焦点:米国で専門職ビザの差し戻し急増、外国人採用に暗雲

Yeganeh Torbati
[ワシントン 20日 ロイター] - トランプ米政権が、オバマ前政権期よりも頻繁に査証(ビザ)申請を突き返し、専門技能を持つ外国人労働者の米国における就労を一段と困難にしていることが、ロイターが入手したデータで明らかとなった。
専門性の高い知識や技術を有する外国人労働者に発給する一時就労ビザ「H─1B」の審査厳格化は、給与水準の高い労働者に与えるべく、トランプ大統領が同ビザ制度の変更を求める大統領令に署名した後に起きている。そのような改革はまだ制定されてはいない。
米市民権・移民業務局(USCIS)のデータによると、今年1─8月に申請されたH─1Bビザのうち、8万5000件が突き返され、「追加書類要求(RFE)」が出されている。その場合、ビザ発給は数カ月遅れかねない。
こうした件数は、ビザ申請数の伸び率が昨年同期比で3%を切るなか、45%増加した。データのない2009年を除けば、オバマ前政権のどの時期よりも、今年は突き返される割合が非常に高まっている。
審査厳格化の傾向は、移民問題でトランプ大統領の強硬姿勢を支持する人たちを活気づかせるだろう。外国人技能労働者向けのビザのせいで、海外からやって来る低賃金労働者が米国人労働者の職を奪っていると彼らは言う。
その一方で、主要テクノロジ―企業や大学、病院は、そのようなビザによって、条件に見合った米国人が少ない高度な専門職向けの人材を確保することができると主張している。
H─1Bビザを取得するのは通常、学位のある外国人労働者だ。同ビザは1度につき3年間有効となる。テクノロジー、医療、教育分野で利用されることが多い。USCISのデータによれば、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、アップル、インテル、オラクル、フェイスブックは、2016年に同ビザを多用していた。
移民弁護士はこれまで、無駄が多く、面倒な仕事を伴うビザ申請が差し戻されることに不満を抱いていたが、トランプ政権になって新たな傾向が見られると指摘する。
今まで以上に申請書にケチをつけるだけでなく、外国人技能労働者に提供される初心者レベルの仕事も対象にしているという。これはH─1Bビザを巡る法律に違反すると、弁護士は指摘する。ビザ保持者は、初心者レベルの職に就くことが認められているからだ。
差し戻しが増加したり、初心者レベルの仕事に狙いを定めたりしていることについて、一部の弁護士は、正式な規制変更あるいは議会承認を得た変更が行われないうちに、トランプ政権がH─1Bビザ制度に対してひそかに実行している作戦だとみている。
「トランプ政権の方針に一致する移民政策を実施する方法の1つは、H─1Bビザに関する審査を厳格化することだ」と、ニューヨークに拠点を置く移民弁護士の1人は語った。
USCISの広報担当者ロバート・C・ラングストン氏は、弁護士が認めるこの新たな傾向やRFEの急増について直接コメントしなかったものの、同局は「申請を評価するための法定要件と解釈される現在の方針」にのっとっていると、電子メールで回答した。
<抜け穴をふさぐ>
パートナーズ・ヘルスケアは、ハーバード大学メディカルスクールのための教育病院2つを含む医療ネットワークだが、今年になってUSCISから50通を超えるRFEを受け取ったと、パートナーズのH─1Bビザを担当する移民弁護士アンソニー・パウエルスキー氏は語る。昨年のRFE数は計15通に満たず、同ビザの申請数も昨年とほぼ変わっていないという。
申請書には、非営利であることの証明や、1948年にハーバード大学メディカルスクールと病院とのあいだで交わされた合意、また、同大学との200年に及ぶ歴史について言及している病院のウェブサイト上の説明も含まれていたが、USCISは病院と大学とのつながりに関して問い合わせをしてきたとパウエルスキー氏は説明。
「プロセスや裁定を遅らせるため、できることは何でもしている。考え得る抜け穴をすべてふさぐことが頭にあるのだろう」と同氏は述べた。
USCISの広報担当者ラングストン氏は、特定のH─1Bビザ申請についてコメントするのを控えた。
差し戻しの増加が、今年に発給されるビザ数にどう影響するかはまだ分からない。USCISは2016年度にH─1Bビザ申請の87%を承認した。今年度は6月30日までに59%が承認されているが、申請の大部分が処理される2017年度の最後の3カ月が含まれていないため、その数は確定していない。
民主・共和両党の議員は共に、H─1Bビザを批判している。同ビザによる最大の恩恵を受けているのがアウトソーシング企業で、同制度を利用してIT分野の低位の職を米国人から奪っていると批判されているからだ。両党の議員は今年、同ビザの改革案を提出している。
トランプ大統領は4月、H─1Bビザの審査を厳格化する大統領令に署名。同ビザが確実に「技能もしくは給与水準が最も高い申請者に与えられる」ことを狙ったものだ。大統領令自体は制度変更の実施を意味しないが、関係省庁に改革を促すものだ。
<かさむ費用>
初心者レベルの仕事に対するビザ申請の差し戻しは、多くの場合、給与が仕事内容の割に低過ぎるか、仕事がH─1Bビザが求める「専門性」に該当しないかのどちらかであることが、数百件に及ぶRFEを米移民弁護士協会(AILA)が検証した結果、明らかとなった。
初心者レベルの仕事とは、大学の新卒者で就労経験がほとんど、もしくはまったくない人向けのポジションを指す。このような仕事の給与は、4段階中で最低の「レベル1」に該当する。
「給与レベルがそのポジションにとって適切でなければ、RFEが正当化される可能性がある」と、USCISの広報担当者ラングストン氏は語った。
USCISのデータは、どのようなポジションがRFEに該当するか、またその理由について明らかにしていない。
弁護士はまた、USCISが暗に主張している「専門職は初心者レベルの仕事になり得ない」という点に疑問を呈している。若い医師やエンジニアを挙げ、彼らに就労経験はないが、技術的スキルを学ぶために何年も費やしていると指摘する。
あらゆる分野においてRFEが出されているが、AILAの検証結果によると、ソフトウエア開発者とコンピューターシステムのアナリストが他の職種よりもその頻度が高かった。
シリコンバレーのテクノロジー企業大手は、以前と比較してより多くのRFEを受けたかについて、コメントを拒否、あるいはその要請に回答しなかった。
RFEによって、H─1Bビザ申請1件当たりの費用は1.5倍にもなると、弁護士は言う。同ビザの申請料は約2500ドル(約28万円)、弁護士へ支払われる標準的な料金は1件当たり2000ドル、もしくはそれ以上だという。
費用増加と手間のせいで、雇用主が、とりわけジュニアレベルの仕事において外国人労働者の雇用を敬遠する可能性があると、移民弁護士は指摘する。
米国有数の移民弁護士事務所ベリー・アップルマン・アンド・レイデンのジェフリー・ゴルスキー弁護士によると、同事務所のクライアントである中規模テクノロジー企業は今年、USCISから1日に6通のRFEを受け取った。
同企業は2015年後半から2016年末にかけて、1件のH─1Bビザ申請を巡る、わずか1通のRFEしか受け取らなかったという。
(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)
*写真を更新しました。

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