動的であり、同盟関係にある国との調整は行われていないように見える」と述べた。
(Andrea Shalal記者、David Lawder記者)

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